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いつか陛下に愛を2の後  作者: 朝野りょう
いつか陛下に愛を(王宮の秘宝)編
24/37

■16話■娘の手紙

 私達は彼女の勧めに従い、神殿を後にした。

 あの神殿に何かあるとわかったものの、私を危険に晒すわけにはいかないと騎士ボルグが判断したのだ。

 騎士ボルグとウルガンがついているとはいっても、彼等も騎士姿ではない。許可を得た騎士以外に大型の剣や槍などの武器を持つことは禁じられている。だから、短剣は持っていてもそれでは武装的には不十分なのだろう。


「あの娘が騎士セイルに渡して欲しいといっていた手紙、確認なさいますか?」

「ああ、騎士セイルに渡してあげて。恋人か何かかしらね」

「……」


 違う? 違うって?

 そりゃ、何が書いてあるのかなぁって私も気になるわよ?

 彼女は自分が手紙を出すのではなく、騎士ボルグに直接手渡した。それは、自分が出そうとすると騎士セイルにその手紙が渡らないだろうと彼女が思っているからで。

 あの神殿の神官長を警戒している風だったし、神殿には何かあるんだろうし。騎士セイルに助けを求めて手紙を出したのかななんて思うけど。

 他人の手紙を勝手に読むわけにはいかないでしょ。


「早く届けてあげて。で、騎士セイルに神殿や神官長について知っていることがないか聞いてみて」


 神官見習いだと将来は神官になるわけで。彼女は結婚しないで神に一生を捧げる、と。じゃ、騎士セイルは振られたのかな。とか私はボケたことを考えていたけど。

 ボルグは騎士セイルを連れて戻ってきた。

 手紙とともに。





「エテル・オト神殿の神官達は神官長に操られている可能性があります」


 あ、そう。

 必死の形相で私へ訴えようとしている騎士セイルに、私はそんな反応しか返せなかった。

 そんな結論を先に出されても。一から説明してくれないと話が見えなくて訳わかるわけないじゃない?

 私はセイル青年を前に首をかしげた。

 騎士セイルは王宮警護騎士の一人らしく騎士姿が様になっている。私の怪しい年齢判断はさておき、新人騎士というわけでもなく貫禄があるほどでもなく。しかし、見た目はなかなかの好青年だ。さらさら金髪で青い目ですらりとした長身に整った顔立ち。品もある。いいとこの息子って感じ。しかも表情にはちょっとした人懐っこさも滲んでいて。これはイケメンというやつかもしれない。

 ふむふむと私が騎士セイルを観察している内に、騎士ボルグに促され、彼は説明をはじめた。


 騎士セイルは二か月ほど前に陛下の命令で喋る仔犬の捕獲任務にあたったのだという。

 そこで仔犬を捕獲したものの、我儘な仔犬はウェスのパンが食べられなくなるから何処にもいかないと抵抗した。そのウェスがエテル・オト神殿にいた神官見習いの娘ウェス・コルトンだ。

 その仔犬の抵抗とは、恐ろしい事に森にいた肉食獣たちに彼等を食べるように命じることだった。仔犬の肉食獣の言葉らしき一声で肉食獣の群れがわらわらと涎を垂らして集まってきて彼等を取り囲んだ。

 ペラペラと喋る仔犬はそれだけで既に常軌を逸した存在であり、肉食獣が仔犬の指示に従うなんておかしいなどと常識を持ち出す者はいなかった。陛下が捕獲を命じた仔犬は、そういう特殊な存在なのだと実感した。

 結局、彼等はその娘にパンを焼いてもらい、そのパンと娘で釣って王都へと仔犬を連れて行くという手段をとった。仔犬は本当にパンと娘が好きだったらしく、始終文句を垂れ流しながらも捕獲されていてくれた。が、仔犬の存在に馬が怯えるので馬での移動はできず、騎士が交代で仔犬を背負って走るという過酷な移動だったらしい。

 仔犬と娘を連れて王都のそばにまで到着した頃、まんまと仔犬に逃げられてしまった。娘には王都は臭い神殿があるから行きたくないと言い残したという。

 仔犬に逃げられ、王に何と言い訳するべきかと考えているところへ陛下から仔犬を解放してよいとの連絡を受け、ホッとしたらしい。

 しかし、仔犬を釣るために王都へ連れて来た娘は、元の町に戻ってもすでに職はなく。騎士セイルは娘をエテル・オト神殿で働けるよう世話をした。エテル・オト神殿に祀られている故王妃が仔犬の王妃と呼ばれている事もあり、喋る仔犬に好かれていた娘にはこの神殿が相応しいと考えたのだ。

