確率論
どうぞよろしくお願い致します。
二分の一足す二分の一は一である。小学生でもわかる数式だ。
ただ、前提が間違っていては、話にならない。つまり、そういう話だ。
「コイントスは公平か?」
「どうしたの千歳、君がそんな当たり前のことを言うなんて」
わたしの呟きを拾った秋空はいつも通りのにやにやした表情だ。
「秋空は確率論はあまり好きじゃないイメージがあったけど?」
その様子だとそうでもなさそうなのか。
「テストとしての確率の分野は得意だよ、ありがたいことにね。うーん、確率論はいかにも数学って感じがして、好きか嫌いかで言えば好きだよ。僕は嫌いそうに見えた?」
「秋空なら、コインが表、裏の他にも起こることがあるじゃないですか、たとえば今ここで酸素が急になくなったらどうするんですか、って先生に文句言ってそうだなって」
「あははは、それは確かに僕なら言いそうだね!うん、言いそうだ」
いつもの笑みをさらに深めて、何度も頷く秋空は、どうやらわたしの言葉に納得したようだ。
「でもさ、それを言うならコインを投げるだけで色々な可能性が生まれてくるわけだろう?そのなかで僕達が出会えたのは何分の何の確率なんだろうね」
確かに、それはそうだとわたしは納得した。
普段気がつかないけれど、おそらくこれは奇跡に近い。
秋空がわたしに尋ねる。
「僕達が出会えた確率について定義するかい?」
「それをするには、わたしの人生は短すぎるよ」
それを定義するにはまずはこの世に起こる事象の定義から始めなければならない。分母が決まらないなら、確率は成り立たない。
「奇跡なら奇跡と素直に受け止めるよ。わたしは身近にあるものの定義をしたいだけだからね」
千歳らしいと笑っている彼に向けて、もう1つ続けた。
「だから、この奇跡を失くさないように、よろしくね、秋空」
お題 『コイントスは公平か?』
読んでいただきありがとうございました。