表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第五夜:雨のゆめにっきとブランコ


太陽がない。

だが世界は暗くない。


空に電球がある。

まるで星のように。

輝く電球はわたしを照らし、わたしの影は消失していた。

だが、正直言って眩しい。


わたしは指を宙に這わせ、円を描く。

どうせなら、浜辺の眩しさがいい。


円の中心へと滑らせた指を、思うがままに振り回した。

やがてそこには不思議な魔法陣が出来上がった。


透き通る先には、輝く砂浜があった。

わたしは足を踏み入れようと右足を前に出した。



………

……………



「………あれ?」

気付けばわたしのベッドの上だった。


わたしは体を起こして時計を見る。

時計は、お母さんの来る時間をとっくに過ぎてた。


ここの所、眠る時間が長くなってきた。

夢はちゃんと覚えているようになったし、ゆめにっきも厚くなってきた。


つい先日には、おじさんの夢だけでなく、ただの夢でも自由自在に歩く事が出来るようになった。


そして今日、やっとただの夢で魔法陣が出せた。

嬉しいのだが、自慢する相手がいない。

あの少女も、あの日以来会っていない。


「おじさん、来てる?」


わたしはやはり虚空に声をかけた。

おじさんは、やはりいつの間にかそこにいた。

まるで夢の住人のように。


「お呼びかな?お嬢さん」


やはりおじさんはわたしを名前では呼ばない。

きっとおじさんならわたしの名前を知っているのだろう。


「あぁ、知っているとも。君の名前はよく知っているさ」


「じゃあ、おじさんの名前を教えて?」

わたしがよくする質問。

おじさんはこればかりは教える事は出来ないと言う。

理由すら言ってはくれない。

だが、この日は違った。


「―――そろそろ教えてもいい頃かな。しかし君が堪えられるかが心配だな」


おじさんは神妙な面持ちで私を見た。

「おじさん、教えて」


「――……、いいだろう。なら君には夢で伝えよう。私の昔の話を」


そういうと、彼はいつものように座った。

わたしも座り直した。

彼はいつもとは違う、重い声を出した。


「ある冬の雨の日の事、私は夜道を歩いていた―――」


………

……………



夜道は暗かった。

街灯はまるで整備されておらず、ひしゃげた物もあった。


わたしの後ろを、サラリーマンが通った。

わたしは振り返ると、サラリーマンはわたしを見ていた。

性格には、私の後ろの子供を。


「どうして、こんな子がこんな目にあわなくてはいけないのか。あぁ、世界は最低で残酷だ」


彼は語った。

子供を抱き上げた彼は、泣き出した子供をあやした。


「あぁ、君には名すらない。君は名も与えられなかったのか」


彼は子供をあやし続け、遂に泣きやませる事に成功した。


「きっと君は誰かに守られよう。私はいつか君に危機が迫った時にこそ、君のもとに現れよう」


彼は手にメモを持ち、何かを書き込み、わたしを包んでいた毛布にはさんだ。


書き込まれたそれは、奇しくもわたしの名前と一致していた。



……………

………



「どうだい?お嬢さん」


短い夢から覚めたわたしは、彼の声がサラリーマンの声と同じ声だと再確認した。

「おじさんが、わたしの名付け親なの?」


彼は、何も言わずただ頷いた。

もうひとつ、確認したい事があった。


「お母さんは?お母さんは私のお母さんじゃないの?」

わたしの問いに、彼は少し躊躇った後答えた。


「ああ、君はあの人の子供ではない。あの人は君を拾っただけだ。君が無意識のうちに母として刷り込みしただけの女だ」


その瞬間、わたしの心が砕けるのを感じた。


お母さんは、いや。

彼女はわたしに対して、私の子供という言葉を多用していた。

わたしも、彼女のその言葉が嬉しく感じていた。

いつか彼女のように育つと思っていた。

それが嬉しかった。

今や彼女のように育つという事は「人を騙す」人間に成り下がる事と同様の意味になってしまった。


絶望感がわたしを包む。

わたしは最早、心を失い世界から逃げたいという心情のみになった。


いつしかわたしは指で宙に円を描く動作ばかりを続けていた。



「世界は残酷だ。とても残酷で最低だ。だからわたしは夢に逃げた」


「君も、夢に逃げたまえ。わたしのように」



……………

………



暗い、暗い世界へ。

夢の奥へ、奥へと。


雨が降る。わたしは濡れる。

ぴちゃぴちゃとうるさい水たまりを蹴って走った。


チリン、鈴の音が鳴る。

「久しぶりね」

少女は現れた。


少女はわたしの隣を飛んでついて来た。

わたしはただ、走った。

夢を求めて走った先は、一台のブランコだった。


わたしは、それに乗って漕いだ。

世界が揺れる。

雨も揺れる。

ぐるぐると周り、世界が崩れてゆく。


夢の世界がひび割れ、海が見えた。

それだけではない。

雪の世界。

チェスの世界。

「さ」の世界。


ゆめにっきに書いた世界がひびの奥に現れてゆく。


「あなたは分かれ道にいる」

突然、少女は言った。


「最早選ぶしかない」

少女を見ると、手に仮面を持っていた。


「君は選ぶしかない」

振り返れば、男の子がいた。


「現実に戻りたい?」

仮面をつけた男の子が言う。


「それとも、夢かな?」

わたしを後ろから包んだ大きな腕と共に、おじさんの声がした。




「わたしは………」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