『彼女はあなたの何でしょうか?』II
「.........!?」
「.........」
ドアをガラガラっと閉めた。そして考える。
いま、明らかに女子生徒一人だけが教室にいた。その子は机に擦り付いていた。そして間違いなければその子は俺の机でご満悦に...。
ありえない、と思いつつつまんだ目頭の手を放して再度あけた。
「......こんにちわ。」
「...こんにちは。」
先ほどとは真逆に、夕焼けに似合うたたずまいで、「華鉄 三波」はお淑やかに笑みを見せていた。
「あ、のさ...今のは見間違いであってる?」
「...はい♪」
自爆していることに気付いているのかいないのか、華鉄は肯定した。無論、本当にそんなことが有ったのか無かったのかは、証拠がなければ分かるまいが...
「あ、俺ノート取りに来たんだった...」
そう言って机に近づき、ノートを取り出す。液らしきものが机に見えた気がするけど、たぶん雨漏りだろうと言い聞かせた。
「じ、じゃあ失礼するよ。」
「フフ、変な人。」
「.........。」
ひとまず息を吸ってはいて、ノートをカバンに入れた。
「じ、じゃあ、また明日。」
「あの、待ってください。」
足を反転させて逃げるように出るつもりだったのだが、腕の端をつかまれてうまく進めなくなった
「え、え~っと、僕になんか用ですか?」
あまりのことに、俺の一人称がぶれた。
「あ、あのその、わ、私と!」
そして彼女の顔は赤くなりすぎてゆでだこ状態で—————
「みーつけた☆」
「! 避けろ華鉄!!」
彼女は振り向く前に腕を引いた。
「え?」
半信半疑の華鉄は抱かれる形に、そのまま後ろに倒れた。気のせいか彼女が熱かった。
対して、三階のはずの窓を割って入ってきた人に緊張を覚える。
正直謝るべきかもしれないけど、謝る時間がなく、すぐに立ち上がって走った。
「え、ええ?」
「いいから走れ!追ってきているからもっと!!」
後ろからはガラスの破片をつけながら廊下を走って追ってくる人影が見える。道もそんなにないため、捕まるのは時間の問題だった。
「...ごめん」
「え...きゃーーーー!!」
俺は彼女を抱きかかえて窓を割って外に落ちた。
「...死んでねえのが不思議だ。」
運が良くてか悪くてか、木の上で落ちてそのまま落下し、減速去ったまま地面に落ちた。だが同時に背中は打った、少しだけど。
「だ、大丈夫か?」
「え、ええ。まだ理解ができませんが、ありがとうございました。」
と顔をのぞかせる華鉄に尋ねた。見た感じは本当に別状ないようだった。
「あいつは?」
「わ、わかりませんが、ひとまずは先生がこちらに来てますので大丈夫でしょう。」
「ならよかった。」
同時に近くにいた教師とその部員たちが来たので安堵した。しかし、同時に危機的なものを感じた。
あれは明らかに三日前のフードだった。体形もほぼ一緒で、持っていたナイフも何となく似ている。
同一だと分かったため警察のところに行った時に分かったけど、実は捕まってすらいなかった。話によると、例の十字路に行ったときにナイフを持ったフードの人はまだ横になっていたものの、手錠をかける寸前で目を覚まし、押収するつもりで持っていたナイフを奪って逃走されたらしく、現在も捜索しているらしい。
それから三日後の今日、やつは再び姿を現した、というわけで警察の警備のもとで華鉄は家路についた。対して俺も護衛付きでかえることとなった。一応疑われていたので護衛は断らなかった。
『めしこれーー?』
「文句あるなら食うな、俺の食費だぞ!」
居候たちはただ飯に不服の意見をこぼす。確かに今日はレパートリーが少ない。食材が底を尽きていて外を出歩けないのが理由だったが、さすがにイラッとくる。ご飯と納豆卵に何が不服か!
