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一般人六人で異世界無双するそうですよ!?  作者: 宴帝祭白松兎
第一章 始まりの都、ゼネシティ
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第一章第五話 えー!? なにこれ!? どうなってるのー!?


 「試合終了! ステージが半壊するほどの接戦を制したのは、今年もやはりこの二人! エイダ・アグリスとエイダ・マリネスの姉妹だ!」


 今にも崩れそうなステージの上、審判が会場のアナウンスに合わせて優勝した姉妹の手を高らかに掲げた。

 その瞬間、周囲は湧き上がる歓声で埋め尽くされた。


 「ちょっと待った!」


 その歓声さえも掻き消すは突然ステージに現れた最後にして最大の敵、海斗かいとだ。後ろには紅葉あかね姫燐きりんの姿も見える。


 「訂正要求する。正しくは、『今年の準優勝もエイダ姉妹』だ。なぜなら今年も来たからな──挑戦者が」


 唐突に現れた二人の挑戦者に会場のボルテージはさらに上昇。観客席でその様子を見守るてつ彩葉いろは紫草蕾しぐれはただただその迫力に圧倒されていた。


 「おーっと、まさか海斗さん直々に挑戦者を連れてくるという前代未聞の展開! 挑戦者はどうやら女性のようですが、お二人はどちら様ですか? 海斗さん」

 「この世界にやって来たばかりの紅葉と姫燐だ。昨日来たばかりだが腕は確かだ。俺が保証しよう」


 会場から驚きと期待の声が上がる。


 「昨日来たばかりだと? それじゃあろくにマナも扱えないだろ。ふざけるな! いくら海斗の推薦でもそんな試合、やるだけ無駄だ!」

 「アグリス。お前の言うこともよくわかる。だが、マナの扱いができなくてもお前らより強い。そう言ったら?」


 小麦色の肌で露出が多い服に身を包む比較的高身長の姉妹の姉、それがアグリスだ。紅葉を見下ろす彼女は、片唇を釣り上げた海斗の言葉に眉を曲げていた。


 「冗談にしても笑えませんよ? 海人さん。それはつまりこの大会に出場した全員より強い。そう言っているんですよ?」


 アグリスの隣、よく焼けた肌で姫燐を見上げる姉妹の妹、彼女の名前がマリネスだ。じっくりと姫燐を見つめ値踏みしているようだ。彼女は姉ほど露出がない服装を着ているが、それでも姫燐と同じくらい肌が見えている。


 「少なくともお前らよりは強い。それが分からない時点でな」

 「八ッ! 言ったな、海斗。その言葉、絶対訂正させてやるよ! 去年までの私達だと思ったら大間違いだぜ? どこの誰が相手だろうと今年の優勝は私達が頂く!」


 海斗の脳天をまっすぐ指し、アグリスは高らかに宣言した。客席からは応援と罵声の両方が飛び交い大盛り上がりだ。


 「どうやら、エイダ姉妹から承諾を得たようです。というわけで早速、決勝戦第二ラウンド! 挑戦者、紅葉姫燐ペアVSエイダ姉妹の試合を始めたいと思います!」


 またしても狂ったような歓声が飛び交った。それをステージで浴びながら、紅葉と姫燐は客席を見渡す。そこから見える景色は、この世界に来る前にも何度か経験していたものだ。

 思い出す。期待と熱気が客席から降り注ぎ、その想いに応えようと不安と緊張を握り潰していた。幾度となく立っているはずの大舞台でも、慣れなんてくるわけがなくて、鼓膜を揺らして止まない大迫力の叫び声にただただ圧倒されていた。その度に思えたのだ──今、ここに立っている。っと。

 あんなにも血沸いて肉踊っていた瞬間を、生を実感できたあの感覚を、再びここに立つまで忘れてしまっていた。失っていることにすら気が付かずにいた。それを思い出せたことだけでも、わざわざ異世界まで来た甲斐がある。

 紅葉は隣に立つ姫燐に視線を移した。同じように圧倒され言葉が出ず、されど確かに笑っている姫燐がそこにはいた。視線を感じ取った姫燐と目が合うが、互いにかける言葉はない。そこにあるのは、通じ合っているという確信だけだ。

 二人は同時に視線を逸らし、見つめるは目の前の相手のみ。


 「ここでルールを再確認しておきましょう。相手を戦闘不能にするか降参させる。あるいは場外で試合終了です。ステージの修復が済み次第、間もなく試合を開始します。海斗さんはステージから降りて勝者ペアとの対戦に備えててください」

