そして、超能力を知りました。
「おはーっす」
元気そうな声が、ドアの開く音共に、聞こえてきた。
私は、ゆっくりと体を起こして、目をこする。
「お…はよ…」
私は、眠たそうに少しお辞儀をした。
「俺、雪原睦月と言いますっっ!よろしくっす!綺羅さんっ!」
昨日、迎えに来てくれるのは、霧生だと言っていたのに、今日は、知らない人だった。
あ、でも、この人も、私が昨日ソファーで寝ていたとき、私を囲んでいたような。
「雪原…くん。霧生は?」
「はっ。睦月と呼び捨てでオッケーっす。霧生先輩は、朝からTPの仕事があるようで、先に学校に向われました」
TPという聞きなれない言葉に、私は少し首を傾げた。
すると、睦月は、ハッとして、頭を下げた。
「申し訳ありませんっ。えっと、説明してませんでしたね。HSの事を」
「うん」
睦月は、少し考えた素振りを見せて、説明し始めた。
「えっとですね…TPというのは、Trust&Psychicの略です。Trustは、信頼。Psychicは、超能力者を表します」
私は、いきなり英語が入ってきて、少し困った顔をする。
「えー…と、それで、そのTPは何なの?」
「はい。TPは、信頼のある超能力者を言います。この学園の中から、B~Sランクの中の信頼のある人達を集めたのがTPですね。いわば、この学園の生徒会のようなものです」
「んー…B~Sランクって何?」
「この学園には、6段階の超能力ランクがあります。一番上は”Sランク”。その次は”Aランク”。その次は”Bランク”というように、下に下がっていく事に、超能力者の強さが弱っていきます。Eランクは、一輪のチューリップをいつでもどこでも咲かす事ができる等、戦いで必要性のない能力を持っている方達です」
「それでも、十分すごいけどね…」
「そうですね。ですが、これで成り立っているものですから。そして、高いランクを説明しましょうか。まずAランクです。Aランクは、火を自由自在に出来る等、物を自由に動かせる人達です。そして、一番高いSランクですが、Sランクは、例えば、俺が知っている限りでは、一部の酸素を一酸化炭素に変える等、空気を変える能力や、自然現象を操れる等、世界を破壊できるような能力を持っている方々ですね」
「え、ちょっと待って。そんな人が、この学園にいるの!?」
私は、Sランクという言葉に恐れを感じた。
なんて、すごいんだ。
超能力どころじゃない、魔法だ。
「この学園には、今のところいませんね。この世界を探しても10人もいないと俺は聞きました。もう既に、老人になられている方もいるでしょうし、Sランクは将来いなくなるのではないかという噂も聞きます」
「で、睦月は、何ランク?どんな能力があるの?」
睦月は、ギクッという顔をした。
「えっと…恐れながらAランクです。一応、水を自由自在に操れます」
そう言って睦月は、指先に水の渦を作った。
「すごいじゃない!睦月もTPなの!?」
「昨日、綺羅さんの周りに居た皆TPですよ。昨日、あなたが入った部屋は、生徒会室です」
「あ、そうだったんだ。え、じゃあ、生徒会長とかいるの?」
生徒会長という言葉を聞き、睦月の目はいきなり輝きだした。
「もちろんですっっ!!星斗会長は、Aランクの中でも上級で、人柄も素晴らしく…」
星斗会長という事は、神高星斗くんが、星斗会長なのね。
私は、そこは理解したけど、睦月は、神高くんについて語り始めた。
「それでですね…何より素晴らしいというのが、あの誰にでも優しく温かい目で見てくれる心の広さ…」
「ちょっとまって!分かった!会長の素晴らしいところは、十分分かったよ。それに、TPの説明も詳しくありがとう。それで…私、いつ学校行ったら良いんだろ?」
すると睦月は時計をみてハッとした顔をして、
「わぁぁぁっぁぁぁ!もう8時です!!朝礼がぁぁぁぁ!綺羅さん、制服に着替えて下さい!あ、朝御飯そこに置いてあるので食べてください!!準備できたら、すぐに外に出て来てくださいね!!」
変わった子だなあ…。私より背も小さいし、後輩なのだろうけど、友達が出来たみたいで、嬉しい。
それにしても、私は、何か能力あるのかな…。Eランクでも良いから、何かあるのなら、この学園にいても良いのかな…。
私は、少し不安な気持ちもありながら、机に置いてある食パンを少しかじった。
そして、制服に着替えた。
改めて鏡の前に立ってみる。
どんな髪型で行けば良いのだろう?
鏡台には、櫛や、黒い髪ゴム。ワックス。くせ毛直しなど、揃っていた。
私は、少し髪をまとめてみた。
ポニーテール。横結び。三つ編み。
そういえば、私って何歳なんだろう?
そう思うとパッと答えが浮かんできた。
基本的情報は、すぐに浮かんでくるのに、何で、記憶という記憶は浮かばないんだろう?
私は、高校2年生。
普通の女子高生として、私は過ごして良いのかな?
