魔族と人間
「ディアナ様!」
レオードさんに抱えられ、私は部屋に戻った。
私を見て、セロくんはすぐ駆けつけてくれた。
「ごめんなさい、勝手に出ていって」
「そんなことよりお怪我はありませんでしたか?」
レオードさんは私をベッドに座らせた。
「大丈夫、です。力が抜けただけなので」
「どうしてあそこにいたんだ?」
「テオ様から頂いたチョーカーが猫に取られたので」
「猫?チョーカーならここにありますが」
セロくんはテーブルにあったチョーカーを、私に渡す。
「えっ?確かに猫が咥えたのを、見たのに」
「……今日はたくさんの魔族が集まっているので、魔族のいたずらかもしれません。無事で何よりです」
「そう、ですか」
青白い顔を隠すように、わずかに俯く。
それを見て、セロくんとレオードさんに心配をかけたのか、彼らは両側に座り、話しかけてくる。
「1人になりたいですか?僕たち出た方がいいですか?」
「狼になろうか?俺の体を撫でれば、元気になるだろう」
「レオード様、図々しいですよ」
ぎこちなく、笑みを浮かべてみる。
「お気遣い、ありがとうございます。今は、1人になりたく、ないです」
多分、1人になったら、さっきの光景をずっと思い出しちゃう。
「わかりました。お傍にいます」
「俺もここにいる!」
傍にいてくれる2人に感謝しつつ、私は必死に気持ちを落ち着かせてから、抱いた疑問を口に出す。
「……あの、聞いていいでしょうか。庭の奥にある壁のことと、そこで行われていること」
セロくんとレオードさんは気まずそうに、目を合わせる。
「話してもいいですが……聞きたいですか?」
セロくんは確認するように、私を見る。
本当は怖いし、知らない方がいいかもしれない。
これ以上知ったら、今までのようにテオ様達と接せないかもしれない。
でも……無知でいることは、本当に正しいのかしら。
「無理に知ろうとしなくてもいいんだぜ。お前は人間だから」
人間……そう、私は人間で、彼らは魔族。
きっと、分かり合えないことの方が多い。
だから、無理に知らなくてもいい。
「……」
テオ様の顔を思い浮かべる。
私は、魔王城で暮らし始めて、もう1ヶ月ほど経った。
それなのに、彼のこと、彼らのこと、あまり知らない。
私は所有物で、ペットで、言われたこと以外してはいけない。
そう思っていた。
でも、セロくんが傷つけられた時、レオードさんが首を絞められた時、私はテオ様に逆らった。
テオ様も、逆らった私を見て、罰せようとしなかった。
テオ様は結局、私の自由を制限しなかった。
デビトさんにも気遣われたし、セロくんとレオードさんも私を元気つけてくれた。
(誰も、私を物みたいに扱わなかったじゃない)
だから、自分に彼らを癒す力があるかもしれないと知った時、この力をもっと知ろうと思えた。
使いこなせたら、彼らの役に立てるかもしれないって。
彼らと、一緒にいたいと思った。
なら、ここで彼らから逃げてはいけない。
「……教えて、ください」
セロくんとレオードさんが目を見開いた。
「知りたいのです。あなた達のこと」
「……わかりました」
セロくんは丁寧に教えてくれた。
あれは魔王城で月に一度行われる『闘技会』。
魔族に暴力を振るう場と、それを観賞する場を設けることで、一度に多くの魔族の嗜虐心を発散させることを目的としている。
魔族の相手になるのは基本魔物。
たまに追放された死刑囚を捕獲し、闘技会に出場させている。
「セロくんはずっと不参加でしたよね」
「僕は力が弱いので、嗜虐心も強くないのです。絵を書いたり、好きなことをするだけで発散できます」
「魔王や2番は逆に力が強すぎるから、参加しても大して発散にならねえけどな」
「そうなんですか?」
「俺も昔、観賞したことはあるけど、逆に暴れたくてイライラしたな。その次からは出場枠をもぎ取っていたわ」
(なんか、案外大丈夫だったみたい)
実際に見るのは怖いけど、話を聞くと、魔族にとって大事なイベントなんだって、よくわかる。
「教えてくれて、ありがとうございます、セロくん」
「いいえ……怖くない、ですか?」
セロくんが不安そうに、私を見る。
「平気です。知れてよかったと思っています」
私はセロくんとレオードさんの片手を掴む。
「見るのは怖いですが、あなた達をもっと知りたいと思っています」
2人とも、安心したように、笑みを浮かべた。
夜になり、セロくんとレオードさんが部屋から出ていく。
そしたら今度は、テオ様が入ってきた。
「……平気か?」
「はい……思い出すとまだ怖いですが」
テオ様はベッドに座り、私を引き寄せる。
「あの行事のこと、もう知ったか?」
「セロくんから聞きました」
「そうか」
テオ様は顔を顰めていた。
それは困惑なのか、不安なのか。
私は彼の手を取り、握りしめた。
「テオ様は、楽しめましたか?」
「……いいや、退屈だった」
レオードさんが話してくれたことは本当だったらしい。
「お前は人間が魔族に痛めつけられるところを見ても、俺たちを怖がらないのか」
この質問を口に出す時、テオ様の手が微かに震えた。
「テオ様、私は多分、いい人間じゃないです」
「……はっ」
突拍子のないことを言っちゃったから、テオ様を驚かせてしまった。
「私は国にいた時、親しい存在はあまりいなかったのです。だから人間が傷つけられているのを見ても、私の心は大して痛まないのです」
頭を上げ、テオ様の赤い瞳を見つめる。
「私は知らない人間より、優しくしてくれるテオ様達のことを大事にしたいのです」
次の瞬間、私はテオ様に強く抱きしめられていた。
「……お前は、人間の元に戻りたいか?」
「……いいえ、私はあなた達の傍にいたいです」
「そうか」
抱きしめる力が、より強まった。
「今夜は、俺がお前の添い寝をしてやろう。恐ろしい夢から、守ってやろう」
ここで、第一章は一段落です。
ディアナと魔族達が仲を深めてく過程を、楽しんでいただけましたでしょうか
次からしばらく、勇者側の話になると思います。
その前に、魔族達の日常SSを書くかもしれません(特に某魔族の側近はあまり見せ場がなかったので、もっと出させたいと思います)
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