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魔王の薬箱/続、魔王の薬箱

作者: riki
掲載日:2011/05/13

【魔王の薬箱】



 ドラッグストアの帰り、異世界に召喚されました。


 勇者として? ノンノン!

 魔王として? ブッブー!



 勇者は魔王をぶん殴って蹴り転がして簀巻きにして川に放り込んだ。

 城に帰って王女を娶り、今や次期国王。

 哀れ魔王は……。



 わたしの前には瀕死の魔王があっぷあっぷと流されていた。

 時々水中に沈みながらそれだけ状況説明できれば充分余裕だよね。

 川べりを歩きながら簀巻きの魔王を追いかける。


 あ、浅瀬に引っかかった。


 笹もどきの葉っぱで笹舟をつくり少し上流から流す。

 やめろやめろと煩い口に6艘めの笹船が突撃した。

 毛虫の船頭も可愛いんじゃないかな、と提案すると魔王が泣きだした。


 配下の魔族は勇者に討ち取られ、簀巻きの封印は破れない。

 わたしでも無理だよ、その緊縛解くの。えすえむぷれいだ。


 突風が吹き、引っかかっていた魔王がまた流された。


 え? よくあること? 海まで行けそうだ? あっそう。

 空腹の心配はしなくていいね、大量に水を飲んでいる。



 なんだ、集中すれば簀巻きから出られるなら集中しなよ、期末テスト前日の晩なみに。

 傷が痛くて脱出の魔法が使えない? 封印が強力すぎるって?

 そういえば勇者にボコボコにされたんだっけ。

 勇者につけられた傷は自然に治らないの? ふうん、残念だね。


 でさあ、わたしを何のために呼んだの?

 ほうほう、へえ。


 ところで、水切りって知ってる?


 うりゃっっ!!


 ……そんな絶叫しなくても。

 ただの石、当たっても痛いだけだから安心して?

 狙ってる? やだな誤解しないっ、でぇいっっ!!

 ちっ、沈んでよけるとは器用な。

 狙ってないってば、ほんとほんと。

 両手の石はなんだ? 下手な水切り数打ちゃ当たるって、ねぇっっ!!



 はぁっはぁっ。

 ……休戦ね休戦。オッケーベイベ。

 着替えないのにびしょ濡れだよ、まったくもう。

 あなたの願いを叶えてあげる。だから帰してよね。

 ようするに痛みを感じないようにすればいいんでしょ?


 ん? 準備だよ。全部出してるの。

 用法用量を守ってたら効かないかもしれないし、なんたって魔王だもん。


 ほらこっち寄って。岸まできてよ、わたし絶対川には入らないからね。

 エビになるのよ! 心も動きも川エビそのものに!

 違うっ、それで紅天女が演じられるかーっ!!



 やればできる子ねマヤ。じゃない、マオウだった。

 口あけて。

 笹舟じゃないって、薬。あなたの望んだ薬だよ。

 わたしと一緒で半分はやさしさでできているの。

 怪しい? 効能が期待できない?


 ――つべこべ言わずに飲めっっ!!!!






 鎮痛剤が効いた魔王が簀巻きから脱出した。

 その場でぶっ倒れた。


 ……一応ね、追加でパブロンもベンザブロックも葛根湯もありますけど。

 わたしいつになったら日本に帰れるんだろう。


 薬箱扱いする青年の熱で赤いほっぺをつねったら、うっすらと目を開け「ありがとう」なんて言うから。

 冷えピタをおでこに貼りつけてやり、溜息を吐いた。



 はやく風邪治してよね。





【続、魔王の薬箱】



 息苦しい。

 身体が熱いのに寒気がする。

 目を開けると青年が覗きこんでいた。


「キィーキィッ? キィーキャアーアー!」


 やかましい。

 ビシッと眉間にチョップをかまし、超音波を発する青年を黙らせた。

 そのままとろとろと意識が闇に飲まれた。




 喉が痛い。

 何かが引っ掛かっているようで、咳払いをしたらコンコンと連続的に咳が出る。

 やだな、風邪ひいたのかな……。

 目を開けると青年が覗きこんでいた。


「キィー……っと、ごめん気を抜いたら魔族語が出てしまうんだ。熱は引いたけれど、他に具合の悪いところはあるかい?」

「……のど、痛い」


 チョップを形作ったわたしの手に慌てて人語に改めた青年が、なにやらがさごそと袋をあさっている。

 右手が疼くわー……それわたしの買い物袋じゃない?

 看病していたはずだけど、いつの間にか役割を交代してたみたい。


「これを」

「ダイエットウエハースだからそれ。喉が干からびるわ!」


 さらにがさごそ。


「これかい?」

「ポカリスエットの選択は正解、ただし粉末じゃなかったらね! 水もくれない?」

「水か!」


 喜色を浮かべた青年がなにかを受けるように手の平を表にし、両手を合わせた。

 起き上がって見ると、青年の手にみるみる水が湧いてくるところだった。

 さすが魔王。

 出所がアヤシイけど、脆弱な日本人が川の水を飲むよりお腹を壊さないだろう。

 口をつけようとしたら、青年がぐいっと腕を伸ばし、わたしの口元に持ってきてくれた。


 ためしに水をすくってみて下さい。

 わたしが水を三分の一飲む間に、三分の二が青年の手からボタボタとわたしの上に落ちてきた。

 ブラが透けてます。

 ……ふざけるな魔王。

 ひったくった袋からトローチを一個出し、半分に割って青年の両鼻に詰めてやった。「スースーする」と涙目の青年が口で息をしていた。

 わたしの胸もスーッとした。

 パッケージに偽りなし、最高にクールな気分だ。


「……で、もう簀巻きから出られたんだし、用はないでしょ。いつわたしを帰してくれるの?」


 もごもごとトローチを舐めながら尋ねると、青年は明後日の方を向いた。


「薬が……必要だと思ったらきみが来てくれた」

「はいはい、呼ばれて飛び出て来ましたねー」

「とても嬉しかったんだ」

「どういたしましてー」

「必要なくなったから帰ってほしいと思えば、帰せるのかもしれないけれど」

「けど?」

「…………きみを帰したくない」

「告白か!」


 ツッコミチョップによって明々後日の方を向いた首をグキリと戻し、「きみを必要ないなんて、ぼくには願えないよ」と困ったように言う。

 困っているのはこっちです。

 半分だけ服用させたやさしさが効いたのか。むしろ熱が上がってるから効かなかったのかも。

 やっぱり百パーセント有効成分じゃないとだめだったんだ。

 冷えピタもなくなっちゃったし、どうしよう。


「…………薬なら残ってるのを全部あげる」

「薬はもう必要ない」

「あっ! 消えた! 消えたよ!? なに薬だけ帰してるのばかっ!!」


 ズビシズビシと連続攻撃に耐える青年は、痛そうだけどちょっぴり嬉しそうでもあり。

 ……えむだ。


「~~わかった! わたしあなたに嫌われることにする! もう顔も見たくない、頼むから帰ってくれって思わせるから!」

「ではぼくはきみに好きになってもらえるように努力するよ」

「軽くしばくよ?」


 なにをイカガワシイ想像をしたのか頬を染めてうつむく青年を全力でしばき倒し、とりあえずマントをはぎ取ってすっぽりとかぶった。

 勝負下着じゃないしね。


 嫌われないと帰れないけど、魔王を調教してても帰還の道は遠そうだ。

 わたしいつになったら日本に帰れるんだろう……。

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