マイエンジェル
私は数日間学校へ行かず、自宅で療養することになった。傍から見れば、義妹との自己紹介の最中にいきなり倒れ、やっと目が覚めたと思ったら急に意味のわからないことを叫びだした、ということになる。精神病院にぶち込まれなかっただけマシだと思いたい。
両親は、再婚での環境の変化によるストレスで倒れたのだと思っているらしく、やたらと気を使ってくる。千枝ちゃんも、私に会うなり顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべながら「っ、ご、ごめん、な、さい……」と謝り、そのまま顔を伏せて走り去っていった。可愛い。天使。マジエンジェル。
竜胆千枝の性格も、ゲームとは違うようだ。派手目のぶりっ子といった感じではなく、むしろ大人しく気が弱い文学少女という表現がぴったりくる。学校でいじめられているのではないかと心配になってくるほど弱々しく、常に周りの顔色を伺いおどおどしている彼女は私の心の潤いである。
彼女も転生者なのでは? と疑ったこともあったが、前世の知識があるのならもっと上手く立ち回る要領の良い子だっただろう。その線は薄い。とにかくゲームでも現世でも千枝ちゃんはマイエンジェルだ。お兄ちゃんとしてマイエンジェル・千枝ちゃんを一生守り続けると心に誓った。
数日間の療養を経て、学校へ行くことになった。両親はまだ心配そうな顔をしていたけれど、いつもどおりかそれ以上に元気そうな私を見て少し安心したのだろう。気をつけて、と一言声をかけただけで送りだしてくれた。
念願のマイエンジェル・千枝ちゃんとの初登校である。
千枝ちゃんは私が倒れた原因が自分にあると思っているらしく、ずっと下を向いている。可愛い。これ以上責任を感じさせるのも可哀想なので、このあたりで誤解を解いてあげたほうがいいだろう。無言の千枝ちゃんの頭にぽん、と手を置いて撫でる。さらさらで細い黒髪の感触が心地いい。驚いて私を見上げた千枝ちゃんに、イケメンフェイスを最大限に駆使したスマイルを向けながら言った。
「千枝ちゃんのせいじゃないよ。あの時ちょっと寝不足だったみたいで……、心配かけてごめんね? お兄ちゃんのこと嫌いになった?」
自分で言っていて叫び声をあげたくなるような、小六とは思えない色っぽい声が出た。これは朝小学生に聴かせる声じゃない。角砂糖を五個くらい頬張った気分になる。恥ずかしさを誤魔化すためにひたすら彼女の頭を撫でる。もちろんイケメンスマイルは継続中。
「あ、の……嫌いじゃ……ない、よ? う、え、えぇっと、その、お、お兄ちゃん、の、ことは、大好き、だから」
顔を赤くしながらふにゃっと小さく笑顔を浮かべて私を上目遣いで見る千枝ちゃん、プライスレス。
「ごふッ!!!」
「お兄ちゃん!? だ、大丈夫!?」
お兄ちゃんはあなたのあまりの可愛さに吐血しそうです。
ゲームの世界とはちょっと方向性の違うシスコンになりました。