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日記  作者: ダイすけ
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美咲の日記 その26

平成28年2月29日(月)


 今、下で毎年恒例のお誕生会を終えて、自分の部屋に戻ってきました。

 二十歳という区切りのお祝いだったのと、今年は閏年だったので、特に気を引き締めて食卓テーブルに腰を降ろしたのだが、向かい側に座ったお父さんとお母さんの表情はいつもと違い、いやに血色が悪く、いやに固いものだった。


「お祝いの前に・・・」

 重たく口を開いたお父さんは珍しくあたしの瞳を見つめてきた。

「美咲に・・・告げなければいけない事があるんだ」

 お父さんの隣に座っているお母さんの両肩は、緊張感のせいかプルプルと震えていた。

「どしたの?なんか・・・怖いんだけど、お二人さん」

 そんなあたしの言葉にも動じることなく、お父さんは本題に入っていった。

「これを・・・」

 お父さんは、一通の手紙をテーブルの中央に差し出した。

「これから話をすることはすべて本当の事だけど、それを聞いて美咲がどう思おうが、どう感じようが、お父さんとお母さんは弁解するつもりはないよ」

 あたしの瞳を見つめるお父さんの目が、幾分潤んでいるように見えた。

「何から話そうか、どこからどう説明しようか、すごく迷ったんだけど格好をつけるのはよす事にしたよ。単刀直入にいうと・・・美咲は・・・お父さんとお母さんと血が繋がっていないんだ」

 閉じたお父さんの唇が細かく震えていた。

「もっと、もっと早く告げなければいけなかったんだけど・・・」

 お父さんは言葉を詰まらせた後、目を伏せてしまった。

「美咲は産まれてすぐ・・・養女としてウチに来たんだ。それはお父さんとお母さんが美咲を産んだ女性に何度も何度も、しつこい程お願いをしたんだ」

 まっすぐに伝わってくる悲壮感で、あたしの方もピリピリと緊張感を覚えていたが、その話はすでに知っていることではあった。あの日記に書かれていたことがすべて本当の事ならば、この後お父さんが口にする事はあたしの想像の範囲内であるはずだ。でも、今のあたしはそれらに反応する気はまったくといっていいほどなかった。

「そ、そうなんだ・・・。そうだったんだね」

 意を決したお父さんとお母さんの気持ちを裏切るわけにはいかないと思ったからだった。

「平成8年の・・・」

 お父さんはそれこそ実直に、それこそ誠心誠意慎ましく、事のすべてを話し始めたのだった。

 産まれたての我が子が間も無くして亡くなった事。

 その隣りで、何も知らない双子の女の子たちがすやすやと眠っていた事。

 それを目にしたお父さんが、唇を噛み締めた事。

 その時に妬みという感情を抱いた事。

 そして、双子を見つめながら新生児室のガラスを叩いた事もだ。

「普通じゃないのは・・・十分に承知していた・・・」

 お父さんは顔を一寸だけ上げた。

「神様を恨んだよ。いや、神なんていないとも思った」

 それをじかに聞いたあたしがどういうリアクションをとっていいかなんてわかるはずがなかった。ましてや、怒る事なんて。

「どうして・・・わたしたちがこんな目に逢うのかって・・・」

 それまで懸命に堪えてきたお母さんが初めて言葉を発した。

「どうしても、どうしても子供が欲しかったのよ。でも、どうしても出来なくて、不妊治療までがんばって、やっと授かった子だったのに・・・なのに、どうして・・・・・・」

 最後の方はもう言葉になっていなかった。お母さんはその場に崩れ去ってしまった。自分の身体を保つ事すらできずに、イスから転げ落ちるようにして。お父さんはそんなお母さんの身体を支えながら居間のソファにお母さんをそっと座らせた。

「恨むのなら、それでも構わないよ。美咲」

 お父さんは振り向きざまに滑舌良く、あたしにいった。

「で、でも、これだけは覚えておいてほしいんだ。お父さんとお母さんは本当に、本当に美咲を愛していたってことを」

 あたしの意識とは別に、涙が勝手に溢れていた。

「少し遣り過ぎたところは否めないけど、でもそれは美咲に不自由だけはさせたくなくてした事だから。他の子供たちと何ら遜色無く暮らしてほしかった。ただ、それだけだったんだ」

 あの毎年の異常と思えたプレゼントには、二人のそんな想いが込められていたなんて・・・あたしは自分の浅はかさを悔やんでいた。

「・・うさん、お母さん。ごめんさない。そして・・・今まで本当にありがとう・・・」

「えっ?」

 お母さんの肩に手を添えていたお父さんの表情が、初めてほぐれたように見えた瞬間だった。

「あたしは・・・」

 支えられていたお母さんも、顔を覆っていた両手を降ろしていた。

「あたしは・・・二人の子供でいれてとても幸せでした。本当にありがとうございました。これからも・・・よろしくね」

 あたしは駆けだしていた。あたしを20年間育ててくれた両親の元へと。両手を大きく拡げ、そして飛びつくように抱きついていった。


 今顧みれば、一番不幸せなのはあの二人なのかもしれない。あの二人の子供が果たしてあたしで良かったのだろうか。あたしはあの二人に変な感情を抱き、当分の間、素直になれないでいたから。

 二人に対する申し訳なさで、胸がいっぱいになっていた。

 あたしの部屋の机の上には、さっき差し出された手紙がある。封筒の真ん中に丁寧な文字で、

「田中・・・美咲様へ」と記されている。

 あたしはそれが誰から送られてきたものなのか、開けなくてもわかっていた。

「き、木村りつこ・・・さん」

 あたしが逢う前に息を引き取ってしまった木村律子という女性。そうあたしの産みの親・木村律子であろうことは、差し出された瞬間に感じとっていた。そして、それが何故今あたしの目の前にあるのか、胸騒ぎがそれを教えてくれていた。

 手紙の内容は、おおよそあたしの想像通りだった。自分の余命を察知した木村律子がこれを書き残し、ウチのお父さんに送ったのだろう。そして、これを開いたお父さんが心を打たれたに違いない。

 それは、運命に未だ逢うことを許されていない双子の姉妹、あたしと楓それぞれに綴られたものだった。

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