 神官見習いとは大半が神殿での下働きのことらしい。労働に対する報酬は安いが、娘の働き先としては非常に好まれるのだとか。

 娘はいい働き場所を得たと嬉しそうに神殿に入った。しかし、その後の連絡が一切取れず騎士セイルは心配していたらしい。

 騎士セイルもいい歳の男性だし、神殿で働いている若い娘から返事が返ってこないからと返事を催促するのも、神殿へ出向くのも戸惑われ、二か月が過ぎ。

 今日、騎士ボルグから手紙を受け取ったのだという。


 娘の手紙には、小さな紙なので内容は少なかったが、神官長が緑色の炎を使った特殊な術で神官達を操っていると書かれていた。そして、娘は神官長の術にかからないため、神殿から出られないよう常に見張りがついているので出ることも、連絡することもできなかった、と。


「じゃあ、あの神殿の神官はみんな操られているってこと?」

「そのようです」


 何度も同じ言葉しか繰り返さなかった人形のような神官は神官長に怪しげな術をかけられていたということになる。言われてみれば、そんな感じだったかもしれない。

 神官長の術とは催眠術のようなものだろうか。そんな術を持った人がはびこる怪しい神殿だったなんて。

 それに彼女だけかからない? 催眠術ってそんなに誰でもかかるもの?

 もしかしたら、神殿を訪ねた陛下や騎士達にも、術を、かけた?


「彼女は術にかからず捕えられているってことは、神官長の術にかからない人は少ないってこと?」

「彼女以外には一人もいなかった、と。だから、殺されずに済んでいるのではないかと書かれていました。神官長が彼女に対して何度か術をかけようとしているらしく、少しかかったふりをしているそうですが。全く術にかからないと知られれば、いずれ殺されると思っているようです」


 彼女以外は皆、術にかかった。

 ほぼ百パーセントの確率で催眠術がかけられる方法があるのだろうか。

 陛下に術をかけるなら、陛下だけでなく騎士三人も同時に催眠術にかけなければならなかったはずだけど。

 それが可能であるとするならば。

 陛下に術をかけようと思うかもしれない。陛下が神殿を訪れた理由が神官長には都合の悪いことで、それを消したかったのなら。

 その結果、陛下に私の記憶がない?

 陛下が神殿を訪れた理由に私が関係しているということ?

 でも、さすがに陛下がなぜ神殿を訪れたのかは簡単にはわからないだろう。表向きの理由が視察とされているのだ。


「神官長が何をしているのかを知りたいわ。手紙では彼女も出たいと思っているのよね? 彼女を神殿から出すにはどうしたらいいかしら」

「エテル・オト神殿は侵入が容易いため彼女を救出するのは簡単です。お望みであれば、今夜、救出しますが」


 騎士ボルグはさらりと言ってのけた。王宮の騎士には簡単なことらしい。さっき見たというだけでなく、私が以前、陛下の儀式に参加するためにあの神殿を訪れた時に騎士ボルグ達も同行していた。その時、警護のために神殿の内部構造について把握しているはず。だから、結論が早いのだろう。

 だが、騎士セイルは困惑気味の様子だった。

 王宮の騎士には簡単なのでなく、騎士ボルグ達には簡単、なんだろう。


「お願いね」

「はっ」


 騎士ボルグは今夜に向けて作戦を練ることになった。騎士セイルは参加させてはもらえないらしい。騎士ウルガンの、邪魔だ、の一言に彼は顔を歪めていた。気の毒に。

 それにしても。

 催眠術をかけるとして、一介の神殿の神官長が国王を相手にそんな大それたことをするだろうか。

 この国では国王といえば神にも等しい特別な存在。彼女のように催眠術が失敗したら、即、首が飛ぶに違いないのだ。そんな危険をあえて犯すだろうか。国王の庇護を受ける唯一の神殿の神官長という地位にある者が。

 それに、どうして私に関する記憶を消すことに繋がるのかさっぱりわからない。

 理由はどうでも、神官長が陛下に催眠術をかけたのだとしたら、それを解かなければならない。どうしたら解けるのだろう。

 最悪、私のことだけなら毎回忘れても陛下的には問題なく過ごせると思う。でも、陛下が術を誰かにかけられっぱなしというのは、すごく嫌。何かとても悔しい。

 私を忘れていても、陛下は陛下だけれど。どこか、何かが少し足りない。

 もとの陛下に戻れるのなら、戻って欲しい。

 神官見習いの彼女が何か知っていればいいけど。


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