第一話「俺の名は。ーマサツグー」
目が覚めるとベッドの上に横たわっていた。上半身を起こして部屋の中を見渡すと見慣れないものがたくさんあった。アギトは裕福な家庭に転生したのだろうと考えた。
すると、神の声が聞こえた。「ようやく目が覚めたようだな。お前は、これからアギト・サクライではなく、桜井 正継として生きるのだ。」
アギトあらためマサツグは「転生したら何をすればよいか教えてくれると言っていたよな。俺は何をすればいいんだ?」神に尋ねた。過酷な試練が待ち構えていると思っていたので、傭兵としての暮らしていたときよりも裕福そうであり甚だ疑問に思っていたのである。
神は静かに語りかけた。「お前の最初の使命は、マサツグとしてこの世界での生活に慣れることだ。ここでの生活力に困ることがないように簡単な言葉の読み書きはできるようにしておいた。」
マサツグはやけに簡単な仕事であり、(何か裏があるのか?)と思ったが、神には見透かされているので率直に尋ねた。「本当にここでの生活になれれば良いんだな?」神は自信に溢れた口調で「もちろんだ。ただ、それだけではないぞ。最初の使命を果たせば次の使命が待っている。お前は17歳の高校生として、つまり高等学校に通うのだ。」
マサツグは驚いた。マサツグの世界では高等学校に通うのは、エリートのみであり、17歳という年齢で職を持つ方が当たり前だったからである。「本当に学校に通うんだな?」
神ははっきりとした態度で「その通りだ。お前は不安に思っているようだが、この世界では17歳で学校に通うことは珍しいことではなく、当たり前のことである。それではここでの生活に慣れてくれ。」と言った。その後何度か呼び掛けたが、返事はなかった。
すると足音が聞こえてきた。足音が近づく様子からここが建物の上層の階にあることがわかった。マサツグはいつ襲われて良いように身構えた。ドアの付近で足音が止まり、ドア越しに話しかけてきた。「今何か話しているような声が聞こえたけど、マサツグ起きているの?」こちらを心配するような女の声だった。
マサツグは声の主に敵意はないと感じると「ああ、起きているよ。」と応える。すると女は「ご飯はどうする?」と聞いてきた。とてもか細く、かき消されてしまいそうな声であったが、こちらを気にかけるのが伝わってきた。
マサツグは「ああ、食べるよ。」と言うと、女は勢いよくドアを開けて興奮した様子で目には涙を浮かべていた。年齢は40歳を過ぎているだろう中年の女性であった。その興奮気味な女の様子に警戒していると女は「や、やっと、話してくれたのね!!この部屋に籠ってから一度も会話してくれないから、母さんすごく心配していたのよ!で、でもマサツグがこうやってまた話してくれてすごく嬉しいわ!」
この女マサツグの母親であった。マサツグはこの母親あたる人物を労るように「母さん、心配かけてごめんよ。」声をかけるのであった。