 「ああ。了解した」


 半壊したステージを魔法で治している前を通りすぎ、海斗は紅葉と姫燐、二人の前で立ち止まった。


 「二人とも、準備はいいか?」

 「もちろんOK。いつでもいいよ!」

 「私も問題ない」


 試合の始まりを待ちきれない紅葉とは違って、姫燐は至って冷静なまま言葉を返した。その視線は鋭く、目の前に立っているマリネスを睨んだままだ。


 「ならいい。ところで紅葉、姫燐。昨日飯は食べたか?」

 「食べたよ? 焼き鮭と冷ややっこ!」

 「私も同じだ。それがどうかしたか?」


 突拍子もない海斗の発言で姫燐の視線がマリネスから外れる。


 「いや、一応確認したかっただけだ。あと言っておくことは一つ。思う存分暴れて来い!」


 すれ違いざまに二人の背中を叩いた海斗は、そのまま振り向くことなくステージから降りて行った。


 「あ、ああ。もとよりそのつもりなんだが……」


 客席へと向かっていく海斗の背中を見て放った、誰に向けたわけでもない言葉。それが空気に溶けてなくなった頃、ステージの修復もちょうど終わったようだった。


 「ステージの修復が済んだみたいです。両者準備はよろしいですね? それでは、試合開始!!」


 瞬間、湧き上がる歓声を切り裂くように四人は一斉に走り出した。



   *   1   *



 「あ、海斗。こっち!」


 アナウンスが試合開始を告げるその数秒前。客席に戻って来た海斗に彩葉は手を振った。試合開始と同時に彩葉の隣に腰を下ろした海斗。


 「ねぇ、海斗! マナってなーに!」


 観客の叫び声に消されないよう彩葉も叫んでいる。


 「マナは力の源だ! このサラハイトに転生した人間も含め、すべての人間が持っている!」

 「じゃあよ、マナを使いこなすってどういうことだ!?」

 「あれを見ろ!」


 海斗は三人に試合を見るように促した。

 三人が言われるままに視線をそらしたその瞬間、アグリスの手から火塊出現し、紅葉に向かって飛んで行った。紅葉はそれを飛び上がって避ける。それも数十メートルの高さまで飛んで。


 「えー!? なにこれ!? どうなってるのー!!」


 まるで無重力空間に放り出されたかのようにどんどんと真上に飛んでいく。自分でも何がどうなっているのかわかっていない様子だ。


 「な、なにあれ……?」


 彩葉は目を擦ったり、パタつかせて紅葉が飛んでいく様を見ていたが、何度見ようと状況は何も変わらない。 


 「あれがマナの力だ。人の体に潜在的に存在する力で、上手く使いこなせばアグリスのように魔法に変えることができる。しかし、うまく使えないと紅葉のように持て余すだけになってしまうんだ」


 50メートルは飛んだだろうか。最高点まで到達したようで、そこから真下に自由落下を開始する。


 「え? え!? えー!! 落ちるー!!」


 地球の物理法則に従って降りてきたとして、紅葉が地面に到達する瞬間の速さは約、秒速30メートル。どう考えても無事では済まない速度だ。


 「ねぇ、海斗。あれ大丈夫なの?」


 話の飛躍についていけないようで、友が遥か上空から落下しているにも関わらず、彩葉は他人事のようだ。


 「ああ、問題ない。マナは持っているだけで勝手に身体が強化されるんだ。跳躍、耐久、腕力その他もろもろすべてだ。多ければ多いほど体も丈夫になる」


 なす術もなく、紅葉はそのまま地面に叩きつけられた。衝撃で舞い上がる砂埃と振動がその衝突の強さを物語っていた。

 静まりかえる会場では海斗の声だけが響いている。


 「つまり──マナの多さがこそが、この世界においての強さになるということだ」


 宙を舞っていた砂塵がだんだんと晴れていく。そこに浮かび上がる小さな背丈の人影。

 ステージ中央に生み出したクレーターの、その中心。そこには紅葉が傷一つもないまま立っていた。


 「マナが原因で紅葉があんなに高く飛んだのはわかったよ。でも、今のはすごい方なのかい?」

 「ああ。すさまじい量のマナだ。マナの制御もまともに出来ない奴があんなに高く飛んだのは初めて見た」


 冷静な様子の海斗だが、内心ではどうなのだろうか。武者震いか、強く握った拳が微かに震えていた。


 「うわぁ……なんかすごかったぁ」


 紅葉は夢でも見ているかのような様子で怪我がないか自分の体をあちこちに確認している。


 「紅葉。大丈夫か?」


 姫燐がそこに駆け寄ってくる。


 「うん。大丈夫みたい」


 軽く飛んだり跳ねたり、腕を振ったりと体の調子を確認した。


 「なるほど。マナは結構持ってるみたいだな。使いこなせていないのがまるわかりだが」

 「姉さん、いくら使いこなせてなくてもあれは危険」

 「わかってる。油断はしねぇ。さっさと終らせるぞ」

 「了解」


 姉妹は一斉に駆け出した。


 「なぁ、海斗。マナを使いこなせれば彩葉と紫草蕾にも、紅葉みたいな動きが出来るようになるのか?」


 鉄は試合から視線を逸らすことなく尋ねた。

 ステージ上ではもう既に順応し始めた紅葉と姫燐に、エイダ姉妹が若干押されている。


 「ああ。数メートル飛ぶくらいならすぐに出来るようになるだろう。ただ、アグリスのような魔法が使えるのか、と聞かれればそれは違う。そもそもあれはマナを体の外に放出する、マジックと呼ばれる戦闘方法だ。それを含めマナを使った戦い方には3つある。一つは今説明した魔法として放出する、マジック。もう一つは、俺のエクスカリバーのように物にマナを移動させ攻撃する方法、エンチャント。最後が、今の紅葉と姫燐のように物理的な力として肉体に宿す方法、アタックだ。今はまだ使いこなせていないが、使いこなせるようになれば、さっきの倍の跳躍力が手に入るだろうな」


