妹として
side 千枝
今日、お父さんからうれしい知らせを聞きました。なんと、私にお母さんとお兄ちゃんができるそうです!
長いあいだお父さんと二人で暮らしてきたので、新しい家族が増えるのがとても楽しみです。あ、別にお父さんと二人っきり生活が辛かったわけではないですよ! ただ、前のお母さんは私が生まれてすぐに家から出て行ったので、「お母さん」についての思い出とか、そういうものが全然ないんです。だから、新しいお母さんとはいっぱいいっぱい思い出をつくれるんだと思うとわくわくします。
お父さんの話によると、お兄ちゃんは、かっこよくて、勉強ができて、スポーツ万能で、みんなに優しい王子様みたいな人らしいです。お兄ちゃんに迷惑をかけないように、妹として精一杯頑張ろうと思います。
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失敗しました。お兄ちゃんは私のことが嫌いなのかもしれません。
お兄ちゃんと初めての顔合わせ。話に聞く通り、優しそうで、かっこいいお兄ちゃん。
「初めまして。これから君のお兄ちゃんになる真一です。よろしくね」
背景にキラキラが見えそうな優しそうな笑顔は、まさに王子様でした。キラキラオーラに圧倒されて、思うように声が出ませんでした。
「あ、えっと……その……竜胆、千枝、です……」
私がそう言い終わるのとほぼ同じタイミングで、お兄ちゃんはその場に倒れました。
なにがいけなかったのでしょう? どもってしまったから? ちゃんと目を見て話さなかったから? おどおどしていたから? 原因として考えられることが沢山ありすぎて、なにがなんだかわかりません。
とりあえず、私に関するなにかがお兄ちゃんを怒らせてしまったのでしょう。少し話しただけで倒れてしまうくらいですから、相当嫌われているのだと思います。お兄ちゃんが起きたら、ちゃんと謝らないといけません。でも、私のことが嫌いなら謝るために話しかけるのも悪いような気がします。
お父さんとお母さんと一緒に、ベッドに寝かせたお兄ちゃんを見守りながら、いろいろなことを考えました。お医者さんに診せても特に異常はなく、寝不足か何かだろう、と言われましたが、お兄ちゃんのキラキラ笑顔には急に倒れるような寝不足の色は見えなかったので、やはり私と話したことが原因で倒れたのでしょう。
どうやって謝ろうか思いあぐねていると、急にお兄ちゃんが起き上がりました。
「なんでやねええええええんっ!!」
起き上がった瞬間こう叫んだお兄ちゃんに、私はその日声をかけることができませんでした。