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日記  作者: ダイすけ
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律子の手紙

 美咲、楓。

 元気にやってるかな。

 二人がこの手紙を目にしているということは、すべてが明らかになっているのでしょう。わたしは二人に謝らなければいけませんね。いくら謝っても償えないことはわかっています。でも、二人を引き離してしまった責任は一生わたしにあることは確かなことだから。


 楓とはずうっと一緒に暮らしてきて、不自由な思いばかりさせてしまったね。足りない母親にいつも笑顔を見せてくれたね。ずうっと我慢ばかりさせてしまったね。楓は本当に芯の強い子でママはとても嬉しく思っています。


 美咲には何と謝っていいのか。あなたと離れ離れになってからの十六年間、ずうっとずうっと悩み続けてきました。知らなければいいっていう問題ではないし、だからといって知るばかりが正解でもないと葛藤を繰り返してきました。それでもあなたに恨まれるのは当然です。はっきりいってあなたを捨てたも同然なのだから、わたしに言い訳できる言葉はない。


 でもね、これだけは知っておいてほしいの。

 美咲というあなたの名前はわたしが考えたものです。田中さんたちにはかなり無理をいったのよ。美咲。あなたのパパの一成さんのお墓が大間にあります。そこへ行く途中の石でできた階段の脇に可愛らしいお花が咲いていたのよ。あなたの名は、そんなお花からいただいたもの。そのお花のように可愛らしい女の子になってほしかったから。

 楓の名は、わたしが大好きな場所にある大好きな樹の名前。その季節になるととても見事な紅い葉をつけるのよ。わたしとパパが若いころ、よくその神社の境内に行ってその楓の樹の下でお弁当とか食べたりしたの。わたしとパパの想い出の場所です。

 どちらもママの大好きな名前。

 どちらも大切な娘に変わりはない。


 美咲。これを知ったからって田中さんを怒らないでね。田中さんご夫婦は何も悪くはないのだから。あの時のママがどうかしてたの。あなたたちを産んだ喜びから一転、一成さんを失ったショックまで一気に堕ちてしまい、自分というものを見失っていた。おばあちゃんはそんなママの事を一生懸命に支えてくれていた。身の周りに世話をしてくれたりしてね。そんな時に田中さんたちが現れたの。わたしは突然の非常識なお願いに当然拒否をしたわ。でも何度も何度も懇願する田中さんご夫婦の想いに、熱意にわたしは首を縦に振ってしまった。

 美咲がどうとか、楓がどうっていう深い意味はまったくなかった。ならどうして美咲を手放したのか、姉である美咲を。

 理由は簡単だった。姉である美咲の方が、しっかりと田中さんの娘としてやっていけると思ったから、生きていけると思ったからだった。他に深い意味はないの、ただそれだけ。


 美咲、本当にごめんね。いくら謝っても、いくら弁解してもあなたの心には届くはずがないよね。あなたの心の傷が癒えるはずがないわよね。

 でも、わたしも無念でしかたがないの。

 あなたがこれを読むころには多分、わたしはこの世にはいないのかもしれない。あなたへの罪を償うことができそうにない。怒りの矛先を失ってやり場をなくしているかもしれないけれど、これだけは勘弁して下さい。

 昔手術した乳がんが再発したそうです。乳がんの再発は非常に難しいみたい、治るのが。

 できることなら最後に顔を見たかった。双子だと知っていても、最後にもう一度あなたたちの顔を見たかったわ。ママに似てくりっくりの瞳も見たかったし、ぷりっぷりの唇も、ほっぺたもこの手で触りたかった。この手で抱き締めたかった。だって何があったって、あなたたちは紛れもないわたしの娘たちなんだから。


 今、わたしは二人にひとつだけ叶えてほしいことがあるの。

 四年後の、あなたたちが揃って二十歳になる年に是非大間のお墓にお参りに来て下さい。その時にパパと一緒に、墓前のあなたたちを眺めることにします。双子のあなたたちをね。

 だからそれまで、それぞれでがんばって下さい。がんばって素敵な女性になって下さい。

 それがママの最後の願いです。

 天国でおとなしく見守ることにします。

 それでは身体に気をつけて、元気でね。


                           平成二十四年八月十日

                             美咲と楓が大好きなママより

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