私は、ポニーテールに決めて、外に出た。
「なんだー、今日の綺羅は可愛いな!」
学校に行くと、さっそく霧生と出くわした。
「そうでしょー!霧生先輩!綺羅さん、ポニーテールも制服も似合ってます」
「からかわないでよっ。こういう気分だったの!」
霧生は、私の頭に手を乗せて、
「まあ、怒るな。これから、お前の能力調べるから、追いて来い」
「うんっ」
とうとう、分かる時が来てしまった。
私は、もしも何も無かったらどうなるのかが、心配でたまらなかった。
ここを追い出されたら、私はどこへ行けば良いのだろう。
そう考えると手が震えだした。
「…っ」
「綺羅?」
霧生は、私の異変に気付いた。
「霧生先輩どうしたんすか?」
「睦月。先に行っててくれ。俺たち後で行くから」
「えっあっはい」
「じゃ行くぞ」
そう言うと、霧生は、私の腕を引いて、階段を上に上がった。
「な、なに!?」
「俺の好きな場所へ連れて行ってやる」
「好きな場所…?」
行き着いた先のドアを霧生は勢い良く開けた。
すると、風がビューッと吹き抜ける。
明るい…
「水色…」
そこには、綺麗な透き通るような水色の世界があった。
「これが空…」
「まるで初めて見るように言うんだな」
霧生は不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「そうだね。でも、私の記憶の中では始めてなんだ」
「あー。なるほどな。お前記憶がないんだったな」
「私に似た、あの女性が言ってた。空を見てみたいですか?って」
「へぇ」
「で…私は、素直に見たいって思ったんだ!空って響きが懐かしくて。なんか温かいの」
霧生は、優しく微笑んでくれた。
「すっきりした!ありがと!霧生」
「ん。じゃ、行くか」
「うんっ!」
私はそういって、屋上を後にした。
能力調査室という部屋には、神高くんや、その他大勢のTPと見られる人達が集まっていた。
「じゃ、これから、綺羅さんの能力を調べたいと思います」
神高くんは、私に向って言う。
「はい」
私は、迷いの無い返事で答えた。
「じゃ、まずだ。まずは、人差し指に神経を集めるような感じで、この的を狙ってみて」
「…」
私は心を落ち着かせて指先に神経を高めた。
そして、バッと放ってみる。
「…」
何も起こらなかった。
やっぱり…。私には何の力もない。
私は…
「何も無い筈は無いんだがな。こんだけの強い威圧を放っているのに」
霧生は、神高くんに言った。
「僕もそう思う。」
神高くんは、少し迷った顔をして、少し頷いた。
「じゃあ、少し、危ない実験だけど…」
そう言って、私に向かって神高くんは人差し指を突き出した。
「何をするつもりだ!?」
霧生は止めに入った。
「僕に少し心当たりがあるんだ。多分、当たってる」
「…?」
私は、何の事かまったく分からず、私を指している指に少し恐怖を感じた。
「君なら、大丈夫だから」
そういって、神高くんの指先には、どこから集まってきたのか眩い光が集まる。
「僕は、光を自由自在にできるAランク。この光の熱さは青い炎より熱いと言われている。」
「な、それを何で私に向かって…」
私は、あまりの恐怖に動けずに、立ち竦んだ。
「大丈夫…」
そういって、神高くんは、私に向かって光を放った。
私はとっさに、腕を前に出した。
やばい!!!
と思ったが、私は、何とも無かった。
「今のを見たか?」
神高くんは、皆に向かって言う。
皆は、口を開けたまま唖然としている。
「今のは、なんなんだ!?」
霧生は、慌てて私の腕に触る。
「なんともない…」
霧生は、私を見て驚きながらも、後ずさった。
「君の中に、僕の光が吸い込まれていった」
「え?」
私は、自分で何をしたのか分からず、自分の腕を見つめた。
「もう一回、さっきやった人差し指に神経を集めて的に当ててみて」
私は、コクンと頷き、もう一回目を閉じて神経を指先に集める。
すると、私の指先に光が集まってきた。
そして、私は、的に放った。
ブシャアッ
的は、跡形もなく破滅した。
「これは、神高くん…が…」
「そうだ。綺羅さんは、僕の技を吸い込み、そして、会得した。」
私…が…?
「おい。星斗。何で、そんな事、お前に分かったんだ?」
霧生は、神高くんの肩を掴み問いかけた。
「昨日、今日の調査の為に少し調べてたんだ。超能力の種類を。すると、ある写真が載った資料を資料室で見つけた」
そういって、霧生に神高くんにその資料を渡した。
私も、それを覗いた。
「えっ…」
そこに載ってある女性の写真。
「この女の人…綺羅に似てないか…?」
霧生は、こっちを見て、そう言った。
この人は…絶対そうだ。
私を、助けてくれたあの、女の人。
「その女性の名前は東 綺李。きっと、綺羅さんの姉か母親だろう。この人も、相手の能力を吸い取り、会得する力を持っていた。そして、この世にある全てのAランクとほとんどのSランクの力を会得したと言われる伝説の女だと書いてあります」
「私の、家族…」
だから、似ていたんだ。
「この女性は、凄い人なんですよ。能力を吸い取り会得するというのは、Sランクの中で、一番怖いといえる能力です。Sランクの力を持った人々は、自分の力に酔いしれ、そして、人を殺す快感を覚えてしまう。Sランクの人々は、元々、何百人といたのです。しかし、ほとんどの人が誤った方向に力を使い、東綺李は、自分の力に酔いしれる事なく、平和を祈りその人々を抹殺した。今、Sランクの人々が2桁もないかもしれないといわれるのは、この人が、誤った人々を殺したからです。今では、伝説の人となっていたようですが、本当にいたとは…」
「今も生きているの…?」
私は、なぜか、体が震えた。
そんな大きな力を私が持っているなんて。
「消息不明です」
消息不明…。
でも、私は確かに昨日、見たんだ。
東綺李を。私の肉親を。
沈黙から、神高くんは、バンッと手を叩き、
「という事でっ、綺羅さんは、Sランクの能力という事です!晴れて、この学園の学生ですね!」