勇者パーティー1
ここからしばらく勇者編が始まります
《バルド目線》
僕とステラ様は、ディアナ様を魔族の森から救出することを決断した。
それに当たって、僕たちが最初にすることは――
「勇者パーティーを結成しましょう!」
僕はそう提案した。
「勇者パーティー?」
「僕たちだけで、魔族の森に入るのは危険です。瘴気もありますし、敵となる魔族の数も未知数です。僕だけでは、ステラ様を守り切れないかもしれません」
「そうね。瘴気は私が浄化できるけど、移動中ずっと浄化するとなると、すぐ力が尽きてしまいそう」
「なので、戦力になる人と、浄化魔法ができる人が少なくとも1人ずつパーティに入れたいです」
「そうね……宮廷の騎士を借りるとか?」
「壁の向こうに行くとなると、王が許可しないかと……それに我々はディアナ様を救うことが目的です。そのことに反対しない人の方がいいでしょう」
「戦力になりつつ、ディアナを助けることに反対しない人か……」
僕もステラも、頭を抱えながら、考え込む。
この王城で働いているものの多くは、ディアナ様を忌み嫌っている。
そう簡単にいい人が見つからないのは目に見えてる。
「戦力になれる人は僕が探しますので、ステラ様は魔法使いの方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
ステラ様聖女ゆえに魔法の扱いも勉強している。
きっと僕より、いい人選が見つかるだろう。
「わかったわ。見つかったらすぐ報告し合いましょう。ディアナが心配だから、なるべく早く助けに行きたい!」
「承知しました」
そう言ったものの、王城の騎士に安易に聞くことが出来ず、僕は街に出た。
「どこかにいい人材がいないだろうか」
冒険者や傭兵でも雇うかとも思ったが、魔族の森に入るとなると、簡単に頷く人もいないだろう。
ぼんやり考えつつ、適当なお店に入る。
(ここは腹ごしらえしながら、考えよう)
店に入ると、中は人で混み合っている。
「おう、兄さん、いらっしゃい。今混んでてね。相席でもいいかい」
「かまわない」
店の人は、僕を一番奥の席に案内してくれた。
そこには、ガタイの大きい男が、1人で酒を飲んでいた。
(こんな早い時間から飲んでいるのか)
今はまだ昼時。
多くの人は食事しに来ている中、酒瓶を手にしている彼だけは、異質に見えた。
僕は彼の向かいに座った。
「Aセットをくれ。後、お茶も」
「はいよ」
簡潔にオーダーを済まし、店員が遠ざかったのを見て、僕は頬杖をつきながら考え込む。
(やはり冒険者ギルドをあたってみるか……報酬を弾めば受けてくれるかもしれない。本当にダメな時は傭兵を――)
「おい、そこの兄ちゃん。辛気臭い顔してんね」
向こうから話しかけてくる声がした。
顔を上げる。
「僕のことだろうか」
「兄ちゃん以外、誰がいんだよ」
白に近い灰色の短髪に、青い瞳。
顎に髭が雑に生えている。
この国の住民にしては黒く焼けてる、筋肉質な体。
――よく鍛えている人だ、そう印象を受けた。
「失礼だが、あなたは武道に心得がある人だろうか?」
「武道ー?そんなもん学んでないよ」
「うむ、そうなのか。体がよく鍛えられているから、そう思ったのだが」
「はっ、そいつはうれしいね。オレにとっちゃ、これは生き甲斐みたいなもんで」
彼は自分の上腕二頭筋を力強く叩く。
まるで自慢するかのように。
「体を鍛えるのか、生き甲斐?」
「おっと、鍛えるのも良いが、生き甲斐というのは、こいつを使うってことだ」
「使う、というのは」
「なんだと思う?」
彼は鋭い目尻を吊り上げ、ニヤリと笑う。
(筋肉を使うってことは、冒険者や護衛の類だろうか)
「もしや冒険者なのか?」
