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心の清涼剤

 美形は罪だと思う。これは前世から変わらない意見だ。顔がいいというだけで何人もの異性の心を惑わせてしまう。乙女ゲームをやっている最中にも「※ただしイケメンに限る」という言葉が頭の中を過ぎることが多々あり、「来世はどうか美形に!」 とよく思ったものだ。この世界でその願いは叶ったわけだが……。


「っあぁ~! もう、疲れた……」


 ……「罪」には「罰」が与えられるのだ。


 見た目というのは人の印象に大きく関わってくる要素である。印象のうち占めている割合が大きい分、それだけで人となりを判断されてしまうことが多い。そう考えると美形は得だ。決して悪い印象は与えない。


 しかし美形に生まれたからといって人生がイージーモードかと思えば、そうでもない。

 容姿が整っているとそれ以外の部分でもハイレベルを要求され、その勝手な期待に応えられなければ「顔がいいだけ」「中身がない」と言われてしまう。かなり息苦しい生活だ。


 だからこそ、「僕」はそう思われないような優等生になったのである。



 攻略キャラとしての「竜胆真一」の設定から見てもわかるようにもともと運動神経も頭もいい方だったとは思うが、それでも努力をやめてしまえばすぐに周囲の描く理想像から外れてしまう。王子様のような完璧な「竜胆真一」維持するのはなかなか難しい。人目があるところでは気は抜けないし、だらけた本性を見られてしまえば最後、今まで築き上げてきたポジションは崩れてしまう。崩れるといってもゼロに還るわけではなく、マイナス圏へ突入するのだ。不良が小動物や子どもに優しくしているところを見て印象がガラリと変わるのと同じ。ギャップ効果がマイナスに働く。だから、常に周囲に目をやり気を張らなければならないのだ。


 まあ、とにかく疲れる。しんどい、だるい、めんどくさい。記憶が戻って前世の堕落しきった生活を思い出してからは特にそうだ。



 「竜胆真一」は真夏に下着姿で寝てはいけないし、真冬にこたつで寝転がりみかんを食べながらテレビを見てはいけない。夜中に起きだしてスルメを炙って食べてはいけないし、学校行事で泊まった旅館の大浴場で泳いではいけない。もちろん枕投げもしてはいけない。


 なんと制約の多い人生だろうか。


 その点前世は気楽だった。先ほど挙げたことは全て前世の私が実際にやっていたことだ。一日ひと袋のソフトさきいかや、学校帰りに駄菓子屋で買う体に悪そうなスナック菓子なんかも前世のいい思い出。庶民には庶民なりの小さな楽しみがたくさんある。前世は前世で充実していたんだと思い知らされた。



 実はこの世界でも、記憶が戻ってからは毎日夜中にこっそりコンビニに出かけてソフトさきいかを買っている。最初に食べたときは久しぶりの懐かしい味に涙が出た。ほのかな甘味と塩味の絶妙なバランスと、もしゅもしゅした食感がたまらない。さきいか万歳!



 この楽しみはなんとしてでも続けたいが、周囲に知られてしまったときのことを考えると怖い。間違いなく「竜胆真一」のイメージは崩れる。



 むしろこのままバラしてしまって、ギャップ萌えを狙ってみよう、とも考えたが、小学校六年生の時点で発動してしまうと、人間関係がややこしくなり始める高校生になった頃にはもうギャップ萌えとしての効果は期待できなくなっていることを思うと温存しておくべきだし、第一、王子様タイプの優等生が一日ひと袋のソフトさきいかを楽しみに生きているなんて、ギャップはあれど萌えには程遠い。



 ……なんだろう、実は腹黒ドSだとか手芸が好きだとかそういうのなら良かったんだろうか。無理だ。私はどちらかというといじめるよりいじめられたい方だし、手芸なんてすれば針で指を突いて布が真っ赤に染まることは確実だ。ギャップ萌えって難しい。


「考えてもラチがあかない……。ストレス溜まるなあ……」


 さきいかの袋を破きながら呟いた。



 やりたいことができないストレスは、毎日のさきいかで発散している。


 人目を気にせず堂々とたくさん食べたいという思いに駆られることもあるが、毎日ひと袋こっそり食べるからこその美味しさがある。私の人生において、これだけは譲れない。このさきいかと千枝ちゃん(マイエンジェル)がいなければストレスで胃に穴があいているだろう。


 時計は夜中十二時を差していた。夜に食べると太るらしいが、男の体というのは余計な肉がつきにくいので構わない。毎日ちゃんと運動もしているし、さきいかはカロリーがそんなに高くない。これぐらい許してくれたっていいじゃないか。

用事が立て込んでいて更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

遅くなったにもかかわらずこの分量、この内容です。すみません。

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