実咲と最期の夕陽
窓辺の、夢を見るまでの短い時間。
夕陽が沈むまでに、女の子が最期に願った夢のお話です。
鉄の匂いのする部屋で、私は死体を踏みつけて窓際のベッドに腰掛けた。
私は隣に立つおじさんに声をかけた。
「私には、唯一の悔いがあったんだ」
髪飾りを髪につけた。
ショートヘアの私の髪に花のヘアピンが刺さる。
「私は、いつか素敵な人と結婚したかったんだ。まぁ、まだ10歳だけど」
最早、叶わぬ夢になる。
私の「将来」は、あと十数分で幕を閉じてしまうから。
「忘れ去りたい夢だな」
呟く私の肩に、大きな手が置かれた。
「君も私も同じさ。もう君は成長する事はない。夢に時間はないからね」
そう言う彼の言葉に、私は顔を上げた。
「君も、私も?好きな人がいたの?」
彼は慈悲深い目を向けた。
そして私の頭をゆっくりと撫でて言った。
「あぁ、好きな人がいた。私はずっと昔に、その人に出逢った。そしてその日に、その人を一生守ると誓ったんだ」
そう言う彼の手は、私を撫で続けた。
暫くの間、私は彼の手に身を任せた。
少しして、彼は言った。
「好きな人の名前は、「実咲」にしようと決めていた」
不意に、私を撫でる手が止まった。
私は彼の言った意味を理解出来なかった。
その意味は、理解する必要はなかった。
私は、唇に伝わる答えを感じた。
彼は、少し紅潮した私の顔を見て、そしてもう一度答えを教えてくれた。
暫くの間、私達は答えを貪るように何度も何度も唇を重ねた。
何度か味わううちに、私もやり方を覚えて、私から答えを求めたりもした。
口の中で彼の唾が私の唾と混ざり合う。
それと同時に、私の体がいつの間にか大きくなっていたのに気付いた。
年にして、きっと中学生か高校生辺りだろうか。
だが、私にとっては変化の疑問よりも彼と年が近づいた嬉しさだけがあった。
私は急に、彼に抱きしめられた。
鼓動が伝わるのと時を同じくして、私の心拍数はどんどん上がっていった。
顔に赤みが増していき、彼の香りに包まれた幸せをかみしめていた。
不意に、振り子時計のボーンという音が部屋に響いた。
外は夕陽が沈みかけていた。
私は、その空が夢より美しいと思ったが、その気持ちはすぐに振り払った。
私の幸せの場所は、彼の隣なのだから。