「冒険者ね〜いい線行ってるけど違うなー」
彼はニヤニヤと笑い続けた。
「はい!お待ちどうさん」
「どうも」
店員から食事を受け取り、僕は考えることをやめて、食べることに集中することにした。
「もう降参かよ。つまんねーな」
彼も僕に絡むことを諦めたらしく、酒瓶をあおった。
食事を終えて、僕は店から出た。
なぜか相席した彼も一緒に。
「失礼だが、あなた、仕事は?」
今は普通の人なら働いている時間だ。
なのに彼は酒を飲んでいた。
普通とは思えない。
「仕事はしてねーよ。そんなつまんねーこと、やってられっか」
「そうか」
まあ、人にはそれぞれ事情があるのだろう。
僕はまたふらふらと、街を歩き出す。
彼も僕の後をついてきた。
(彼は何かしたいのだろうか)
「あの、どうして僕についてくるんだろうか?」
「ん?んー、兄さんについてくと、面白いこと起きそうだから?」
「それはどういう――」
「キャーーー」
突然街の向こう側から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
僕はすぐそこまで駆けつける。
そこには明らかに殴られて倒れている数人と、何人かの女性を捕まえているガラの悪そうな男達がいた。
「離して!はな――」
「つれないことをいうなよ。一緒に遊びたいだけなのに」
「ん、んー、んんん」
ある女性は口を塞がれ、ある女性は地面で固定されている。
(人攫いか!)
この街は治安がいい方だと思っていたが、まさかこんなところで遭遇するとは。
僕は常に背負っていた勇者の剣に手をかけ、それを抜き出そうとした。
しかし、僕より早く反応し、男達へ向かって走り出した人がいた。
「なんだテメェ!――ぐぁ」
「おい何をして――あぐ」
「おいおい、あっけねーな。やはり戦場以外は生温すぎる」
僕は驚きのあまり、呆然と立っていた。
さっきまで僕の後に立っていた彼が、僕より早く反応し、反応する余裕も与えず手際よくその男達を無力化していく。
(これは――!)
彼は僕より手慣れた。
その短い動きでわかる。
彼はいい戦力になる。
「あの!折り入った話がある。少し時間いただいてもいいだろうか?」
「ん?おうー」
怪我人を兵士に預かり、僕達は人気の少ない路地裏に入った。
「話ってー?」
「その前に、あなたは戦場に立っていたというのは誠か?」
「ん?あー、さっきポロッと話しちまったか」
彼は自分の頭を掻く。
「そうだ。オレは元々国に派遣された、戦士だ」
聞いたことある。この国は十年前まで、他国と戦争し、領土を奪っていたという。
今はどこも平和になり、戦うことしか出来ない戦士達は行く場を失っていると。
彼もその1人だろう。
「僕のお願いを聞いてくれるだろうか?」
「ん、面白いなら聞く」
「実は僕、今代の勇者なんだ。名はバルドという」
「おう、その立派な剣、やっぱそういうことか」
どうやら彼は気づいているらしい。
なら、話が早い。
「僕は壁の向こうに行きたいと思っている。助けたい人がいるんだ。だけど僕だけでは力不足だ、あなたの力も借りたい」
「壁の向こう?お前さん、魔王討伐でもする気かい」
彼の質問に、僕は真剣に答えた。
「ああ。僕は、魔王を倒すつもりだ」
もし、ディアナ様が魔族に捉えられていて、魔王の傍にいるとしたら、僕はその魔王を倒さなければならない。
「く、くあはははは!お前さん、面白いこと考えるね」
彼はしばらくして笑いを止め、ニヤリと僕を見つめる。
「いいぜ。魔族との戦いなんて面白そうだ。久々に腕が鳴る」
「感謝する……えっと、どうお呼びすれば良いだろうか」
僕は彼に手を差し出す。
彼は僕の手を力強く握る。
「カイルだ。しばらくよろしく頼むぜ、勇者さんよ」




