第三夜:鏡のゆめにっきとおままごと
いつからだろうか、わたしは木目調の床にいた。
わたしの横を通り過ぎる影は、皆わたしに気付かない。
皆、手にハサミを持っていた。
彼らは紙を切っていた。
鳥、かぶとむし、せみ、いす、火。
色々なものを切り抜いた。
「できた!」
男の子はよろこんだ。
右手にハサミ、左手には………
………………………、
左手には、左手があった。
女の子が泣いている。
左手のない女の子が泣いている。
「すごいわね、***君」
先生がほめた。
何がすごいのかわからない。
女の子を切り取って、何がすごいのだろう。
だが、わたしも別に「可哀想」とは思わなかった。
不思議と、これといった感想や批判が浮かばずにいると、影の人は消えていた。
わたしは、黄昏時に取り残されて、ただいすに座っていた。
…
………
……………
「おや、おはよう。お嬢さん」
「………え?」
目を開くと、目の前に旅行鞄を持ったマスクの男がいた。
マスクは、つり目に口元がにやけた、変な顔だった。
「お嬢さん、お話をしよう」
「おじさんなの?」
わたしはたずねた。
「そうだ、私がおじさんだ。やっと見れるようになったのか、素晴らしい」
おじさんは、テレビに腰掛けて座った。
「そうだな、今日は何の話をしようか。よし、鏡の話にしよう。それがいい」
おじさんの話は楽しい。
といっても、おじさんの話自体ではなく、話の途中で出かけた世界が楽しいのだが。
そういえば、おじさんは今まで喋らなくてもわたしの言葉がわかった。
「私は君の事ならなんだって知ってるからね」
どうも本物のおじさんのようで、わたしの心の隅にあった疑いの心は消え去った。
「鏡のある部屋があった。鏡は君を写した。鏡の君は君に話しかけた………」
……………
………
…
―――――おや、
ここはどこだろうか。
わたしは真っ暗な場所にいた。
鏡は?鏡はどこ?
後ろを向くと、鏡があった。
が、これは本当に鏡なのか。
鏡は、わたしの背中を写していた。
鏡のわたしが振り向く。
「やっと会えた」
わたしが、いや。
女の子が、わたしを見た。
あの時の子が、わたしを見た。
その手には。
―――あの男の――子の――手があ―――った――――。
…
………
……………
「………」
「そして、彼の手は君に……、おや?」
おじさんはわたしに話をしていた。
わたしはおうちで、嫌な汗をかきながら寝ていた。
「お嬢さん。怖かったかな?」
怖いなんてものではない。
怖い、とは違った。
わたしは、何故かあの子に会ってはいけないと感じた。
そしたら起きたのだ。
「……あの子?前に会った誰かかね?」
「前に、かくれんぼした子だった。男の子の手を持ってた」
「………そうか。なら、こうしよう。そしたら、その腕から男の子が現れて、君とおままごとを始めたのだ」
「………」
わたしは、もうおままごとをする年ではなかった。
だが、不思議だ。
また眠気が―――
……………
………
…
「どうぞ、サラダですよ」
男の子は、わたしに野菜を渡した。
本物の野菜のサラダ。
おままごと、かな。
試しに口をつけると、意外とおいしかった。
お皿が空になると、お粗末でした、といって男の子が皿を片付けた。
………女の子は、どこに行ったのだろうか。
わたしは、少し周りを見回した。
女の子は、死んでいた。
がらくたの人形のように、足から崩れ落ちたような体勢で死んでいた。
チリン、と音がした。
男の子はいつの間にかいなくなっていた。
また、ただの暗がり。
鏡だけが、ぽつんとあった。
鏡を覗く。
しかし、あの女の子はいなかった。
……チリン、と音がした。
後ろに誰かがいた。
見たことのない、長髪の少女がこちらを見ていた。
少女は、わたしに微笑みかけて言った。
「『本物の海』を見たくない?」
…
………
……………
「おかえり、お嬢さん」
おじさんはこちらを見ていた。
穏やかな声音だ。
「明日は、海がいいな」
わたしは、おじさんに言った。
「そうかそうか。何かあったのかね?」
「わたし、女の子に海に連れて行って貰うの」
わたしは、少女の名前も知らなかったが、きっとまた会えると思った。
「………ん?女の子?」
「どうかしたの?おじさん」
「いや、なんでもないよ。海だね、連れて行ってあげよう」
わたしの顔はほころんだ。
「ありがとう、おじさん」
「では、また失礼するよ」
そういうと、いつの間にかおじさんは消えていた。
わたしは、ご飯を食べると寝てしまった。
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―
「あの子の本に、かくれんぼするのなんてあったかしら」
「いえ、無いはずです」
「でも、あの子はかくれんぼしたと言ったの」
「何故。あの子はそんな夢を見る筈がない」
「誰かいるのかしら」
「………しばらく様子を見ましょう」
「………えぇ、そうね」




