表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか陛下に愛を2の後  作者: 朝野りょう
いつか陛下に愛を(王宮の秘宝)編
16/37

■8話■混乱

 王都で暮らしはじめて数日。

 息子のヴィルはここの生活にすぐに慣れた。毎日が楽しそうだ。

 ふらふら歩いてはうきゃうきゃと笑い、転んでは笑い、ぶつかっては泣き喚き。昨日より長く歩けるようになったとか、新たな単語を口にしたような気がするとか。そばにいると、あっという間に時間が過ぎていく。

 十日も暮らせば私も王都民として馴染んでしまうらしい。

 もちろんリリアがいてくれるから、なんだけど。

 まだ事務官吏ユーロウスからの連絡はない。王宮の官吏としては上級官吏であるユーロウスでも知るのは困難だとは、王宮の秘宝とはそれほど厳重に隠されていた事なのか。

 陛下は知っているんだろうか。

 一昨日、少しだけ会った陛下は元気そうに見えた。

 金髪鬘で似合わないフリフリのドレスを着てるくらいで、あれだけ近くにいた陛下に私がわからないはずはない。だから、私に気付かないふりをしていたのだと思った。

 気づかないふりをすれば、私が王妃ではないと言ってるようなものだから、私を殺さなくてもすむ。そうしてまで私に声をかけたのは、王都から離れるべきだと伝えたかったのか。子供を心配するような陛下の言葉に、何らかの意味があったんだろうか? そんなの、わかるわけがない。

 事務管理ユーロウスに会って、多少の情報を得たけど、結局あまりわからなかったことにがっくりしていた。そこに、陛下が現れた。

 ユーロウスから私を見つけようとしたのだろうと思うけど、陛下は私を連れ戻そうというわけでもなく、捕えようとするわけでもなくて。単なる偶然で私に声をかけたかのようだった。

 陛下がロリコンだから?

 私は、実は、陛下にとっては理想のロリコン体型なのかもしれない? なんてバカなことを考えるよりも、現実をみよう。

 さて、現実は。

 使者が偽者だったということ、少なくとも王宮の側近達が私の死を望んでいるわけではないということははっきりした。陛下はどうかはわからないけど。

 陛下、は?

 いいや、陛下がそう望めば王宮の側近達もそれに従うはず。そもそも陛下が死を望んだとして、それを側近達に隠す必要はない。

 陛下が驚かなかったことを宰相はおかしいと思った。つまり、宰相は私の行方不明の報告を聞いた陛下が何らかの反応を示すだろうと考えた。でも、反応しなかった。

 一昨日、私は、陛下に私がわからないはずはないと思った。でも、わからないふりをされてしまった。

 それが、わからない、ふり、ではなかったら?

 もしも陛下が本当に私がわからなかったのだとしたら、どうだろう。

 記憶喪失?

 でも、私を忘れるくらいすっぽり記憶が抜けていたら、執務が混乱するどころではないんじゃないだろうか。今頃、大騒ぎになってしまっているに違いない。陛下がおかしいと感じている人がいても、それは少しだけのはずなのだ。

 すっぽりと抜けた記憶障害じゃなくても、健忘症とか痴呆とか忘れる病気にかかっている可能性はないだろうか? 徐々に進行するような。

 で、私は真っ先に忘れられた、とか?

 陛下が私へのストレスを溜めこみすぎて、私を忘れたかったとか、実はいなくなってほしいくらいストレスだったとか?

 以前みたいに怒鳴らなくなったのも、名前ではなく王妃という呼び方するのも、それなら当然で。偽者が持っていた命令書も、私が責任とれって意味で死ねと書いてはなかった。王宮に戻ってくるなという意味だったのかも。偽使者を私に送ったのは、ストレスに耐える陛下を見るに見かねて立ち上がった誰かだった、と。

 ここまでいくと、かなり無理があり過ぎる。

 しかし、陛下がストレスで私を忘れているかもしれないというのは、なくはなさそう。

 ストレスじゃなくても催眠術かなんかで私を忘れさせることはできるんじゃないだろうか。それなら、病で何を忘れるかわからないというより、執務に影響が少ないに違いなくて。現状には近いような気がする。

 誰かが陛下に催眠術をかけた? 私が邪魔だから私を忘れるように?

