SS 魔王様、ドキドキ大作戦
ただイチャイチャさせたかった回です
残虐非道、冷酷非情と噂され、人間からも魔族からも恐れられている、魔族の王テオボロス。
彼は強い魔力を持ち、日々身を焦がすほどの嗜虐心を耐え抜いている。
そんな彼は今、1つの悩みを抱えている。
(……最近のディアナ、俺に触れられる時と、他の魔族に触れられる時の反応が違う)
誰から見ても、魔王城に居候している魔女ディアナ(暫定)を深く溺愛しているように見える魔王テオボロスだが、彼はどうやら、そのディアナの反応が気に入らないらしい。
(デビトにからかわれた時はいつも顔を赤らめて、慌てふためくのに、俺が同じことをしてもそんな反応にならない)
ディアナを初めて抱き枕にした日から、テオはディアナに食事を食べさせたり、膝に座らせたり、抱きしめたりと、割と激しいスキンシップを取っていた。
それこそディアナをより抱き心地よくさせるためにしていたが、ディアナが触れられる度に体を硬直させたり、耳を赤らめたりと初心な反応を示すから、テオもつい面白くなり、頻繁何かしらのスキンシップを取るようになった。
しかし最近では、それに慣れてしまったか、ディアナは何をされても平気な表情だった。
現に今、テオの膝の上に座らせ、髪を指でいじられているのに、表情を変えず本を読んでいる。
(面白くない)
試しに髪を耳の後ろにかけ、そのまま耳をなぞってみるも、ディアナは前を向いて本を読んでいる。
「……」
今度は腰に腕を回し強く抱きしめてみるも、反応が乏しい。
切りのよいところまで読み終えたのか、ディアナはやっと、テオの方に振り向く。
「テオ様、セロくんに会いに行ってもいいですか?」
「……ああ」
ディアナは本を持ったままテオの膝から離れ、書庫から出ようとした。
テオもその後について行った。
「セロくん、これの作り方、教えてください」
「かしこまりました。材料を持ってきます」
ディアナとテオは、セロの作業室に来ていた。
ディアナは本をセロに見せた。
何かを作りたいらしい。
闘技会の後から、ディアナはほに何かを学ぼうとし始めた。
前回、デビトに上げたクッキーもその一環だ。
思い出しただけで腹立たしい。
今度も何かを学ぼうとしているんだろう。
それを、テオは向かいの椅子に座りながら見守っている。
セロが準備したのは、金属の金具や小石。
何を作ろうとしているのかさっぱりわからない。
ディアナが必死に材料をいじっているのを、テオはぼんやりと見ていた。
道具の扱いに苦戦しているのか、ディアナは慌てた表情を浮かべた。
そしたらセロは後ろからディアナの手を掴み、道具の使い方を教えた。
セロに手をつかまれた瞬間、ディアナの体は明らかにビクッとなった。
(……不愉快だ)
教えるのにそんなに体を密着させる必要はないだろう。
テオはそう思っていたけど、集中しているディアナをなんとなく邪魔してはいけないように感じ、動けずにいた。
ようやくディアナの作業が終わり、2人は庭にやってきた。
今日の朝も、ディアナはケーキ作りを習っていたらしい。
そして出来上がったケーキを、庭で試食しようとしていた。
「今回の出来は、厨房の方達に褒められました!」
ディアナは楽しそうに切り分けられたケーキを、テオの前に置く。
きれいに膨らんでいるシフォンケーキに、薄いクリームが塗られ、そこからほのかに甘い香りが漂う。
テオはそれを切り分けて、口に入れる。
(悪くない)
前回のクッキーは結局デビトが全部食べてしまい、食べられなかったが、このケーキでそのことを帳消しにしてやろう。
そう思えるくらいに、テオは今、気分がいい。
「おい、ディアナ、なんか甘い香りが――」
この声が届くまでは。
レオードは甘い香りに惹かれたか、それともディアナの姿が見かけたか、迷わずここに来た。
テオがいるかどうか確認もせず。
「――殺す」
レオードの姿を捉えた時点で、テオは殺気を漂わせる。
「っ!ガルルルル……」
その殺気に反応し、レオードも警戒態勢に入る。
(そういえば、闘技会の時、ディアナの護衛できていなかった罰もまだ下していないな)
そう思い、テオはゆっくりと立ち上がる。
レオードは警戒しながら、後退る。
「あ、あの!テオ様」
冷めきった空気の中、ディアナは声を上げる。
「ケーキ!美味しく出来たので、今はそれを食べていただけませんか?」
ディアナは両手を胸元で組み、上目遣いでテオを見上げる。
それだけで、テオから殺気が引っ込んだ。
「……命拾いしたな、駄犬」
椅子に座り直し、残りのケーキを食べる。
ディアナはほっとしたように胸を撫で下ろしてから、レオードに話しかける。
「レオードもよろしければ、一口いかがですか?」
「ディアナが作ったのか?」
「はい!今お菓子作りを習っているのです」
ディアナはフォークでケーキを一切れ取り、レオードにフォークごと渡そうとする。
しかしレオードは、ディアナの手をそのまま掴み、そのままケーキを食べる。
「あむ」
「えっ?!」
「……は」
顔を赤らめたまま完全に固まったディアナを横に、レオードは美味しそうに口元を舐める。
「美味いな、もっとくれ」
「貴様にやる餌はない」
テオは再び立ち上がり、殺気を漂わせる。
「やっべ」
それに感づいたレオードは、すぐどこかに走り去った。
(あの駄犬、次会ったら、死ぬより苦痛な躾をしてやる)
そう考えながらも、ディアナに怖がらせたくないあまり、今は彼女のケーキで我慢しようとしたテオだった。
一日の終わりが近づき、ディアナはセロの作業室で何かを受け取ってから、部屋に帰った。
彼女を部屋に送った後、テオはすぐ離れようとしたが、ディアナはそれを引き留めた。
「テオ様……渡したいものがあります」
「……」
テオはディアナの部屋に入り、ソファに座った。
ディアナはさっきセロから受け取った箱を、テオに差し出す。
「あの、いつもお世話になったお礼として、これを作ってみました」
箱の中は、小さなダイヤを使った、ピアスだった。
「……セロに教わったのは、これが」
「はい。本を読んだら、自分でも作れそうだと思って……いらなかったでしょうか」
ディアナの瞳は不安げに揺れていた。
テオは突然ディアナの手を引っ張った。
ディアナはバランスが取れず、ソファの背もたれに手を置いた。
彼女は、テオに迫っているような姿勢をしている。
初めてテオを見下ろしていることに、ディアナは緊張してしまい、すぐ離れようとすると、テオをもう片手でディアナの腰を固定した。
「テ、テオ様?」
「お前が付けろ」
テオの手が離してくれそうもなく、ディアナは大人しく、ピアスを取り出した。
緊張してしまったのか、ディアナの手が震えていて、上手くつけることが出来なかった。
テオはすかさず、ディアナの背中を撫で上げた。
「ひゃ!」
「どうした、速くつけてみろ」
「~~!テオ様、危ないです」
テオに邪魔されつつも、ディアナはやっと、テオにピアスをつけさせることに成功した。
すぐにでも離れようとするディアナを、テオはまだ離す気にならなかった。
今度はディアナをソファに押し倒し、その手を自分の手と絡ませる。
「~~、テオ様、手が……」
ディアナは今までにないほど、顔を赤らめていた。
(なるほど、そうすればいいのか)
絡めている手を持ち上げ、ゆっくり口づける。
「~~?!」
(いい顔だ)
この夜、ディアナはテオが飽きるまで、たっぷりいじめられたのだった。




