公募ガイド「小説虎の穴」第19回 『ぼくの一日』
第19回課題
動物のいる小説(動物が主人公または動物がテーマの話)
「ぼくの一日」 あべせつ
ぼくの一日は朝の運動から始まる。まだ日の昇らぬ明け方の3時半。
まず『おとうちゃん』のところに行き、ベッドに飛び乗る。
おとうちゃんは、ぐっすり寝ているが、そんなことは知ったこっちゃない。
ベッドサイドボードの上に乗り、おとうちゃんの頭を軽くたたく。ここまでは恩情主義でやっている。
しかし、熟睡しているおとうちゃんは、こんなことでは起きない。
ゆえに次は爪をたて、おでこを軽く引っかいてやる。
『なにしてんの!』とおとうちゃんが大阪弁で怒りながら、ようやく目を覚ます。
そこで今度はおとうちゃんの足元に行って乗り、どんどんと跳ねて催促をする。
すると、おとうちゃんは足を曲げたり伸ばしたりしてギッコンバッタン遊びをしてくれる。
ぼくはこのシーソーのように揺れる足の上に乗る遊びが、大好きだ。
毎朝毎朝この5年間、これをやってもらっている。今ではおとうちゃんも心得たもんで、起こせば自動的にやってくれるようになった。
ここまでおとうちゃんを仕込むのに半年はかかったかなと思う。20分ほど遊んでもらうと朝の運動はこれで終わりだ。
今度は家中をくまなく探検する。お気に入りの場所があるのだが、お兄ちゃんやお姉ちゃんに盗られてしまうことがあるので、ぼくの場所だとわかるように、あちこちにオシッコをかけておくのだ。大事な仕事なのに、なぜだかおとうちゃんに叱られる。まあ叱られても、ぼくは止めないが。
6時になると待ちに待った朝ごはんだ。今度は『おかあちゃん』を起こしに行く。おかあちゃんは、おとうちゃんみたいに、すぐには起きないので、ぼくも大変だ。まずは、おとうちゃんの時のように、おでこを叩いてみるが、おかあちゃんは頭から布団をかぶってしまうので、そんなことでは全然だめである。
次におかあちゃんの枕元にあるタンスに飛び乗る。そこから、おかあちゃんのお腹をめがけて、ジャーンプ!
おかあちゃんは「グエッ」と言ってようやく起き上がる。こうしないと起きないなんて、
ほんとに、ぼくは苦労するよ。
さあ、いよいよ朝ごはんの時間だ。
カリカリしたのはあんまり好きではないが、上に乗っている缶詰がうまい。だから、さっさと自分の分を食べてしまうと、となりのお皿からもちょっと失敬する。お兄ちゃんは優しいから、ぼくにも分けてくれるがお姉ちゃんは気性が荒いので頭を叩かれ怒鳴られてしまう。こんなにきつくてお嫁に行けるんだろうかと、ぼくは心配している。
満腹すると、次はお散歩の時間だ。家の周りをぐるりと回るのが、ぼくの日課だ。
外に出るのはすごく楽しい。
ぼくのうちのお隣さんはお庭が広くて、大きな柿の木がある。ぼくは、この木に登って遊ぶのが大好きだ。初めは高いとこに登るのは怖かったんだけど、お兄ちゃんが一緒に来て「こうやるんだよ」って教えてくれたから、ぼくもできるようになったんだよ。
この木に登ると色んなお友達に出会えるんだ。からすさんもいたし、虫さんもいるし、とかげさんもいる。去年の夏にはせみさんが、すごくいっぱいいて、びっくりしたよ。
あっそうそう。この前は小さな小鳥さんがいて、ぼくの顔を見るなり「追いかけごっこしよう」って、いきなり逃げ出したから、ぼくもすぐに追いかけて「つーかまえーた」って抱っこしたら、急にきゅーっと動かなくなったんだ。ぼくはびっくりして叩いたり転がしたりして起こそうとしたんだけど、全然起きなくなっちゃった。よっぼと疲れてたのかなあ?
仕方がないから、小鳥さんをそこに寝かしたまま、ぼくはまた散歩にでかけたよ。
三軒となりのおうちには、緑色の目をしていて、銀色のふさふさした長い毛に赤いリボンがよく似合うすごい美人のお姉さんがいるんだけど、いつもつんとしていて、ぼくになんか目もくれない。ぼくがもう少し大きくなったら、お友達になりたいなあ。
散歩が済んだらおうちに帰って、お昼寝の時間。次に起きるのは夕方の御飯の時かな。
それまではお気に入りの場所でゆっくり眠る。晩御飯の時には起こされるけど、夕飯が済んだらもう一度寝るんだ。夜中にチビタ兄ちゃんやチョビ姉ちゃんとの楽しい楽しい追いかけごっこがあるから体力をためとかなきゃね。
ああなんて楽しい毎日だにゃあ。