第二章最終話 私日本で言うと天皇だよ!
「これで終わりだな」
「き、きりちゃん!」
姫燐と紅葉は魔王にささった剣から手を離し一緒に地面に降りた。
「そんな……」
その様子を見ていた少女は完全にやる気を失ったのか再び膝から崩れ落ちた。
一方魔王はと言うと、メデンがつきささったところから白い光を放ちチリと化している。
「チッ。いいとこだけ持っていきやがって」
紅葉の肩を借りながら4人の元へと戻ってくる姫燐。
鉄は少しばかり不満そうに顔を歪めていた。
「文句なら出来損ないの参謀とやらに言ってくれ」
「なっ!」
「確かに。さっきの汰空斗。珍しくミスってたね」
汰空斗は言葉を返せない。それをいいことに彩葉はさらに追い討ちをかけた。
「うるせ」
「まぁ、なにはともあれこれで一件落着だし、帰ろうか。早く服洗いたいし、シャワーも浴びたいし」
紫草蕾は跡形もなく消えた魔王を背に一人出口へと向かいだした。
「この二人はこのままでいいの? なんかちょっとまずくない?」
「ああ。とりあえず、城まで連れて行く」
汰空斗は面倒くさそうに吐き棄てると少年の元へと歩き出す。
外では厚い雲がどこかへと消えたのだろう、新しくできた入り口から入る光に6人は少しばかり目が眩んだのだった。
* 1 *
「はぁ。やっと終わったよ〜」
王城の門をくぐりながら紅葉は大きく体を伸ばした。
魔王討伐の翌日、6人は王城に呼ばれていた。
あの後兄妹を王城に連れて帰り、国王と魔王が手を組んでいたこと、国の兵士がアルラザードで操られていたことを全て話した。
すると兵士達からお礼を兼ねたパーティーを開くので翌日また来て欲しいと言われ足を運んでいたのだ。
「だね。でもまさか、紅葉が国王に推薦されるなんて思ってもみなかったよ」
「そうそう。しかも、それを断るなんて」
しかし、実際に訪れるとそれは新国王を祝うパーティーだった。
もちろん事前の説明などは全くなく、会場入り口で6人は完全に固まってしまった。そこでようやく事情を聞かされ、一応この集団のリーダーである紅葉を国王の座に座らせた。
そこで国宝の立派な王冠まで貰ったのだが、紅葉はすぐに国王としての最初の命令を下した。
国王の権利と責任と義務を全てこの国の兵士達に委託すると。
最初は猛反発を受けたが結果的には丸く収まった形で王城から出てこれたのだからよくやったものだ。
「断ったわけじゃないよ。ちゃんと一度は国王になったし。ただ……国王になるよりみんなと一緒にいる方が楽しいなって思ったからさ」
「あら、まぁ。可愛いこと言ってくれちゃって」
照れ隠しか、先頭を歩く紅葉は振り返らずに告げた。耳が赤くなっている紅葉に後ろから抱きつく彩葉。
「私もそう思うよ」
「ああ。私もだ」
そして、その横に姫燐も並んだ。男子3人はその様子を黙って見ているだけで何も口にはしなかった。
「ねぇ、汰空斗。ファジネピアに行く前にちょっとだけ観光しようよ。街も復興し始めてるみたいだし、服も買いたいし」
紅葉は王城で服を見繕って貰ったため一人だけどこか裕福に見える服装をしている。だが、それが気に入らないらしい。
一方街の中はちょっと視線をずらせばビルとビルの間にあった畑はコンクリートで上書きされ新たにビルを建てるのだろうか、骨組みが立ちつつある。
他にも奴隷制を廃止するとは聞いていたがそれもすぐに実行されたようだ。昨日まであったはずの奴隷小屋ももう跡形もない。
仕事が早いのはいいだろうが富豪や大富豪からは反発も大きかっただろうに。
「まぁ、だな。悪くないか」
昨日とは打って変わった空模様に汰空斗は目を細めながら空を仰いだ。
