美咲の日記 その18
美咲の日記 その18
8月9日(木) 天気・雨
外は雨。
夏休みも終盤を迎えた。あたしは今シャーペンを上唇に乗せ、窓の外を眺めている。あれから1週間が過ぎた。この1週間、あたしはずっと抜け殻のようになっており、宿題もほったらかしたまま、ただただ時間だけを消費しているだけだった。
(あれから、どうなったのだろうか)
考えることは、中村律子のその後のことばかりである。もし万が一のことがあるようなら、あたしの両親が何らかの動きを見せると思われるので、今のところは大事に至っていないようだ。でも、お母さんが何度も電話をしているところは目撃していたが、その表情は決して明るいものではなかった。
真由も気遣ったメールを何度もくれた。その内容はあたしを心配するものばかりで、真由にはホントいつも世話になりっぱなしだ。
しとしとと降る雨。夏には珍しいくらい、静かに長く降っている。
あたしはそれを漠然と眺めながら、もうひとりの女性の存在を気にしていた。それはあの白髪のおばあちゃんのことだった。あたしに似ている女性だ。それを考えると、胸が締め付けられるように苦しくなる。
あたしは大きく深呼吸した。
あのおばあちゃんが看病しているということは、木村律子という女性は彼女の身内と考えられる。
姉妹。親戚。友達。
色々と想像は出来るが、どれもいまいちピンと来ない。あたしは、おばあちゃんのあの言葉を思い出していた。
「どうして・・・ここに」
「どこにいくんだい・えで」
誰かとあたしを間違えたようなもののいい方に聞こえた。そして最後の途切れた誰かの名前。たしかに呼んだのだ誰かの名前を、それは決してあたしの名前ではなかった。
じゃ誰と間違えたのか。あのおばあちゃんはあたしの顔をしっかりと見てからいったのだ。見間違っていったようではなかった。じゃその相手はどういう存在なのか、どういう関係なのか。
あたしの頭の中は、いろんな文字がグルグルと渦を巻いている。まるで洗濯機で新聞紙を洗ってしまったように。あたしはかぶりを何度も振った。いくら考えてもわからない、わかるはずもない。すべてがあたしの憶測に過ぎないから埒が明かない。でもそんなことは百も承知なのだ。百も承知の上でまた思い浮かべてしまう。
中村律子のことを、他人と思えないその人のことを。




