魔王様のペット(?)
魔王様に抱かれながら、ベッドに寝転がって数時間。
窓の外は既に真っ暗になった。
さすがに異性に抱かれながら、眠りに落ちることが出来なかったから、魔王様のお顔をずっと眺めていた。
穏やかに眠っていた魔王様から威圧感が消え、代わりに儚いくらいの美しさが残った。
(まつ毛長い……目が吊り上がっている)
観察していると、目が微かに震えたのが見えた。
やがて瞼が開き、深い赤色の瞳に、自分の顔が映った。
「っ!おはよう、ございます……?」
「……」
魔王様は起き上がり、窓の外を見る。
「もう夜か」
完全に回復した魔王様は、すぐベッドから降りた。
私も起き上がろうとすると、魔王様は私の腕を掴んで、引き起こした。
「行くぞ」
どこにって聞きたいけど、魔王様から有無言わさない雰囲気を感じる。
大人しく魔王様の後をついて行くと、食堂にたどり着いた。
テーブルには既に、それなりの量の料理が並べられている。
魔王様は私を席に座らせ、彼は隣に座った。
「えーと?」
戸惑いながら、魔王様を見ると、彼は手を組みながら、私を見ていた。
「早く食え」
なぜか魔王様に、私の食事を監視されている。
恐る恐る食器を持ち上げ、目の前に置かれたサラダのプレートから野菜を取り、口に入れる。
最初はゆっくり噛む。
新鮮……とは言えないけど、飲み込める。
サラダのプレートを食べ終わった私は、少し魔王様を覗く。
「ご、ごちそうさまでした」
「もっと食え」
サラダだけでは納得できないらしく、魔王様はステーキを私の前に差し出す。
私はそのステーキを小さく切り分け、口に運ぶ。
今度はより慎重に噛む。
(ちゃんと柔らかい)
ステーキも平らげたあと、もう一度魔王様を覗く。
彼はまだどこか不機嫌そうにしている。
そして今度は、スープを差し出した。
でも、すぐに手を付けることが出来なかった。
「えーと」
「どうした」
「……飲まないと、ダメですか」
「嫌いなのか」
どう答えればいいのかわからない。
私は、弱々しく呟いた。
「液体は……何か混ざっていると、避けられないので」
それを聞いた魔王様は、テーブルに置かれたスプーンを持ち上げ、スープを一口飲んでみせた。
「これでいいのか」
「……はい」
少し驚いた。
魔王様が、自ら毒味をしてくれた。
彼の好意に甘え、私は少しずつスープを飲み干した。
出された料理の四分の一くらい食べ終えた頃、私はやっと魔王様に解放してもらえた。
「もう、お腹いっぱいです!」
と言っても、涙目を浮かべながら魔王様に懇願したから、やっと許してもらえた感じがした。
「少ないな」
魔王様が小声で呟いた言葉はとても恐ろしく、聞こえないふりをした。
食堂を離れた後、魔王様は私を庭へ連れ出した。
夜の魔王領はかなり暗く、足元さえ見えなかった。
私は転ばないよう、暗闇の中で恐る恐る足を踏み出した。
そのせいで、あっという間に魔王様の姿が見えなくなってしまった。
「魔王様?」
周りを見回しても、何も見えない。
それでも先へ進もうとした瞬間、足元に何か引っかかった。
「きゃっ」
体が傾き、痛みを覚悟した時、腕が誰かに捕まえられた。
「何をしている」
見上げると、魔王様の赤色の瞳は、夜の中でもよく見えていた。
「暗くて、躓いて……」
魔王様は私の手を、自分の腕に回した。
そして反対側の手で、炎を出した。
「しっかり捕まってろ」
そうして、魔王様はゆっくり歩き出した。
(歩幅……私に合わせているのかな)
魔王様の行動には不可解だけど、今はその気遣いに甘えることにした。
庭をぐるりと回った後、魔王様は私を部屋まで送った。
「明日の朝、迎えに来る」
それだけ言って、彼はどこかに行った。
私はベッドに体を埋め、今日のことを思い返す。
(添い寝した後の魔王様、変だったな)
私の食事を監視して、夜の散歩に連れ出した。
――まるでペットのお世話だ。
(もしかして、私を犬みたいに扱っている?)
