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 気密ハッチを蹴破って艦外に顔を突き出したクロエは、氷点下の暴風に目を細めつつ、艦の状況を素早く確認する。

 機体の空力特性で浮かんでいる飛行機と違い、飛行船の場合、浮力が残っている限り「墜落」はない。浮力ガスの漏出は進んでいるが、いきなり墜落するような事態にはならないだろう。だが、破損した構造材を大量に撒き散らしながら進む艦体の方は、すべての浮力ガスを失って地上に堕ちるより先に持たなくなる。

 視線を周囲に転じる。青白い月光を孕んだ闇は深く、どこにも逃げ場はなさそうだ。

 クロエは視界を熱分布画像(サーモグラフィー)モードに切り替えた。

 眼下に遠く、小さな熱源が見える──〈アリーズ〉!

「少佐!」



『──少佐! 出なさい、少佐!』

〈アリーズ〉船内で〈大聖堂(カテドラル)〉の兵士たちに向けて自動小銃をぶっ放していた少佐は、偉そうにがなり立てる腰の無線機を手に取った。クロエに持たされた〈大聖堂(カテドラル)〉の無線機だ。

 少佐は苦い表情で送信ボタン(プレストーク・スウィッチ)を押して応えた。

「何か用か?」

『そっちの状況はどうなってるの?』

「予定通り浮力調整室は押さえた。既に高度は下げ始めている。ただ、ここを奪還しようと敵が押し寄せてきてるんで、そいつを今、船内で募った乗客たちと防戦して──」

『そこから〈アリーズ〉の操舵は可能?』

 こちらの説明を途中で断ち切られた少佐は不快気に眉を顰めつつ、浮力調整室の室内で機材を操作している軍曹に話を振った。

「多少は。ただ推進機を潰されてますから、あくまで操舵だけです。視界も効きませんから、計器操舵に限られます」

「──だ、そうだが?」

『充分よ。これからあたしの言うとおりに操舵してちょうだい』

「お前、それ以前に今どこにいるんだ?」

『その内、気が向いたら話すわ』

「……手前ぇ……」

『いいから、さっさと言う通りになさい!』



 気密ハッチから身を乗り出したクロエは、そのまま頭から夜空に飛び込んだ。

 頭部を下にそのまま自由落下──その姿勢で、数百の高度を一気に降下すると、そこからは手足を広げ、空気抵抗で落下速度と方角を調整する。

 ちっぽけだった〈アリーズ〉の姿が、ぐんぐん大きくなってゆく。

 超高度の凍てついた大気を引き裂いて、クロエの身体は落下してゆく。

 やがて二、〇〇〇を越す高度を降下し、狙い通り〈アリーズ〉の天井に落着──派手な衝突音とともに、気嚢部天井外壁の高張鋼板に身体を(うず)めてクロエは落下を終えた。

「………………」

〈アリーズ〉の天井に大の字になってその身を埋めたまま、クロエは天を仰いだ。

 降るような満天の星々が、揺らぐ大気越しにきらめいて輝く。駆逐艦(デストロイヤー)からは距離的にずいぶんと離れてしまったこともあり、もうここからは見ることはできない。あるいはもう空中分解してしまったか。

 クロエはそのまま瞳を閉じ、深く息をつくと、眠るように〈アリーズ〉にその身をゆだねた。

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