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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン


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SS 魔王補佐の一日

 魔族は魔力さえあれば、寝ず食わずとも生きられる。

 だが長い生を持つ魔族にとって、睡眠時間は長い暇つぶしになる。

 だから気が向いた時に眠る魔族もいれば、趣味で毎日睡眠を取る物好きもいる。


 デビトは後者である。

 彼は人間の生態、文化、知識に深い好奇心を持ち、人間の生活習慣を模倣している。

 今日も彼は眠りから目覚め、よい朝を迎える――はずだが。


 「はああああああ……だるい」

 闘技会の準備で長期間あちこち奔走していた彼は、今、気分が最悪である。


 重い体を無理矢理起こし、部屋から出ていく。

 向かう先は、魔王の執務室。


 「デビト、闘技会の会場だが――」

 ソファに座っていた魔王は、視線を書類から外し、デビトの方を見た。

 「……どうした、その顔」

 「……後処理はやらん」

 「お、おう」


 それだけ言い残し、デビトは執務室から出た。

 

 次に向かったのは庭。

 そこには、朝から元気を持て余し、あっちこっち走り回っていたレオードがいた。

 「げっ」

 「……」

 デビトの顔を見た途端に、顔を顰めるレオード。

 レオードはすぐその場を離れようとしたが、あっけなくデビトに捕まった。


 「は、離せ!」

 「……丁度いい」

 デビトはどこからともなく、首輪を取り出した。


 それを、レオードの首に嵌めた。

 「はああ!何しやがる!」

 「……鬱憤晴らしに付き合え、犬っころ」

 「ヒ、ヒエ――」



 「えーと。デビト様、何をしていらっしゃるんですか?」

 「セロ、見てわかりませんか?犬とお遊びをしているのですよ」


 そこには、見えない風の鞭に狙われ、庭中を駆け回らされているレオードがいた。

 「おい!2番、すぐ止め――わあ!」

 「ほら、速く走らないと打たれますよ」

 「なんで俺がこんな目に……ぐあ!」

 

 ギリギリのところで攻撃を避けたレオードは、運悪く、たまたま、偶然、そこに置いてある鉛の玉に躓いた。

 「くっそ、どうしてこんなところに玉があんだよおおおおお」


 それを微笑みながら眺めるデビト。

 「楽しそうですね、デビト様」

 「闘技会の忙しさを思い出すと、まだまだですよ」

 「は……ディアナ様に会いに行かれないのですか」

 「行きますよ。しかしこんなこと、彼女にさせられないではないですか」

 「……そうですか」


 要するに、鬱憤を晴らすため、遠慮なくいじめられる対象が欲しかったのである。

 ご愁傷様、レオード。


 「なんで俺なんだあああああ!」

 

 レオードの体力がそろそろ尽きる頃、デビトはやっと飽きたのである。

 「セロ、そこの犬を適当に処理しておいてください」

 「え!僕?!」


 そして彼の次に向かう先は、書庫である。

 彼は昔から暇つぶしとして、本を好んで読んでいる。

 しかし最近、彼の楽しみは1つ増えた。


(この本、ディアナ様と一緒に読みたいな)

(主人公の言動が理解不明すぎて、始終楽しめなかったからな)

 そう、魔族である彼は、人間の綴る物語に、大体あまり共感出来なかったのだ。

 だから、人間であるディアナに解説してもらうのが、最近の楽しみの1つである。


 そうして、ディアナと読みたい本がどんどん、テーブルの上に積み上げられていく。


 昼過ぎの頃、ディアナは魔王と共に、書庫へやってきた。

 「デビトさん、こんにちは」

 「ディアナ様、こんにちは。今日は遅いですね」

 「えっと、テオ様にいろいろ食べさせられてたら、こんな時間に……」

 後ろに立つ魔王は相変わらず、無表情である。


 最近のディアナは、最初のやせ細った体から、かなり肉付きが良くなっている。

 かといって、太りすぎず、スタイルがより凹凸を表している。


 「今度、私にも餌付けさせてください」

 「ダメだ」

 「心が狭いですね」

 「えっと、えっと」


 ディアナの慌てふためく顔に、デビトも魔王も表情を緩めていく。

 「あの、デビトさん……これを」

 「これは?」

 ディアナは小さな包みを差し出す。

 「闘技会の準備、ほとんどデビトさんがやっているって、セロくんから聞いて。疲れているのかなって。だから、厨房にいる魔族達に教わって、作ってみました」


 小さな包みの中には、いびつな形をしているクッキーが入っていた。

 「初めてなので、自信がないですが……普段のお礼も兼ねて」

 デビトはその中から一枚を取り出し、口に入れる。


 「……悪くないですね」

 デビトは、あまり人間の食べ物の良さがわからない魔族である。

 それでも、このいびつなクッキーが、疲れを癒していくのを感じる。


 「……俺のは?」

 後ろで大人しく立っていた魔王から、何やら黒いオーラが漂ってきた。

 「テオ様のは、もっと上手になってから、まだ送ります」

 「……晩ご飯、デザート追加な」

 「えっ?!」

 

 不満そうな魔王を、ディアナは必死になだめる。

 デビトは包みの中から、クッキーを一枚取り出し、ディアナの口に入れる。


 「むっ!?」

 「は?!おい、デビト、誰が餌付けしていいと言った!」

 「いつも魔王様が独り占めしているのですから、いいじゃないですか。あなたの代わりに大半の仕事を片付けた私を、ねぎらってください」

 「俺も結構働いたんだぞ――」

 「さあ、ディアナ様。こちらで一緒に、クッキーを食べながら、本を読みましょう」

 「えーと、はい!」

 「おい、デビト。ディアナから離れろ」


 その後、デビトは気分が悪かったとは見えないほど、すこぶる元気になった。

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