 海斗の視線の先で、姫燐が拳を振り上げる。振り下ろすと同時に踏み込んだ右足が地面を凹ませた。それによって姫燐はバランスを崩し、上手く拳を振り抜けなかった。


 「さっきの話からするに、アタックは全員が使えてマジックはそうとは限らない。そういうことかい?」

 「大体あっているが少し違うな。あの紅葉の跳躍はマナを持つものなら誰にでも出来るが、あれはアタックによるものではない。通常状態の飛躍だ。アタックは体内のマナをコントロールし、一部に集めたり分散させたりする戦闘方法で、使い方によっては通常状態よりもさらに威力を高めることができる。そしてそれはマジック同様、誰にでもできるわけではない」

 「ほぇー。なんとなーくわかったようなわからないようなだね。じゃあさ、アタックを使える人はマジックが使えないってこと?」

 「そういうわけではないが、使える人もいるな。だが、大多数のマジシャンはアタックを苦手とする傾向にある。逆もまた然り。だから基本はマジックとエンチャント、もしくはアタックとエンチャントの二パターンになることが多いな。言っておくが、二つ使える人なんてそうそういない。一つ習得するだけでも困難を極めるからな」

 「へぇー。なんかRPGやってるみたい。私は何使えるのかな? そもそもマナがちょっとしかなかったらどうしょう。本格的にお荷物まっしぐらな気が……」


 蒼白な表情で、すがるように海斗を見つめる。紅葉達の大事な試合にもかかわらず気が気でないようだ。


 「それはないな。今日俺がお前らを見つけたのは偶然じゃない。桁外れのマナを感知したからだ。彩葉、お前も含めた5人全員からな。マナはこの世界に来た時までのそいつの経験や才能、人柄など、言ってしまえばそいつの本質に左右される。正直お前らがそんな大物だとは思いもしなかったな」

 「え? そうなの? やったね! なら私、魔法使いになれるかもだね! あれ? でも昨日までこんな力なかったよね? なんで今はあるんだろう」

 「それはこの世界の食べ物を口にしたからだ。この世界の食べ物にはマナが入っているんだ。それを体内に取り入れることで、今まで使われていなかったマナが刺激され目覚める。だが昨日、紅葉が俺のエクスカリバーを避けたのを覚えているか? いくら潜在的にマナを持っていたとしても、マナが目覚めていない状況では捉えることさえ困難だ。あの時、紅葉だけマナが使えたのか?」


 昨日、コボルドの群れに襲われていた時、紅葉一人だけエクスカリバーの斬撃を目で捉え避けていた。それの話だ。


 「あー、あれか。あの少し前、紅葉だけコボルドから木の実を奪って食べたんだよ。だからきっと、そのせいだな。でもそのおかげで俺らはあんな集団に襲われていたわけだが」

 「道理でか。あの森の木の実にはマナを目覚めさせるほどのマナは蓄えられていない。だが食べれば一時的に少量のマナを得られ、エクスカリバーを捉えることは出来る。エクスカリバーを避けておきながら、コボルドを倒せなかったことにも合点がいくな」


 腕を組み頷いた海斗はそのあとすぐに立ち上がった。


 「どうしたの?」

 「もうすぐ紅葉と姫燐が勝つ。俺はそろそろ準備を始めるとしよう」


 深刻そうな声音とは裏腹に顔は確かに笑っていた。


 「久しぶりにまともな試合ができそうだ」


 呟いて客席を後にした。その傍らのステージ上では、紅葉がアグリスを、姫燐がマリネスを殴り、真逆の方向へと飛ばした。

 ありえない速度で飛んで行った姉妹は、ステージ外の民家の壁を幾度となく突き抜けた後、壁に埋まったまま反応がなくなってしまった。

 誰もの予想を覆し、紅葉は観客席にピースサインを掲げていた。


 「つ、強い……強いぞ、この二人! 去年から大会参加者の誰一人としてかなわなかったエイダ姉妹をいとも簡単に下し、このトーナメントを制したのは挑戦者、紅葉、姫燐ペアだ!」


 実況が勝利を告げると客席はたちまち大興奮。

 紅葉は歓声で埋め尽くされる客席に手を振っている。他方、姫燐は凛と立ち尽くしていた。


 「さて、次がいよいよ今年最後の試合です。決勝戦からの乱入でトーナメントを制した紅葉、姫燐ペアVSこの大会最強にして最後の宿敵辻海人! この大会を閉めるにふさわしい三名による対決は、休憩をはさんだ後すぐの午後2時、試合開始です。みなさんお見逃しなく!」


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