ー約束ー
ささやかな悩み事を解決していくものなので、一回一回の文章量は少ないです。
自然の木々が絡み合って出来あがったドーム状の天井を持った空間には、木々の隙間から暖かい陽光が降り注ぎ、空間を照らしている。地は一面に生い茂った芝生が生えており、寝転べばふわふわするような、チクチクするような感触だ。
遠くからは小鳥の泣き声が聞こえる。
この空間内には龍がいる。濁った赤色の肌を持つ龍だ。体長は悠に十メートルを超えているだろう。龍は体を半円のようにして寝そべっていた。それは目を瞑り大きな鼻息を立てながら暇そうにしている。
と、木々の隙間から一人の少年が現れた。少年の顔はまだ幼さが残っている。髪は金髪だが前髪のところどころはねている。
その少年が来ると、龍の表情は光がともったかのように明るくなった。
が、龍の表情とは対照的に、少年の表情は陰っていた。
「・・・・・・、どうしたのだ、お主。顔が暗いぞ?」
大きな顔を、少年へ向け、しわがれた声で少年に言った。
「うん、そうなんだ。っちょっと嫌なことがあってね」
「何だ、嫌なこととは?」
その質問に、少年はすぐには答えなかった。
しばらく間を置き、
「約束を破られちゃったんだ」
「なるほど。そうか、それなら落ち込みかねないな」
それを最後にまた空白の時間が過ぎる。
「・・・・・・、それで、約束とは」
「うん、一緒に遊ぼうって言ったんだけど、約束した時間に来なかったんだ。それからしばらく待っても・・・・・・」
「ふむ。それは何か原因があるのではないかね? 例えば、知らず知らずのうちに、無意識のうちに、その子に嫌なことを言ってしまったなどなど」
「などなどって、何だか楽しそうだね、君は」
その質疑に、龍は「そ、そんなことないぞ」と言いながらもたじろいだ。
実際、龍は少年がいなくて寂しかったのである。
毎日来るような関係にはなったものの、それはいつでもというわけではない。来るとしたら夕方。早くてもお昼を過ぎてからなのである。それまで龍はこのドーム状の空間内で、お昼寝などをして過ごしていた。
そんなことは少年の心中には届かず、続けた。
「まあいいや。それで、何でだろうって思ったんだ」
「なるほど、そういうことか。私的には約束とは、契約と類似していると考えているのだ」
「契約と・・・・・・?」
「ふむ、意味的には似ているであろう」
少年は考えるような表情になった。すぐに答えを出したようだ。
「確かに。でも、それがどうかしたの?」
「では、まず私が先ほど出した思案は取り消してほしい。新たに考えを出すからな。まず、契約というものはお互いに合意のもとに成り立つ。約束も同じようなものだろう。だが、約束の方が、強制力がないように思わないかね?」
「うん」
「だからじゃないかと、私は思うのだよ。だから、今度会った時にはちゃんと話し合って訳を聞いておきなさい。そうしないとその子がまた同じ過ちをしてしまうかもしれない」
「そうだね、分かった。君に話して何だかすっきりしたよ、ありがと」
言うと、少年は先ほど出て来た木々の隙間へと向かった。
龍は少年の去っていく後ろ姿を見ながら、不思議な感覚を覚えていた。