 私に死んでほしい人がいるかと言えば、そりゃもう大勢いるだろう。 

 とはいっても、陛下に催眠術をかけるという点で非常に実現が難しすぎる。あれだけ厳重な警備をかいくぐって陛下に催眠術をかけるなんて至難の業だ。王妃の地位が欲しいくらいの理由でそれを実行しようとするだろうか。陛下暗殺を企むのと同じ危険を冒して、結果が王が王妃を忘れるだけとか、しょぼすぎる。

 でも、陛下が私を忘れている線はあるような気がする。

 陛下が私を忘れているのか、故意に知らないふりをしているのか。

 王宮の秘宝とか偽使者とかももちろん気にはなるけれど、陛下が本当はどうしたいのかを知りたい。

 私が、いるの? いらないの?

 どうしたら、それがわかるだろう。




 騎士ボルグから報告があった。

 陛下と遭遇した時に騎士が口にしていたイスルという名の男の正体が判明したという。


「イスルは北地区の騎士団に所属しておりましたが、数年前にもっと出世してみせると告げ退団したそうです。その後のことは不明ですが、ここしばらく定宿としていたらしい場所で陛下付き騎士に遺体となって発見されました。私も顔を確認しましたが、あの使者に間違いありません」

「そう。誰かに殺されていたの?」

「いえ、服毒自殺のようです。騎士達が訪れる前に」

「タイミングが良すぎる、わね」

「はい」


 陛下達は偽使者を突き止めていた。あの時、陛下が王都に出ていたのはそんな訳があったのだ。


「イスルと接触していた者の手掛かりは王宮でも掴めていないようです」

「あの命令書はどうなったのかしら?」

「騎士が発見し、持ち帰りました。官吏の元には渡ってはいませんので、すでに処分されたと思われます」


 陛下が処分した、としたら。あれは偽物ではなく、陛下が書いた可能性が高いのではないだろうか。偽物なら偽造に関わった者を調べるための証拠物になるはずなのだから。

 あれが本物だったとしたら……陛下は私に大罪があると思っているわけで。

 やっぱり、私がストレスの元凶だから?

 私の中でストレス説が急浮上する。いやいや、ただの想像だからと打ち消しながらも顔が引きつる。

 私は歪まないよう顔を保ったまま騎士ボルグへ問いかけた。


「王宮の秘宝については、まだわからないの?」

「はい。王宮官吏ではなく、陛下付き騎士の管轄になるようです」

「そう。騎士達の管轄に……」


 陛下を守るためだから、なのか。それだと事務官吏ユーロウスには手が出せないのかもしれない。騎士と官吏の関係は、あまり仲がよろしい感じではない。特に陛下付きともなると超エリートで出自の身分も高く、プライドも超一級品のはずで。


「騎士ボルグの方から探ってみてもらえる?」

「はい」


 そう答えてくれたものの、騎士ボルグも今は微妙な立場だ。王宮の同僚に声をかけられる状況ではない。

 私も無理なことを簡単に口にする、とやや自嘲していると。


「以前、騎士カウンゼルが言ったことがあります。王宮には命尽き果てた後までも陛下をお守りし続けるものがいる。私もそうなりたいものだと。その時は気にとめませんでしたが……」


 死して後も陛下を守るって……なんという執念。陛下付き騎士カウンゼル、その心意気は天晴れなれど、死んだら安らかに眠りなさいね。陛下を守る騎士カウンゼル霊が夜な夜な王宮をウロウロって、気味が悪すぎるから。

 しかし、命尽き果てた後までも陛下を守るものが王宮にいる、とは。

 事務官吏ユーロウスが言っていた王宮の秘宝の説明に似ている。

 王宮の秘宝は、一般には仔犬の王妃の話として広まっているということだから、仔犬の王妃と呼ばれた故王妃は故王と再会するために王を護っているという話の中で、それは仔犬の王妃ということになる。

 あの喋る仔犬は喪失云々には関係ないだろう。只今、国内放浪中だし、かなり前から放浪してるみたいだったし。あれとは別物に違いない。

 物語では故王が死んだ後、故王妃はどうなったんだったかな。


「王宮に陛下を守るものがいる……か。具体的に形なのか聞いてみてくれる?」

「はい」


 そう頼んだものの騎士ボルグも困っているだろうなと思った。

 そこへ控え目なノックとともにリリアが現れた。やや困惑した表情を浮かべている。


「お話し中、失礼いたします。ティア様にお会いしたいと客が参っておりますが、如何致しましょうか?」

「私に、客? 誰?」

「ノーデルエンのアルフレド様と、お名乗りになられました」

「へっ?」


 陛下? アルフレドって……陛下、よね?

 私がリリアを見ると、頷きが返ってきた。

 陛下が、来た。


「わかりました。会います。居間へお通しして」

「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字などありましたらぜひ拍手ボタンでお知らせくださいませ。m(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