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いつか陛下に愛を2の後  作者: 朝野りょう
いつか陛下に愛を(王宮の秘宝)編
33/37

■25話■陛下の看病

 目を開いた時、私は王宮の自分の寝台の上だった。


「王妃様っ、お目覚めになられたのですね!?」

「リリア?」


 頭の右側がジンジンするというかドクドクしているというか。ものすごく痛くてたまらない。

 なんで? どうして?

 神殿の奥で落とし穴みたいなのに落されて、陛下が助けに来たと思ったんだけど。

 それから、どうなったんだっけ?


「神殿はどうなったの?」

「王妃様、どうか動かないでください。すぐ陛下が来てくださいます。事情はまた後で説明いたしますので、今はお休みになってください」


 陛下が……?

 頭が痛くて、全身が痛くて、あまり考えることができない。

 とりあえず陛下が来て説明してくれるということらしいけど。痛み止めが欲しい。


「ナファフィステア、気がついたのか! 気分はどうだ?」

「頭が、痛いわ」


 陛下が寝台の横に腰をおろし、私の顔をのぞき込んできた。


「傷は大きいのだ。しばらくは痛む。動くでない。ナファフィステアに薬は飲ませたのか?」

「今、お持ちいたします」


 侍女リリアが女官に薬を持ってくるように言いつけている。痛み止めを飲めば楽になれるはず。

 それにしても、どうしてこんなに頭が痛いんだろう。頭だけじゃなく、身体のあちこちもちょっと動いただけですごく痛い。

 陛下は、傷が大きいとか言った? 私、怪我なんてしたっけ?


「私、どうしたの?」

「神殿の奥で床下に落され、その時、傷を負ったのだ」


 神殿で床下に落された。そうだ、私を騎士クオートが庇って……。

 あの暗闇を思い返すと恐怖まで蘇ってきそうだった。

 あの後、どうなったのか、皆は大丈夫なのかと尋ねようと首を動かすと。


「うっ」

「動くでないと言っておろう。頭を切っているのだ。触れるでない」


 抉るような激痛が頭に刺さる。こんなにちょっと動いただけで痛むほどの怪我をしていたとは思わなかった。

 あの時はそれだけ必死だったということなんだろう。


「起こすぞ」


 そういうと陛下は私の首の後ろに腕をまわし、自分の胸にもたせかけるようにして私の身体をゆっくりと起こした。そして、侍女リリアからカップを受け取り、私の口元まで運ぶ。

 陛下が、看病? 陛下が?


「薬だ、飲め」

「自分で飲めるわ」

「動くでない。傷に触る」

「大丈夫よ、ちょっとくらい」

「口移しで飲まされたいのか?」

「……それは、嫌……」

「ならばさっさと飲め」


 カップに手を添えてみたけど、私に渡してはくれない。しかたなく陛下の手に持っているままでカップに口を付けた。

 うええっ、苦っ、まずっ、おえっ。しかもジャリジャリして口の中が気持ち悪い。

 それでもって頭が揺れるからめまいはするわ、痛みが激しくなるわで最低最悪だった。涙目になる。


「もういい」

「まだ残っているではないか。全部飲まぬか」

「半分飲んだから、もういい。いらないわ」

「ならぬ。子供みたいな駄々をこねるでない」

「ううっ」


 陛下はこの味がわからないからそう言えるんだろうけど。これは本当に不味いのだ。人の口に入れていいものではないと思う。

 良薬口に苦し? いやいや、それにもほどがあると思う。特に、じゃり、は駄目でしょ。じゃり、は。

 口に押し付けられるカップをムッと閉じた唇で拒否った。顎でカップのふちを押しやり、嫌だと抵抗してると、陛下はカップを遠ざけた。

 よしよし、わかってくれたのね。

 そう思っていると。

 陛下の顔が近付いてきて。

 ん?

 陛下はいきなり唇を重ねてきた。軽くかと思えば、そのまま口内に侵入した陛下は私の舌にからめて……。陛下、これって……。


「確かに苦いが……飲めぬものでもなかろう」


 しばらく唇を合わせた後、そう言って陛下は私の額に唇を落した。

 えぇ……あぁ……うぅん、まあ、そうかもしれないけど、さぁ……だからぁ……。

 再び私の口にカップのふちが当てられた。

 飲めってことよね。飲まないと……。

 うーんと悩んだけれども、結局、私は抵抗を諦めて残りを飲むことにした。次は本当に口移しで飲まされそうだったので。

 でも、何だろう。何かが釈然としない。むううっとむくれてみても、飲まなければならない結果はかわらない。ここは負けを認めよう。

 ズズッと嫌々ながら少し飲む。不味い。


「ヴィルはどうしてる?」

「今、ジェイナスが来て相手をしている。ジェイナスに子守ができるとは思わなかった」

「ふふっ。ちょっと歳は離れているけど、お兄さんになってくれると嬉しいわね」


 会話で引き伸ばしをはかっても薬を逃れるのは許されず、最後まで飲まされた私はカップを手で押しやった。

 まだ、じゃり、がちょっと残ってるけどもういいでしょ。もう液ないし。もういらないし。少しでも残そうとする姑息な私。

 陛下は薬がほとんど残っていないのを確認してからカップをリリアに渡した。それを目で追いながら、陛下がその場を一向に動こうとしないのを不思議に思った。


「陛下、お仕事、忙しいんじゃないの?」

「仕事はない」

「ふうん?」


 何だろう。色々と聞かなきゃいけないこととか考えなくてはいけないことがあるはずだし、陛下が忙しくないはずはないなんだけど。

 陛下は私を胸にもたせかけたままで、ゆるゆると私の髪を手ですいている。本当に陛下は黒髪が好きらしい。肩くらいまでになったから残念に思っているに違いない。

 のんびりこうしていると頭の痛みも薄れてくるような気がする。


「陛下、ここにいるの?」

「そうだ」

「そう」


 陛下の腕の中でゆっくりと睡魔がやってくる。眠いのは痛み止め薬を飲んだからなのかと思ったのは眠りに落ちる直前のことだった。まだ何がどうなったのか全然聞けてないのに。

 陛下の手が髪を梳くのを感じながら、瞼が持ち上げられなくなる。瞼の中の暗闇はあの閉じられた暗闇に続く気がした。温かい今が消えて、またあの闇に囲まれる。そんな不安が闇とともに襲い来る。逃げようと足掻いていると手が掴まれた。

 何かが聞こえてくる。しっかりと私の手を握り返す大きな手、伝わる体温、陛下の匂い。ただ短く、眠れ、とだけ告げる声に私は安心する。大きな身体に抱きしめられて、少し窮屈。でも、これが陛下。帰ってきた、陛下。遠慮するようではなく探るようにでなく、陛下は少し窮屈な抱きしめ方をする。窮屈だと私が伝えないから陛下はきっと知らないだろう。

 眠っても、大丈夫。陛下は私を迎えに来るのだから。


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