第二夜:雪のゆめにっきとかくれんぼ
手だ。
これは手だ。
千切れた手が道端に「立っている」
異様な光景。
手はわたしに手を降る。
大きく振っても倒れない辺り、地面に「はえている」のかもしれない。
わたしも振りかえした。
途端に手は闇に飲み込まれ、消えた。
わたしはひとりになった。
この闇はさっきから色々なものを飲み込んでいる。
手、牛、水、木、野菜、ズボン。
色々、何でも飲み込む。
さっき人が飲まれた。
苦しまず、むしろ彼の顔は「なんだ飲み込まれるのか、面倒だな」って顔だった。
ここ、飲み込まれると一体どうなるんだろう。
足元に目をやると、早速くるぶしまで飲まれていた。
だんだんと、ひんやりした感触が浸蝕してきた。
腰がうまる。
肩が沈む。
もう口が沈んでしまう。
地面にいた蛙と目が合う。
蛙がひと鳴きした。
…
………
……………
「じゃあ、お母さんまた仕事行くからね。お留守番よろしくね」
お母さんは忙しそうに走っていった。
毎朝、毎晩来てくれるお母さん。
優しい、いい香りのするお母さん。
小さい頃、といってもまだ10歳だが。
昔お母さんと一緒に路上で紙芝居を見た。
もう内容は思い出せないけど、楽しかったな。
「やぁ、お嬢さん」
ふと、思考を遮るようにおじさんの声が聞こえた。
―――おはよう、おじさん。
「おはよう、お嬢さん。約束通り、また君にお話を届けに来たよ」
どこか楽しそうなおじさん。
昨日の夢は覚えていた。
チェスと、赤い箱の夢。
―――お話を届ける、って変な言い方ね。
「確かにそうかもしれないね。さて、お嬢さん。今日の話はね……」
―――待って、おじさん。私まだ眠くないよ?遊びに行けない。
さっきまで寝ていたのに、そう簡単に寝れるとは思えないのだ。
「安心なさい、お嬢さん。私の話は眠気を誘う。きっと、気付いたら眠ってしまうさ。さぁ、始めよう」
私は、テレビの方に顔を向けた。
おじさんは少し笑って、話を始めた。
「―――これは、あるひとりの女の子の物語。夢見る少女は雪の中にいた。彼女は雪など気にならなかった。少女はしんしんと降る雪の中で、一匹の猫を見つけたのだ………」
……………
………
…
雪景色の中にいた、目立つ黒い猫。
雪を被らず、真っ黒な体は毛並みが美しい。
黒猫はしっぽをふった。
わたしは昨日の男の子を思い出した。
今日はこの子が案内してくれるのだろうか。
返事をするかのように、黒猫は一度鳴いた。
なぉ、と可愛らしい。
触りたいと思って手を伸ばすと、歩き出す。
ゆっくり近づいても、先を歩かれて触れない。
しばらくして、触るのを諦めたわたし。
一面雪景色の銀の世界はしばらくして山になった。
山の木に降り積もる雪はまた綺麗だった。
「かくれんぼしようよ」
誰かがわたしに話しかけた。
後ろを見ると、三人の人がいた。
ひとりは、背が高い。
ひとりは、背が同じ。
もうひとりは、男の子。
あの男の子だった。
そして何故か目元を白い布で隠していた。
私はいつの間にか鬼になり、いつの間にか隠れた人を探していた。
背が高い人は、すぐに見つかった。
頭は隠れていたが、お尻が出ていた。
背が高い人のマスクをはずすと、顔が見えた。
わりと可愛い。まるで人形のようだった。
すると、首がとれた。
本物の人形のようだった。
気付けば、足元で少年がわたしを見ていた。
倒れた姿で、やっぱり体からは血が出てる。
「急いで。走って逃げて。君は振り返ってはだめだ」
どうしたのだろう。
とりあえずわたしは振り返る事なく走った。
後ろで声がする。
男の子の声だ。
女の子の声もする。
「かくれんぼしましょ」
「見つからないで」
「かくれんぼしましょ」
「見つかったらだめだ」
「かくれんぼしましょ」………
女の子の声の後、もう男の子の声はしなかった。
なぉ。
猫がいた。
黒猫は私にしっぽをふった。
ついてこい、と言ったのか。
猫としばらく歩くと、
壁一面に「さ」と書かれた部屋に着いた。
猫は、なぉ、とだけ言い残してどこかに走り去った。
足音が近付いてきた。
―――かくれんぼしましょ
わたしは箪笥に隠れた。
―――かくれんぼしましょ
足音は近づき、箪笥の前に来た。
―――かくれんぼ、しよ?
隙間から私を見る目は、にっ、と笑って箪笥を引いた。
なぉ。
猫が鳴いた。
…
………
……………
「おはよう、お嬢さん」
―――おはよう、おじさん
わたしはベッドの上にいた。
「黒猫はお嬢さんを案内したかな?」
―――してくれたよ。
「かくれんぼ、どうだった?お嬢さん」
―――負けちゃった。
いつの間にか、鬼はあの子に変わっていた。
わたしはあの子に負けたのだ。
「そうか。でもね、君は負けてなんかいないよ、お嬢さん」
―――どういう事?
「それはまた明日だ。じゃあおじさんは帰るよ」
―――じゃあね、おじさん
返事は返ってこなかった。
扉が開く音がした。
お母さんがやってきた。
時計は、今が夕方だと語った。
「お母さん、私かくれんぼしたよ。でも、負けちゃった」
「…………、そう。残念だったわね。今後は勝てるといいわね」
その後また少しして、お母さんはどこかに行った。
また仕事が忙しいのだろう。
わたしは、ご飯に少し手をつけてから眠った。




