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楓の日記 その九
楓の日記 その九
七月十一日水曜日 天候 晴
ママが病院を移ることになった。今日おばあちゃんが教えてくれた。おばあちゃんはそれだけを告げて帰ろうとしたのだが、私はそれを引きとめて訊ねた。
「ママ、重いの?」と。
おばあちゃんは突然目を潤ませ、鼻を啜った。
「そんなに・・・悪いんだ」
おばあちゃんは、コクっと頷いた。
「なんていう病気なの?」
おばあちゃんは唇をぎゅっと噛みしめ、息を殺していった。「乳がん」だと。
「それは前に手術したよ」と私はおばあちゃんの肩を掴んだが、首を二度振っただけだった。再発したということなんだ。きっと。
「ママは知ってるの?」
「ええ」
吐息まじりで答えた。
「治るの?いや、治るよね」
肩を掴んでいた私の手を、おばあちゃんはその上から被せるように握った。
「だから病院を移るんだよ」
おばあちゃんの表情は覚悟を決めているようにも見えた。
「もしかして、カンビョーってところ」
「知っていたんだね」と背中を向けた。
「いつ、移るの?」
おばあちゃんは顔を上げ、涙を拭う仕草をした後「十四日だよ」と呟いた。




