美咲の日記 その4
美咲の日記 その4
3月2日(金) 天気・雪のち曇
昨日からあたしは、お父さんとお母さんと話をしていない。今朝は無言で朝食を採り、無言で家を出てきた。これで少しは思い直してくれればいいんだけど。
そういえば昨日の日記には、プレゼントが何だったのか書かなかったよね。だから、今日は昨日の続きを書こうと思います。
真由に突撃インタビューされたあたしは、真由の手首を掴み、廊下の端に向かって駆けだした。真由はワケがわからず騒いでいたけど、あたしはそれに構わずに廊下のつきあたりを90度に曲がった。
「なんなの、どうしたのよ急に」
真由は息を切らしながらいった。あたしは、ごめんごめん、と謝りながら掴んだ手を離した。そして真由の体をくるっと回し肩を抱いたのだった。
「絶対にいわないでよ」
恥ずかしくて堪らなかった。
「わかってるけど・・・そんなに」
真由はもう勝手な想像をしているらしく、絶句していた。でもその真由の勝手な想像もあながち間違ってはいないので、そのリアクションを否定はしなかった。
「で、何だったの?お父様からのプレゼントは」と神妙な顔を作り、再びエアマイクをあたしの口元に寄せてきた。
「う~ん」とあたしは唸った後、唇を舐めてから呟いた。「・・いいっしゅうの・・・」
「えっ、何て?」
真由は耳をあたしに近付けてきた。
あたしは顔が火照ってきたのを自覚しながら、やけくそになって叫んでしまった。
「だから、世界一周旅行だっていってるのよ」
「?えーーー!!!」とその瞬間、真由の悲鳴が廊下全域に響き渡っていった。近くを通り過ぎる生徒たちは、驚いた様子であたしたちを一瞥している。あたしは反射的に真由の大きな口を塞いでいた。真由は口を塞がれながらも、何やらモゴモゴいっているのでゆっくりと手を離してあげたら「ちょ、ちょっとう嘘でしょ」と声を漏らした。とてもあたしの発言が信じられないような表情をしているが、一番信じられないのはあたしの方だよ、と心の中で呟いていた。
「しかも・・・」
「な、何まだあるの」
「しかも、ペアで」
「ペ、ペアだったんだね。ふ~ん。ペアね~」と廊下の天井の端の方を見上げて真由がいった。「まっ、仕方がないか」と手のひらを一度だけ、ポンと叩いた。
あたしは真由のいっていることがまったくわからずに、顔を覗きこんでいた。
「いってもいいけど」と厚めの唇を少し尖らせていってから、あたしの顔を見つめてきた。その表情は照れを隠しているようにも見えた。
「何いってるの、真由」
まだ理解していないあたしは、真由の顔をさらに深く覗いた。
「だから、いってもいいよ。一緒に世界一周旅行ってやつ」
真由はそういいながら、あたしの顔をチラっと見て、ニコっと笑った。
「な、えっ?何いうのかと思えば、真由ったらしょうもないよねえ、ホントに」とあたしは呆れて笑うことしかできなかった。
授業開始のチャイムが鳴った。それを耳にしたあたしと真由は、一目散に教室に向かって走り出した。なぜかしら嬉しそうな真由の後ろ姿を見ながら、あたしは教室に入った。席についたと同時に国語の先生がやってきた。日直が号令をかける。特に気持ちの籠っていない礼をした後着席した。あたしの苦手な国語の授業が始まった。だからとはいわないが、窓の外に目を向けた。窓の外は雪だった。風は吹いていないのだろう。雪がチラチラと舞っている。
「どうしてこうなっちゃったんだろう」
声にならない声で呟いた。目を閉じた。瞼の裏にはあの日の夜が再現されている。
テーブルを埋めつくすように並べられた豪勢な料理。
特注と思われるデラックスなバースデイケーキ。
常軌を逸している高価なプレゼント。
そして、ローソクの炎の向こうで笑顔を作るお父さんとお母さん。
すべてが違和感というかなんていうか、そう、繕われたような他人行儀な感じ。あたしは大きなため息をひとつ吐いた。
「何かがヘンよ」
目を開けた。
「絶対に・・・ヘン」
あたしは机の下で拳を作った。




