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日記  作者: ダイすけ
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楓の日記 その二十三

平成二十七年十二月三十一日木曜日 天気・晴れ


 今年も、あと少しで終わろうとしている。激動の一年といっても相応しいくらいに色々なことがあった年だった。

 三月には無事に高校を卒業し、麻巳子と額を擦り合せながら涙を流した。校門の前でママの写真と一緒に記念撮影もした。

 四月には地元ということもあって大間の漁組に、これも麻巳子と揃って就職したのだった。麻巳子とはこれからもずっと一緒にいれることになったので、私は思わず泣いてしまった。今度のは嬉し涙ではあるが・・・。

 慣れない仕事も麻巳子と二人三脚でこなしてきた。頭の良い麻巳子は何でも物覚えが早くていつも助けられてばかりいたが、八ヶ月が過ぎた今ではいくらか麻巳子の負担も減ったのではないかと思っている。

 そして、先月のはじめ、私は最愛の最後の身内を失ってしまった。そう、絹枝おばあちゃんが亡くなってしまったのだ。ママが亡くなってからずっと、私の事を気に掛けてくれていた。就職の時だって漁組の組合長さんの所に何度も何度も足を運びお願いしてくれた。

 仕事の事もそうだし、毎日の食事のこともそうだし、私の体の事もそうだ。何から何までおばあちゃんに心労を掛けていたに違いない。横たわったおばあちゃんの表情を見て、私は驚きを隠せないほどだった。以前よりも髪に白いものが増えていた事と顔の皺も前より深くなっていたからだ。

 ママが亡くなって肉親はおばあちゃんただ一人だった。だから余計におばあちゃんの事を大切にしていこうと心掛けてきたつもりではいたのだが、私のそれ以上に苦労を掛けていた事になる。それでもおばあちゃんはいつも私に対して、安らかで優しい笑顔を与えてくれた。

 つい先日、四十九日を終えたばかりだった。私のウチのお仏壇には、ママの隣りにおばあちゃんが並ぶことになった。

 ママと私とおばあちゃん。

 これで、同居というママの希望が叶った形にはなったが、素直に喜べない自分がいる。先日の仕事納めの時、麻巳子が私を誘ってくれた。

「一緒に・・・暮らさない?」かと。

 私はその麻巳子の言葉が、その麻巳子の気持ちが嬉しくて堪らなかったが丁重にお断りをしました。それは何故かというと・・・。四十九日を終え、おばあちゃんの家を掃除していた時だった。私はある事を閃いたのだ。

「今、返そう」と。

 そう、私に届けられたあの日記、絹枝の日記である。結局、開くことが出来なかった私。掃除をして片付けているのだから、今さら戻しても意味の無いことなのかもしれない。すでにおばあちゃんはこの世にいないのだから本当に意味の無いことなのかもしれない。でも、それでは私の気持ちが納まる場所を見つけられなさそうだったから、自己満足かもしれないがそのように私は決心したのだ。

 居間の奥の和室の書棚に戻された日記。私はついでにその書棚の引出しを整理しようと二段目のを開けた。そこには何通かの手紙が入っていた。どれも宛名に覚えのないものばかりだったが、最後の一通を手にした私は目を疑ってしまった。

 小刻みに震える手のせいで、私は目を細めよく凝らしてそれを見つめた。そこには・・・

「きむら・・・かえで・・・さまへ」

 真新しい手紙の表面には、よそよそしさを感じさせるほど丁寧な私の名前が書かれていたのだった。

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