楓の日記 その二十二
九月八日土曜日 天候・快晴
木々のトンネル。
ここを通るのも久し振りのことだった。以前に来た時から半年は過ぎただろうか。冬の装いとは別にトンネルの隙間から舞い降りた枯れ葉が、私にカサカサという足音を聞かせた。
ここに来ることは自然と避けていたような気がする。この上の神社からは、煌びやかな海が見渡せるから。ということは、あの島を意識してしまうから。
その後、私の周辺では特に変わったことは起きていない。今になれば何だったのか。まるで夢でも見ていたような心地でもあった。
じゃ何故私が今ここにいるのかというと・・・。
軽く息をきらしながら、神社のいつもの階段に腰を降ろした私。乱れた呼吸を整えるふりをして心を落ち着けていた。それは、私の膝の上にあるこれの為だった。
「きぬえのにっき」
きぬえ、というのは私のおばあちゃんの名だ。そのおばあちゃんの日記が私の膝の上にある。この事は当然おばあちゃんは知るはずもない。
今日私が家を出る時、ウチの郵便受けにこれが入っていたのを見つけた。しかも、茶封筒には差出人の名も、消印も、切手すらも貼られていなかった。
私の想像は、巡りに巡った。
郵便受けに入れられていたこともそうだが、切手も貼られていないことが気になってしょうがなかった。この日記は郵便屋さんに届けられた物ではなく、ある第三者の手によって届けられたことになる。それは一体だれなのか。持ち主本人のおばあちゃんの仕業だとは到底に思えなかった。でも、おばあちゃんの日記をどうして第三者の人が持ち出せたのか。
疑問は積もるばかりだった。
それと、この日記が単なる日記でないことも、私は敏感に察知していた。わざわざ届けられた日記なのだから、それなりの理由が存在するに違いない。
「もうひとりの・・・わたし」
麻巳子が見たという、もうひとりの私のことを思い出していたが、そんなひとり言も緩やかな海峡の風に流されてしまったかのように、心地良ささえ感じさせてくれた。緊張感も無い、さっきまで思っていた疑問すらも吹き飛んでしまったように、無、になっていた。
「これを読んだ後・・・私はどうなってしまうんだろう」
これが宿命なのだとすれば読まなくてはいけない。これが運命なのだとすれば、きっと私はこれを読むことなるのだろう。そして、私が未だ知らない事実を、私が未だ知らない真実を知らされることになる。
一体誰がこれを届けたのか。そんな想いは、今ではそんなに重要なことに思えなくなってきていた。それよりも、その日記を届けた第三者の気持ちというか、思惑というか。そっちの方が気になって仕方がなかったのである。
私は自然とあの島を見上げていた。手にはおばあちゃんの日記をしっかりと握りしめながら。そして、私はこう呟いたのだった。
「これは・・・必然だったんだ」と。




