美咲の日記 その17の1
美咲の日記 その17の1
8月2日(木) 天気・晴
今日、あたしはもう一度だけキムラリツコに会いに行こうと思っています。昨日花火大会から帰るバスの中で、真由と話したことだった。
「美咲はもう心の整理ついたの?」と窓ガラスに映った真由の表情は、少し重たく見えた。あたしはその向こう側に見えるデパートのショーウィンドに目をやった。
「整理はつかないと思う。逃げちゃったしね、あたし」
喋る息で窓ガラスが白く曇ってしまった。真由はひと呼吸置いてからあたしの顔を見た。
「会わなくていいの?今のままで・・・いいの?」と呟くようにトボトボといった。
あたしはそれに返す言葉を迷っていた。真実を追求したい気持ちと、それを避けようとする気持ちの両方が、あたしの中に同居している。どちらもあたしの本心に変わりはないと思う。でも真実を追求した結果、どのような結末が待っているのか。あたしが想像できる範囲のことならば、その衝撃も大したものではないと思っていた。
その反対もそうだった。追求しないでこのまま何ごともなかったように暮らしていく。心の中にあるモヤモヤはいずれ自然と薄れていくだろうから。でも・・・後悔はしないのか。しないとはいい切れないのではないか。追求した結果があたしにとっての真実ならば、追求しなかったことですら後悔してしまいそうで、追求しない方が余計にいらない想像をしてしまいそうで。
「美咲らしくないね」真由はいい切った。「迷うのはわかるよ。でも知らないで後悔するより、知って後悔した方がよくない?後あと納得できると思わない?」
真由は必死だった。多分、あたしのことだから。自分のことのように考えてくれてるのだろう。また真由に感謝している自分がいた。
「あそこまで行けたんだから、次はきっと会えるはずだよ・・・キムラリツコって人に」
こめかみの辺りが、ピクンと反応した。
「会って・・・何話したらいいんだろう」
「何でもいいでしょ、そんなの。自然と言葉なんてでてくるよ」
「誰って訊かれたら?」
「その時は胸を張っていえばいいんじゃない。田中美咲ですってね」
「そうだよね」
あたしは小さく息を吐いた。まだ窓ガラスは白く曇ったまま、さっきまで窓の外に見えていたネオンサインはもう見えなくなっていた。通り過ぎる車の量もいささか減ったようにも感じる。
「美咲が行くなら、私も付き合うよ」
「ありがとう、心強いよ」
あたしは真由を見て、薄く笑っていた。
これから家を出ます。真由が待っているバス停に向かって。その先に一体どんな結末が待っているのか。あたしを待ちかまえている運命というものを確かめてこようと思います・・・




