FileⅢ.無の鞘
チュンチュンと鳥が鳴きながらグリーンタウンを横断していく。
淳「あれ・・・鳥?」
淳はボサボサになった髪の毛を手で抑えながら
外に出る。
─ブォンッ!!!
─ボォンッ!!!
風を切る音が聞こえる。
視線を向けると、鬼瓦が素振りをしていた。
淳「鬼瓦教官、おはようございます。」
鬼瓦「起きたか、馬鹿みたいに寝ていたな」
淳「まだ頭が痛いですよ。」
淳は二日酔いの症状に侵されていた。
デッキ部分に腰を下ろして、鬼瓦の素振りを眺める
鬼瓦はその後50回の素振りをこなし
汗をタオルで拭い、淳の隣に腰を下ろす
鬼瓦「俺はなこの世界に来て始めは絶望してたものだ
なにせ、誰もいない世界に送り込まれたように感じてな。」
淳「・・・今は違うんですか?」
鬼瓦「人の大切さを実感できた。」
「この世界を通してな、毎日嫌というほどの人数を見て来た環境が染みていたんだな」
淳「なるほど。」
淳はそういいながら街をじっと見つめた。
....ザッ
鬼瓦「淳・・・俺の後ろに居ろ。」
鬼瓦は微かな足音でも逃さずに聞き取り
淳を背中側に寄せて、剣を抜き取った。
建物の影から出てきたのは額から血を流した一人の女性
服は所々引きされたように破れており
二人の顔を見るとすぐさま気を失い倒れた。
....ドサッ
鬼瓦「!?」
鬼瓦が女性に近づこうとすると手首を掴みとめる淳
淳「待ってください!敵かもしれませんよ!?」
「どうするんです!?助けて攻撃されたら!」
鬼瓦「・・・だが、俺たちは人を守る役割があった
それはこの世界だろうと変わりはしない。」
淳「でも・・・」
─バチィッ!!!
淳を強く殴りつける鬼瓦
淳は叩きつけられたかのように地面に倒れる
鬼瓦「お前は、警備兵だろうが。
街を守り人々を守ってきた仕事に努めていた人間が
何故、救える命を見捨てようとするんだ?」
淳「・・・。」
鬼瓦「失望した!俺は!!!!
貴様をそんな兵士にさせるために俺はお前を鍛えたわけじゃないぞ!!!」
鬼瓦は淳に言葉を投げかけると倒れた女性を担いで
隣の民家に入っていく。
淳は口の中が切れたのか
流れていた血を拭い、民家から去るように歩き始めた。
『・・・フヒヒヒヒ、上手ソウ!!!』
その様子を影で見る、一人の男
淳は数分後、鬼瓦が入った民家から10分程度離れた場所にある
民家の庭のベンチで腰を下ろしていた
淳「なんなんだよ・・・こんな世界になった以上
敵には一番警戒しないといけないのに!」
ザッ!と砂を蹴ってストレスを露にする。
『おい・・・お前ェ。』
その後ろから淳を影で見ていた男が現れる。
淳は咄嗟に立ち上がって、距離を取り男を見る
淳「あれ・・・お前!
俺が訓練兵だったころ・・・居たよな?」
淳はその男の顔見知りだった。
『・・・あぁ?わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。』
淳「・・・確か、4区の警備兵じゃなかったか?」
『あぁ?まぁなんでもいいけど
女のように切り刻んでやるわぁ~』
淳「・・・おんな?」
一瞬考えた淳は、咄嗟に血だらけで倒れた女性を思い浮かばせた
淳「・・・お前がやったのか
警備兵ともあろうお前が!!!!」
淳は怒鳴りつけた、行き場のないため込んだ怒りをぶつけるように
『だったらなんだってんだぁ?』
淳「許さない・・・お前だけは!」
『だったら・・・実力で見せてくれぇ。』
ニタァと笑う瞬間
踏み込んだ勢いで素早く走り込み、淳の懐に入り込む刹那
腹部に一発入れて 怯んだ瞬間に
左手で淳の顔面を殴り
吹き飛ばす。
木柵をぶち壊して吹き飛んでいく淳
....ズザザザァアアッ!!!
淳「ガッハッ!」
『おいおい、今のも避けれねぇのかお前ェ。』
淳は口にたまった血を吐き出して、ゆっくりと立ち上がる。
男は躊躇なく立ち上がる淳の腹部に助走をつけた蹴りをお見舞いして
再び吹き飛ばしていく
....ズザザザァアア
淳「カッ─」
息が出来なく地面を転がりまわる淳を指さしてあざ笑う男
『いいねぇ!!!お前のその表情いいじゃねぇかぁ!』
淳「・・・くっそがっ。」
『アァ?』
淳「くそがって言ってんだよ!!!
