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I'm a stone

どうぞよろしくお願い致します。

唐突に彼女は呟いた。いや、彼女が喋るときはいつだって唐突な感じがするけれども。とにかく、彼女は呟いた。

「石には、意思があるんだろうか」

一瞬僕は不覚にも漢字変換ができなくて、ああ、ストーンに、インテンションねと思ったときには彼女はこちらを向いていた。

「秋空は、どう思う?」

珍しく、本当に珍しく、彼女、千歳明は自分の意見を言う前に僕に意見を求めてきた。

だから僕は思考をまとめ、口を開いた。

「そうだね、まず第一に僕たちは哲学者じゃない。答えがない問いに答えを求めることは不可能だ。それを踏まえて僕は、石には意思が無いと思う」

この返答が意外だったのか、千歳の表情がすこし驚いたものになる。どうやら現実主義者では無いと思われていたらしい。まあ実際僕は現実主義者では無い。ただ、無機物に意思があるという考えは、僕の意思にそぐわない。

「ハッピーエンドは好きだけど、別に僕はメルヘン脳じゃないからさ。まあ石に意思があるイコールメルヘン、ではないのかもしれないけどね」

「なるほど、ありがとう」

いつもの無表情で頷き、それきり口を閉ざした千歳に僕は不思議に思った。

千歳が自論を語らないなんて珍しいこともあるもんだ。言いたくないなら言わなくてもいいけど。僕は目の前のペーパーバックに意識を切り替える、

「わたしは、石に意思があってもいいと思うんだ」

ことができなかった。

それこそ意外だ。千歳が〜でもいいと思うなんて曖昧な表現を使うなんて。いつも断定的な、まるで教科書みたいな喋り方をする千歳が。

「意外だと思った?わたしも意外だと思う。自分でもなぜそう思ったのかよくわからないけど、おそらく、わたしは自分の意思を上手く表せなくて、道端の石にも意思があったなら、その意思はわからないから、わたしの意思表示が下手くそなのも、同じようなことで、うん、ごめん、秋空」

千歳の困ったような顔は見たくない。いつも見ている無表情よりかはそりゃ人間味があるけれど、僕の前でくらいは困った顔をさせたくないじゃないか。僕はペーパーバックを机に置いた。

「僕は千歳ほどわかりやすい人はいないと思ってるよ。はっきりと意思を口に出してくれる人は大好きだしね。楽しいなら笑えばいい?いやいや素直に楽しいって口にすればいい。僕はそう思うよ。千歳はもう少し笑ってくれてもいいけどね」

そう言って僕はさらに笑みを深くする。きっと千歳は意思を全部口にしてしまうから表情に出ない。その性格で困らない高校生はレアケースだろう。

「僕は千歳の意思はちゃんとわかるよ。仮に石に意思があるないで意見が分かれてもね」

「なんだかその表情に嫌悪を感じるから殴ってもいい?」

ドヤ顔をしたら殴ると言われたけどこっちの方がいつもの千歳らしい。下手くそでもいい、わからなくてもいい、とりあえず、意思を伝えて欲しい。

「大丈夫だよ、今に僕が笑わせてあげるからね」

「…わかった、待ってる」

うん、待っていて。下手くそな石みたいな意思の君を、笑顔にできるよう、僕も笑うから。

お題 『下手くそな石』

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