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―死―

 陽光が空間を照らしていた。そこは、自然の木々が長い年月をかけて出来上がったドーム状の鳥かごのような空間である。地は長々と茂った芝生が手入れもしていないのに綺麗に伸びて、程よいふわふわ感が出ている。

 そんな神秘的な空間に一体の大きな龍が居座っていた。それは、濁った赤色をした皮を持ち、表面はざらついてはいない。その証拠に、一人の少年が龍に背中を預けていた。龍は体を半円にし、大きな翼を畳んでいる。頭を茂った芝生に付け、気持ち良さそうに目を瞑っていた。

 少年の髪は金髪で、男の子としては長い襟首まで伸びた髪を持っていて、前髪が少し跳ねていた。

 そんな少年が、静かな時間の中、唐突に口を開いた。

「ねえ、君はどれくらい生きているんだい?」

 その問いに、龍は瞑っていた目を開き、

「ふむ、かれこれ六百年とちょっとと言ったところかのう」

「ええ!! 六百年!?」

その回答に少年は驚きを隠せず、思わず立ち上がっていた。

「ろろろ六百年って、君は何歳なんだい!?」

「いやいや、何歳というより、その年数が私の年なんだが・・・・・・」

「ご、ごめん。つい気が動転しちゃって」

 そう言いながら、少年は頭を擦っていた。

「驚くのも無理はないだろう。六百年というのは人間にとってはそれ相応の年月なんだからな」

「う、うん。分かってるよ。じゃあ君は、それだけ長い物語を持っているということだよね?」

 少年はこの間と同じように目を輝かせながら龍の正面に移動した。

 龍は多少たじろきながらも、

「ま、まあそういうことだ」

 と、言った。

 実際、龍にとってこの頃楽しいことといえば、ここに少年が来ることくらいなのであった。そのため、こうして少年と会話している時が今の龍にとっては一番の至福の時。喜びの感情を押さえるので精一杯だった。

「だが、その分悲しみや死もあい混じっているがな」

 だが、その言葉を放った瞬間の龍の表情は険しい。

「どういうこと・・・・・・?」

 少年が尋ねると、龍は大きなため息を少年が受けないような方向にすると、言った。

「六百年も生きていると、生と死の狭間にいるものを見るときがある。そのときはなんとも言えない感情が混み上がってくるものだ」

「もしかして、あのときみたいな?」

「そうだ」

 あのときのこととは、龍と少年がこうして顔を会わせるようになったきっかけである。それについては後程。

「あの時みたいに、人が死ぬ光景を何度も見たことがある。戦争、紛争といった大規模なものなど、小規模のものもみたことがある。どれも人の欲によって殺されていく。それを見ていると、息が詰まるものだ」

 少年はその場に立っていることしか出来なかった。少年も、あの時の惨事は知っている。むしろ最前線にいたにも関わらず知らない方が可笑しかった。

 今、少年がこうして龍の目の前にいられることも、息をしていられることも、この濁った赤色をした皮を持つ龍のおかげなのである。

 少年だって、そんなことは承知している。だからこそ、今もなおこの龍と交流を継続しているのだ。だが、彼にはそんな感情は無いだろう。恩を感じてこういうふうに合っているわけではないと言うことだ。

 まあそんなことはともかく、龍は過去に体験した惨事の数々を嘘偽りなく少年に伝えた。

 少年の顔からは輝きが失せていた。

「ということだ。最初は楽しい話にするつもりだったんだが、暗い話になってしまったな」

 龍はそう言うと、空間の端に移動し、座っていた少年に声をかけた。

「いや、平気だよ。生きていれば辛いこともあるよ」

 少年は顔に微笑を浮かべると、

「でも、生きていれば辛いことばかりじゃないよ。だって、あの時のことがあったからこそ、僕たちはこうして話していられるんだから」

 それに龍は多少安堵した表情を浮かべて、

「そうだな」

 今日はこれで龍の楽しい楽しい時間は幕を閉じた。



前回より間があいてしまいましたね。一応構想だけは出来ていたものの、なかなかどういう風に展開していこうか分からなかったためです。すいません。

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