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友達が

side千枝

「あ、竜胆さん! おはよう!」

「っ! あ、えっと……おう、……おはよう、ございます」


 ……本当に、生きづらい世の中です。



小さな頃から本ばかり読んでいました。分野は問わず、幅広く。今でも時間があるときにはいつも本を読んでいます。おかげでいろいろな方面の知識がつきました。知識だけ見れば、人との会話で困ることはないでしょう。でも肝心の会話相手がいないのです。


 友達がいないから本を読んでいたのか、本を読んでいたから友達がいないのかわかりませんが、今私が本を読むのは、それ以外にやることがないからです。ほら、クラスに一人はいるじゃないですか、暗くて目立たない地味な子。私がそれです。


 幸い、私の周りには意地悪な子もいなかったので、おとなしいからといって故意に無視されたり、いじめられたりすることはありません。友達がいない寂しさはありますが、それでも日常生活で困ることは特になく―――喋りなれていないので誰かと会話をする必要があるときは困るのですが―――過ごすことができました。今までは(・・・・)


 お兄ちゃんができたことで、私の平凡な日常は脅かされつつあります。


 新しくできた家族への不満は全くありません。美人で、実の子ではない私のこともお兄ちゃんと同じかそれ以上に可愛がってくれるお母さんと、賢くてかっこよくて、みんなに好かれるお兄ちゃん。絵に描いたような幸せな家族です。問題は、私のような暗い子が、そんな家族の一員になってしまったということなのです。


 あの容姿にあの性格、あの成績ですから、お兄ちゃんは目立ちます。とにかく目立ちます。そんなお兄ちゃんに好意を寄せる人は私の周りにも少なからずいるのです。私はそういったことに興味がなく、また今までそんな話を聞くこともなかったので知らなかったのですが、妹になってから一度も話したことのない人に話しかけられたり、探るような視線を感じることが多くなってわかりました。要するに、私はお兄ちゃんの妹として値踏みされているのです。


 自分の憧れの人に急にできた血の繋がらない妹が根暗でつまらない子だったら嫌ですよね。自分よりも近い場所にいながら自分より劣っているなんて耐えられませんよね。なんであんな子が……って、妬んでしまうのも仕方ないと思います。その気持ちはよくわかるのですが、その妬みからくる嫌がらせを受けたくはありません。嫌がらせを受けないためには今までどおりではダメです。お兄ちゃんの妹としてふさわしい明るい人間にならなければ―――



 そう思い立って、冒頭の挨拶に至るわけですが……挨拶すらまともに返せないこの状態から、果たして明るい人間になんかなれるのでしょうか。今のところまともに話せる相手といえば猫とお父さんくらいです。休み時間には毎回お兄ちゃんのことを聞きに来る子がいるので、この現状はかなり辛いです。


「あの、竜胆さん、ちょっといいかな? 聞きたいことがあるんだけど……」

「! は、はい!!」

この子は篠原さん、篠原舞香さんです。私とは正反対の、明るく元気なムードメーカー、そして美少女です。男の子からの人気も高いのではないでしょうか。お兄ちゃんができる前からよく私に話しかけてくれていたとてもいい子なのです。お兄ちゃんには、見た目だけでなく中身も伴った篠原さんのような女の子と仲良くしてもらいたいですね。非力ながら、応援しますよ、私。さて、篠原さんはお兄ちゃんの何が知りたいのでしょうか? 好きな食べ物とか?

「好きな色と、好きな動物を教えてくれない?」

 好きな色と好きな動物……お兄ちゃんの私物や私服を見る限りだと、好きな色は紫がかった青、でしょうか。動物は、犬が好きだとこの間言っていた気がします。

「え、えっと、たぶん……紫がかった青色、で、好きな動物、は…い、犬じゃ、ないでしょうか?」

 たぶん、と言ったところで怪訝な顔をされた気がします。それはそうですよね。確証の無い情報を伝えられたんですもんね。ごめんなさい。

「ありがとう! あの、私、もっと竜胆さんと仲良くなりたいと思ってたんだ。いつもたくさん難しい本読んでるでしょ? 私、文字がたくさん並んでるの見ると眠くなっちゃうから、すごいなって思っててね、それで、えっとね、その……友達になってくれないかな?」

「うぇっ!? あ、え!?」

「ご、ごめん! 嫌、だった?」

「い、嫌じゃない! ……です。あの、えっと、びっくりしただけで……」

「よかった! じゃあ、これからもいろいろ、よろしくね。千枝ちゃん(・・・・・)

「っはい、篠原さん」


 何がどうなったのか全く頭が追いついていません。篠原さんが、トモダチ? 私の、友達。初めての、人間の友達。っというか『すごいなって思っててね』なんて……絶対に篠原さんの方がすごいのに。可愛くて、明るくて、優しくて、私にはできないようなことも軽々出来ちゃう篠原さんが私のことをそんな……。いや、お世辞ですよね。社交辞令みたいなものですよね。そんなに深く考えてはいけません。なんにせよ、友達、友達。友達ができたんです。それだけで、私はもう十分に幸せです。

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