わけわかんねぇよ!なんだ能力って意味不明だし!!!
イライラしてんだよこっちは!!!!」
『・・・ダァカァラァ?』
淳「警備兵のお前が、人を傷つけてどうするんだ!!
俺も言えたことじゃないし、それで怒られたのも事実だけど!!!」
『この世界では弱肉強食
弱いものが死んで強いものが生きる・・・そんな世界なんだわぁ。』
淳「・・・あっそう。」
「許さねぇ・・・絶対にぶっ飛ばす。」
淳は木柵をつぶして吹き飛ばされたその時に崩れた破片が地面に落ちていた。
その破片を手に持つ。
『おいおいおいおい・・・それでやろうってぇのぉ?』
淳「十分だ、生身の人間なら十分に痛みは与えられるだろ?」
口から流れる血を腕で拭い目つきを変えると
咄嗟に走り出す
『・・・人間・・・・・ねぇ。』
小言で呟くと男も立ち向かうように走っていく。
男は間合いに強めると、足を踏み込んで高く飛び上がる
淳「ッ!!!」
淳は急停止して頭上を見上げた。
『人間・・・そんなもんイタナァ???』
右肩から右手の指先まで黒い煙のようなものに覆われる
淳「なっ・・・能力!?」
『じゃあ、もういい
死ねよ』
パッ!と手のひらを見せつけるように淳に向けると
銃弾のように小さく 黒い弾が無数に放たれた
淳「─ッ!!!」
─ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
一発一発が淳の立っていた場所に打ち込まれて
砂煙を立たせていく。
『ギャハハハハハハハハハハッ!!!』
笑いながらも放出は続ける。
一分間にも渡る、連射は漸く止み
男はゆっくりと地面に足を突かせて着地する
『あぁ・・・やっぱだっせぇわぁ。』
砂煙が薄れると、腰を曲げて、左手を力をなくしたようにブラァと刺せながら
俯く淳の影が見える。
『!?』
一瞬自分の目を疑う男
淳「確認するが・・・お前は
もう・・・警備兵の頃のお前じゃないんだな。」
声を小刻みに震わせながら聞く。
淳はギロっと男を睨みつけた
額そして左肩から血を流していた淳
服も先ほどの女性のように所々引き裂かれたように破けていた。
『なんだ・・・お前
何が警備兵だ?わけのわからいことを言って!』
淳「それを聞けて良かったよ。」
淳は刀も刺さっていない鞘に手を添える
目を瞑り、大きく息を吐く
『あぁ?何も刺さってねぇぞ、鞘だけの飾りじゃねぇかぁ!』
淳「俺も、全力で戦う。
今その術を身につけた・・・お前を今解放してやる。」
『かぁいほぉう!?!?!?』
『プギャハハハハハハハハッ!!!!』
地面を転がりながら大笑いする男
淳は目を瞑り 再び大きく息を吐く。
その瞬間男は咄嗟に立ち上がった。
『なんだ・・・この冷たい風。』
冷たい気は何もない鞘の部分に集まっていく
徐々に彩りを増し
薄い水色の煙のようなものが鞘に集まっていた
『・・・!?』
淳「氷刀・・・!!!」
発した瞬間、何もなかった鞘には柄が現れ
柄を掴み、勢いくよく抜き取ると、奇麗な水色の刃をした刀を右手に構えた。
『ッ!?』
淳「鬼瓦さん・・・やっと」
「戦う意思を持てましたよ。」
『能力・・・?
情報によれば・・・お前は能力を持たなかったはずだ!』
淳「それは・・・前までの俺だ。
今は違う、そして俺の意思はお前のような報われない奴を
この世界から解放してやる・・・それが俺の意思だ」
『だが・・・所詮は素人!!!』
再び手のひらを向けて同じ攻撃を繰り出す。
淳はジグザグに一歩踏み込んで飛び跳ねながら移動する。
『ちょこまかちょこまかと!!!』
淳「・・・遅い。」
淳はすでに男を横切り、氷刀を薙ぎ払っていた
淳「解放。」
スパァと飛んでいく首。
淳の氷刀もいつの間にか形を無くしていた。
淳「もう・・・だめだっ」
淳はその場で気絶して庭で倒れてしまった。
....ドサッ