ようやく納得の行った答えにたどり着き、私は安心して、眠りについた。
――――――――――――
《デオボロス目線》
あの娘にチョーカーを渡した後、俺は狩りに出た。
魔王城から出て、瘴気の森に入る。
抑えきれない嗜虐心を発散するために、ほぼ毎日、魔物を探し、痛める。
魔物は大して理性を持っていないから、泣き叫びも命乞いもしない。
発散相手としてはやや不十分だが、ないよりましだ。
先代魔王のせいで、気軽に人間を狩れなくなったから、これで我慢している。
本当は今からでも、あのふざけた協定を廃止してやってもいいのだが、それはそれで面倒だ。
勇者でも来られたら対処に時間がかかる。
今日は森の奥まで進み、大蛇や巨大蜘蛛など、出会った魔物を片っ端からいたぶった。
それでも足りないと、更に奥へ進み、瘴気濃度が高い場所まで来てしまった。
(そろそろ帰るか。これ以上殺したら、魔物の生態が崩れる)
でも大量の瘴気を浴びたせいで、嗜虐心が全く収まらない。
胸の奥がイライラして、周りの木々さえ、煩わしく感じる。
いっそ、ここら一帯を平らげてしまいたいくらいだ。
いよいよ限界が近づいた時、あの娘が頭に浮かぶ。
(あいつを試してみるか)
俺は転移を使って、すぐ魔王城の部屋に戻った。
そしてあの娘につけたチョーカーに魔力を送り、彼女を呼び寄せた。
彼女はきょとんとした表情を浮かべたが、それを構うことなく、俺は彼女を強く抱き寄せた。
(これは……想像以上だ)
胸の奥に秘めた暴力衝動が徐々に消えていく。
やがて完全に収まり、今度は酷い無力感が襲った。
(暴れすぎたか)
俺は彼女を抱き枕にして、眠りについた。
(軽いな……それに細すぎる。もっとに肉をつけさせた方が、抱き心地が良さそうだ……)
意識を失う前に、ぼんやりと、そう考えた。
目覚めた後、辺りは既に真っ暗だ。
「っ!おはよう、ございます……?」
彼女の月のような、銀色の瞳が、すぐ近くにあった。
とても美しく、もっと見ていたいが、時間はもう遅いらしい。
俺は彼女を食堂に連れて行った。
彼女に、食事をさせるために。
彼女は食事をする時、一口がとにかく小さく、やけにゆっくりと噛んでいた。
人間はこうやって食事するのか。
しかし彼女はサラダ一皿だけで手を止めようとした。
これだと肉が付かない。
俺は次々と食べ物を差し出す。
スープを飲む時だけ、彼女はやけに悩んだ。
毒が入っているかが心配だったようだ。
未だに俺らに殺されることを、恐れているのだろうか。
俺は彼女の前で、それを飲んで見せた。
魔族には食事はあまり必要ないが、趣味として食している魔族はいた。
俺には、その良さが分からないが。
でも、人間は食事しないとすぐ死ぬ。
とても軟弱な生き物だ。
彼女に死なれては困る。
だから、いっぱい食べさせないと。
しかしテーブルにある食べ物の半分すら食べきれず、彼女はもう無理と訴えた。
これだけの量で、果たして生きていけるのだろうか。
まあ、今日はこれくらいでいいだろう。
食事の後、彼女を庭に連れ出した。
人間はたまに運動しないと、体が弱まる。
だから適度に動かせないといけない。
しかし彼女は暗闇の中では危なっかしく、彼女の手を腕に回すことにした。
本当に人間は危なっかしい。
攻撃すればすぐ死ぬ。
なぶり甲斐がない。
しかし今日で彼女の力を思い知った。
今後は狩りに行かなくても良くなった。
しかし彼女をちゃんと見ておかなければならない。
知らないところで死なれては、困る。