「あ! ねぇ、すごいよ。紫草蕾。この町Wi-Fi飛んでる! 久しぶりにブログ更新しないと。あ! そういえば、小説家になろうもだいぶ更新してないや! うわ。て言うか担当編集さんから電話とメールがすごく入ってる……」
「へぇ。さすが文明都市って感じだね。ブログって前言ってたあの?」
「そう! 私達の活動を報告してるやつ!」
その横で携帯片手に歩く彩葉はサラハイトに来る前と何も変わっていない。それにちゃんとした返事を返す紫草蕾もその傍らで罵り合っている鉄と姫燐も本当に何も変わらない。
「ふふっ。やっぱこうじゃないとね」
「あ? 何がだ?」
一人で急に笑った紅葉。汰空斗は不思議そうに紅葉を見ている。
「なんでもない。じゃあ、行こっか!」
紅葉はどこを目指してるでもなく走り出した。
「ちょ、待てよ! どこ行くんだ?」
鉄はその後を追って走り出した。
「私はどこでもいいぞ」
「僕はまず、昼食がいいな」
その後を追いかける姫燐と紫草蕾。
「なんで走るの? て言うか流石に走りながらじゃ携帯操作出来ないんだけど!」
一人だけどこか違うところを気にしている彩葉。
「おいおい……マジで走るのかよ。つうかどこ行くつもりだ? あいつ」
遠くなる5人の姿に呆れて頭をかいている汰空斗。
「何してるの、汰空斗。早く! まず服屋さん行きたいんだけどどこにあるの?」
先頭の紅葉が走りながら振り返って手を振っている。
「ったく、しょうがねぇな。ちょっと待ってろ!」
面倒くさそうに吐き棄てる言葉とは裏腹に笑っている汰空斗。
言うほど重たくもない足を動かし走り出すのだった。
* 2 *
「よし。んじゃ行くか」
汰空斗は振り返って告げた。
テレポート装置の前に立った6人。装置っと言うよりも何かのオブジェクトっと言った方がいいのかもしれない。
駅とかによく置いてある抽象彫刻的なあれだ。
「なんか寂しいねぇ。なんだかんだで2週間くらい滞在しちゃったし」
彩葉は後ろを振り返りシサント内を見渡した。
マナや魔法があるからか街の中はあっという間に文明都市と言えるくらいの町並みを取り戻している。
その見慣れた景色を少しばかり切なそうに見つめた彩葉。
「まぁ、悪くないところだったな。またいつか来るか」
王城を見つめながら呟く姫燐。
次シサントに来たとしてもまだ元国王は牢屋の向こう側だろう。姫燐もどこか切なげだ。
「そうだな。また来ないとあの兵士たちに面倒な難癖をつけられかねないしな」
っと言うのもなんだかんだで国王は紅葉だからだ。特になんの権限も持たないが国宝の王冠と肩書きだけはそのまま貰っていた。
返すと言ったのに受け取ってくれなかったのだからしょうがない。
「確かに。国王が留守って普通じゃありえないんじゃないかな?」
「別にいいじゃん。いても何も出来ないんだし」
「権限があっても何も出来ないだろうな。お前には象徴くらいがちょうどいい」
どうせ何かしらの権限があっても政治のことなどほとんどすべて汰空斗に押し付けて終わりそうだ。
正直、紅葉が国王で大丈夫なのか。
「象徴ってことはさ、私日本で言う天皇だよ! すごいじゃん! 私!」
「天皇侮辱してんのか。お前本当になにもするつもりないだろ。天皇も外交とか色々大変なんだぞ?」
「ま、まぁ。そんなことより早くファジネピアに行こうよ」
紅葉は汰空斗を完全にスルーしてモニュメントに手を伸ばした。
「ファジネピアへレッツゴー!」
「おい、話くらい聞け!」
紅葉が抽象彫刻に触れた途端真っ白い光が6人を包んだ。
思わず目を閉じ背ける汰空斗。
次に汰空斗の視界に入ってきたのは東京スカイツリーが数千分の1モデルにすら思えるくらい巨大な木の壁だった。




