表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/29

魔王の謁見

 一歩、また一歩。

 森の奥へ、進んでいく。


 目に見えるほど、瘴気が濃くなっていく。

 足が鉛と繋がっているかのように重い。

 息が徐々に苦しくなる。


 もうかなり奥まで進んでいるのに、魔族どころか、魔物さえ見当たらない。

 このまま私は、瘴気に侵され、何もできずに死ぬんだろうか。

 最後くらい、魔族の嗜虐心を抑える“生贄”として、国の役に立ちたいのに。


 やがて視界が歪んでいき、私は適当な木に、重い体を預け、目を閉じる。

 (ステラ……体調は大丈夫だったかしら)

 最後まで私を好いてくれた、たった一人の姉妹。

(生まれてきて、ごめんなさい……父上)

 何回呟いたかわからない、脳に浮かぶ言葉。


 自分の死を悟った瞬間、知り合った人が次々と思い浮かぶ。

 一滴の涙が流れ出す。

 意識が薄れていく。


 「おい、あれは人間じゃないか」

 「本当だ。あれ、いじめていいんだよな」

 「いいな、久々の人間だ!大事にいたぶらないとな」


 男性の声が聞こえる。

 2つの足音が近づいて来る。


 (あ、よかった……きっと魔族だわ)


 その足音は私の近くで止んだ。

 「いや、待て。この娘から発する魔力、妙だぞ」

 「ああ、なんか傷つけちゃダメな気がする……どうする?」

 「とりあえず魔王城に連れて行こう」


(なんで……なんで彼らは、私をいたぶってくれないのだろう)

 私は魔族から見ても、無価値なのだろうか。


 体に浮遊感を感じた瞬間、意識がぷつっと途切れた。


 次に意識が戻った瞬間、違和感を感じた。

 背中にふわふわとした心地よい感触がする。

 

 目を開けてみる。

 黒く上品な天井に、煌びやかなシャンデリア。

 お城の部屋にいるみたいだ。


 上半身を起こし、あたりを見回す。

 私は今まで、大きめなベッドに寝かされていた。

 部屋のデザインも簡潔で、心地いい。


 最後に自分の体を確認する。

 ドレスを着たままだ。

 ベッドの傍に、私の靴が置かれている。

 体にまだ少しだるみを感じるけど、ここはどこなのか知りたい。

 

 私は靴に脚を入れ、べっどから離れた。

 部屋の窓から外を覗いてみる。

 果ての見えない、黒い森。

 私は、高い階層にいるらしい。

 

 今度は部屋の扉を小さく開けてみた。

 どこに続くかわからない、長い廊下。

 部屋から出ていいのかわからないけど、ここにいても何もわからないまま。


 なら、勇気を絞って、廊下に踏み出す。

 長い廊下を沿って、歩き続ける。

 同じような部屋が並んでいる。


 どの部屋に入ればいいのかわからない。

 ただ、前へ進み続けた。

 「おや、目覚めましたか」


 突然どこからともなく響いてきた声に、体がビクッとする。

 やがて前に黒いもやが募っていき、そこから一人の男性現れた。

 

 深い紺色な髪に、紫色の瞳。

 その男性は何故か、右目だけに眼鏡をつけていた。

 とても美しく、理性溢れる方だと思った。


 「あの、ここは、どこですか」

 目の前の方に不快を与えないように、たどたどしくも簡潔に質問をする。

 「ここは魔王城です。あなたが森に倒れ込んでいるところを、魔族によってここに連れてこられました」

 彼は不快を露わにせず、微笑みながら答えてくれた。


 とても優しそうな人だ。

 彼も魔族なのでしょうか。


 「私はこれから、どうなるのですか」

 勇気を絞り、一番肝心な質問を口にする。

 私はこれから、死ぬまで魔族達の玩具になるのでしょうか。

 それでも、彼らに食べられるのでしょうか。


 無惨に殺される自分の姿を想像していたけど、聞こえてきた答えは、そのどれでもなかった。

 「あなたは今から、魔王に謁見していただきます。」


 彼に案内され、私はひときわ大きく、華麗に飾られている扉の前まで来た。

 扉が徐々に開き、彼と共に奥へ進んでいく。

 私の前にいる彼が立ち留まったのを見て、私も歩みを止めた。

 相手は魔族の王だから、人間と同じ礼儀作法でいいのかわからないけど、とりあえず王を直視しないように頭を下げる。


 「魔王様、これが例の娘です」

 私を案内してくれた彼は前から移動し、私の隣まで来た。


 「……首を上げよう」

 低く威圧的な声が、頭上から響いてきた。

 私は言われた通り頭を上げ、王座に座る男性を見た。


 闇を吸い込んだような漆黒な髪に、血に染まったような赤い瞳。

 恐ろしいほどに美しい顔立ち。

 何より、彼から発するオーラが、自分が王であることを物語っている。


 「――名は?」

 「……魔族の王よ、これから死にゆく人に、名乗る価値はありません」

 私はこれから彼らの好きなようにいたぶられるから、今更名乗っても意味はない。


 「貴様を殺す気はない」

 「……飼い殺すということでしょうか」

 私の命はいらない、ならペットにして弄ぶつもりなのかしら。

 どんな扱いでも、私はもう、覚悟を決めている。


 「それは貴様の価値次第だ」

 その答えに戸惑い、魔王と呼ばれるその男を見上げると、彼も真っ直ぐ私を見つめている。

 

 「こっちに来い」

 命令に従い、王座までの階段を登っていく。

 魔王の目の前に立ち留まる。


 彼は私の髪を一束持ち上げたり、私の頬を撫でたりと、不可解な行動をしていた。

 これは……私を見定めているのだろうか。


 「ほう、なかなか美しい紫の髪と銀色の目だ。それにその魔力……悪くない。もう一度聞く、貴様の名は?」

 私の容姿を気に入ってくれたのかしら。

 彼は再び、私の名前を聞いた。

 今度も逆らったら、不快にさせてしまうかもしれない。


 「……ディアナです」

 「ディアナ。貴様は今日から俺の所有物だ。勝手に離れることを許さない」

 これが、私と魔王の、切っても切れない縁が結ばれた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