美咲の日記 その25
9月8日(土) 天気・快晴
遠ざかる船着き場。潮の香りに包まれながらこの景色を見るのは、これで二度目だった。初めて見た時と心境が異なるせいか、もう淋しさは感じていない。今あるのは、清々しさというか、晴々しさというか、そんなすっきりとした感情が胸に残っていた。
結局、運命の出逢い、いや再会は果たしていない。
妹、になる楓の存在。
双子の姉妹、あたしと楓。
その二人の運命はまだ、二人が再会することを許してはいなかった。
あたしが届けた絹枝の日記。届けた時に玄関のチャイムを押そうと思えば押せたはず。でも、あたしの人差し指はチャイムを押す寸前で拒絶反応を見せた。
それは、あたし自信が望んでいないという証でもある。
「今まで通りの生活に戻ろう」
あたしの台詞は儚くも海峡の風にかき消されたが、あたし自信の気持ちの整理は出来たと思う。
あたしの両親のプレゼントから始まった一連の騒動も、それはあたしに対する何らかの警鐘だったのかもしれない。けれど、あたしはそれを選択しなかったのだ。妹・楓と再会することは、あたしの人生の中の選択肢のひとつに過ぎなかったということだ。
冷静に考えれば、冷静に済まされない事なのかもしれないが、それを取り分け波風立てることもないと、あたしは判断を下した。
函館に戻ればまた今までの生活が待っている。あたしにはその元の環境というものがあり、あたしの大切な人・真由があたしの事を想って待ってくれている。あたしはそれだけで十分幸せといえた。
初めて乗った時もそうだったが、米粒くらいに小さくなった船着き場が、どうしても作り話の世界のような、夢の世界のような現実離れしたものに見えて仕方がない。
「さようなら・・・また逢う日まで・・・」
それがいつになるのか、いつ訪れるのかなんてことはもう考えない。それこそ運命が二人の再会を許したならば、自然と二人にその日がやって来るはずだから。
「やっぱりあたしたちは、あの花火みたいだね」
咲いては散って、散ってはまた咲く大輪の花火たち。それらが同時咲く瞬間はなかなか無いものだ。あたしたちの人生もそんな刹那的なものに感じていたから、そう思っていた。
「元気でね。おばあちゃんのこと、よろしくね」
吹き抜ける風。波立つ水面は、あたしの心境そのものを現しているように穏やかだった。