「てか働いてこいよ、暇人ども。」
「いや、実体ないし。」
「じゃあ飯食うな。」
「今日の飯もおいしいな~。」
「そうだな~。」
「まったくだな~。」
「.........はぁ」
三日前のことだった。俺は家に帰ると複数の人がいた。その人たちは共通していることが三つあった。一つは実体がないこと、一つが似たような目的を持つこと、そして一つが...言動も服装も趣味も違うが『結』ということだった。
彼らの話を基に考えると世界は複数も存在し、その中には必ず自分に似た人物が存在すること。一番身近なら『祖先』や『前世』といったものだろう。いい意味で言い換えるなら、この居候たちは俺の「もしかしたらそうなっていたという『可能性』」なのだ。
居候メンバーは名前が一緒なものもいるけど違うやつもいる。
メンバー紹介を一覧にして話すと—————
・とある剣を引き抜くことができた騎士王
・魔法の世界で最上位魔法を手に入れた魔道師
・科学の画期的発明をした科学者
・十の超常現象を操る超能力者
・格闘界のトップを手にした格闘家
・英雄として称えられて見事魔王を打ち取った勇者
・対して王道壊して勇者を滅ぼした魔王
・大きな宿命を背負ってやってきた未来人
・無事友好関係を気付いた宇宙人との懸け橋
今の地点で居候しているのはこの9人だ。頭が痛くなるというより、同じ顔で言うからこその恥ずかしさが俺を苦しめる。
しかし現状、ただ飯くらいなため威厳も名誉も何もない屑だ。まさかこんな偉人が家事全般をできないとかしたくないとか言い出すとは思わなかった。さすが可能性、しかし可能性、しょせん可能性、屑可能性……
ため息をつきながら、ふと思い立って飯前に捜した写真を見つめる。二枚あって、一枚は両親との五歳のころの写真だった。
親は俺が五歳の時に事故にあって、そのまま帰らぬ人となった。運よくか俺は生きていたが、そもそも俺が原因の一つで––––
対してもう一つは、くすんでいてよくわからないものの、誰かとツーショットで撮った俺の写真だ。どうしてかそのもう一人だけは削られたかのように記憶ごと消えていてよく分からない。
「ん、この写真見ていいか?」
早めに食べ終わった科学者が一つの写真集をかざす
「あ、それは俺の小学校の時のだ。別に減るもんじゃないが、なぜ?」
「いや何、もしかしたら知人が載っているかもしれんからな。」
「別の時間の俺がか?」
「分からないもんさ。なんせこの事態がまずありえないことなのだから、もしかすると巡り合わせはあるかもね。」
「そんなもんか。」
俺はなんとなく納得して二枚の写真を手から離し、ちょうど空いた席に座って食べる。
「あ、俺も見るぜ。」
「あ、僕も。」
「俺も俺も。」
続々と人様のアルバムを見ている。彼らはなんか懐かしんでいる。まあ自分の別世界の歴史だからな、一応顔もそのままなのだろう。
「うわ、俺こんなにくたらしくねえぞ。」
「はあ?こんなカッコつけてない奴がもう一人の俺か?」
「テメェら喧嘩売ってるだろ!?」
あまりに自分がボロクソ言われてムカついた俺は奴らを追い出しにかかろうとしたが––––
『……いた』
「………はあ?」
彼らは完全に表情が変わっていた。そして涙が落ちていた。
「お、おい。まさか本当にあったのか?」
その問いに、代表して科学者が答えた。
「……いた、確かに少し幼さがあるが、見間違えない」
「いや、まあ小学生だけどさ……で、だれ?」
俺はさすがに気になっていたため、指差してもらった方に目を向けた。
しかしそれは、例の2枚目で相手など分からない。
「なんだよ、こんな破れ写真に幽霊でも写っているのか?」
しかし彼らも俺を不思議そうに見た。
「いや、この子だって。」
科学者が指差すのはやはり霞んだ子供だった。
何か相談した並行世界どもは、ある結論を述べた。
「いや、君の目では何が見えるか分からないが、少なくとも君以外ははっきり見えるぞ?」
「へー、どんな顔かわかるか?」
それに対し、科学者は困った顔をした。
「教えるのはそう難しくない。が、お前に見えないのであればそれには理由があるはずだ。だから教えられない。」
「そうか、じゃあいいや。」
特にそこまで興味はなかったため、こちらもそれ以上は聞かなかった。