不慮の事故
今日はテオ様に、建物から出ないよう言われた日。
彼も一日中いないらしく、今日は1人で過ごす予定。
朝から騒がしく、廊下の窓から外を覗いてみると、魔王城の周りに大量の魔族が集まっている。
「気になります?」
背後から耳に囁く声がする。
「デ、デビトさん?!」
「可愛らしい反応ですね。もっとからかいたくなります」
デビトさんはいつも、隙があればからかいにくる。
いつもびっくりさせられてしまう。
「デ、デビトさん!びっくりさせるの、やめてください!」
「っ!そんな涙目で言われると、尚更いじめたくなってしまいますね」
何やら逆にデビトさんを煽ってしまったようです。
「して、ディアナ様は外が気になっているようですが」
「テオ様にも外に出ないように言われています。そのことと関係あるんでしょうか?」
「そうですね。今日はいわば魔族のお祭り。大量の魔族が入ってきますので、あなたは外に出ないように。庭もダメですよ」
「わかりました」
デビトさんは満足気に目を細める。
「よろしい。ところで、あの狼は見かけませんでしたか?」
「レオードさん?今日はまだ見てませんが……」
「そうですか。彼を見かけたら、これを届けてください」
デビトさんは一通の手紙を差し出した。
「では、私はこれで」
私が手紙を受け取ったのを見て、デビトさんはすぐここから去った。
祭りだというから、忙しいのだろう。
私は長い廊下をひたすら歩く。
(魔族の祭りというから、セロくんもレオードさんも参加するのでしょうか)
1人で過ごすとなると、読書か絵を描くことくらいしかできない。
「あ、ディアナ様、ここにいましたか」
反対側からセロくんの姿を見かけた。
後ろにはレオードさんの姿も。
最近、2人はよく一緒に行動している。
仲良くなったのだろうか。
「セロくん、レオードさん。お祭りに行かなくてもいいのですか?」
「お祭り?……ああ、行事のことですか」
「こいつ、毎回不参加なんだよ」
「僕は参加する必要がありませんから。レオード様は逆に毎回参加されているようですが、今日は行かなくてもいいのですか?」
「俺も……もう、必要ないから……」
話からして、この祭りは自由参加らしい。
「レオードさん、デビトさんから手紙を預かりました」
ついさっき受け取った手紙を、レオードさんに差し出す。
「2番からー?」
彼は顔を顰めながら手紙を受け取り、手紙を乱暴に破る。
「レオードさんはどうして、デビトさんのこと2番と呼ぶんですか?」
「うーん、あの野郎はこの魔王城で2番目に強いから」
彼は手紙を適当に広げて、読み始める。
そしてなぜか、目を丸くしている。
「何と書かれていますか?」
その表情を見て、セロくんも気になってしまったのか、手紙を覗き込む。
そして彼も一緒になって、目を丸めてしまった。
私もつい気になってしまい、手紙を覗き読んだ。
『駄犬
今日だけ許してやる。ディアナの護衛をしてろ。』
広い紙の中央に、簡潔に書かれたその言葉は、衝撃的な内容だった。
「あの魔王か……許すって……」
「よかったですね、レオード様。今日だけは正々堂々、ディアナ様と一緒に過ごせるようで」
「いや……逆に気持ち悪いだろう」
「まだしばかれたいのですか」
2人のやりとりを聞いて、いつの間にかこんなに仲良くなったんだろうと思ってしまう。
「ディアナ様は今日、どう過ごすおつもりですか?」
セロくんは私に顔を向き直す。
「まだ考えています」
「でしたら、新しい服ができたので、試着していただけませんか?」
彼は目を輝かせ、私を見つめる。
「ふーん。お前は服も作っているのか」
隣にいるレオードさんが興味津々としている。
「仕方ありませんので、レオード様も見ていいですよ」
「お前、本当に生意気になったな」
思わず笑ってしまう。
「ええ、ぜひ試着させてください」
そうして、私達は部屋に戻ることにした。
セロくんは何枚もの服を持ってきた。
「今度はアクセサリーも作ってみたのです」
それに加えて、様々なイヤリングやネックレスも一緒に持ってきた。
どれも派手すぎず、細かく作られていた。
セロくんはそれらを組み合わせて、私に差し出す。
「廊下で待っていますので、ゆっくり着替えてください」
そう言って、セロくんはレオードさんを引き連れて、部屋から出た。
私はベッドに置かれている服を見る。
花があしらわれたパステルカラーのワンピース、黒をベースにレースがあしらわれ、背後に大きなリボンが飾られていたワンピース。
相変わらず目を奪われるけど、着るのに億劫になる。
私はまず黒のワンピースから着替え、それとお揃いのシルバーのネックレスを手に取る。
(そういえば、ネックレスをつけるなら、チョーカーは外した方がいいよね)
普段は身を清める時以外、外さないようにしているけど、チョーカーがあるとネックレスが似合っているかわからなくなる。
私はチョーカーを一時的に外し、窓辺のテーブルに置いた。
ネックレスを首につけて、部屋の扉を開ける。
「っ!素敵です!ディアナ様!」
「……いいんじゃねえの」
セロくんは目を輝かせながら、褒めてくれた。
レオードさんは顔をそっぽに向きながら呟いた。
なんとなく顔が赤らんでいるような気がする。
「ありがとう、ございます。台無しにしていなければいいですが」
「そんなことありません!逆に僕の服が、まだまだディアナ様の美しさを完全に引き立てられていないです!」
セロくんが突然滑舌になり、私の服を見回し始めた。
「ここにアクセントとして、ジュエルを加えてもいいかもしれません。あとここのレースを控え目にして、逆に透明感を増す為に透ける布を加えてもいいかもしれない……」
「おい、石を加えるなら琥珀にしろ」
「あなたの意見は聞いていません」
セロくんが一通り見回してから、満足気にメモを取っていた。
「ディアナ様、次の服も着替えてみてください」
「わかりました」
私は部屋の扉を閉じ、ネックレスのホックを外す。
(あれ?)
そこで、あることに気づく。
(テーブルに置いたはずのチョーカーが、ない!)
慌てて周りを見回すと、部屋の片隅でチョーカーを咥えている白猫がいた。
(猫?どこから入ったの?)
窓はしっかり閉じられているはず――
次の瞬間、あり得ない光景を見た。
(猫が、窓をすり抜けている!?)
その猫はテーブルに跳び登り、チョーカーを咥えたまま窓をすり抜け、飛び降りた。
私はすぐ窓を開けて、下を見る。
その猫は下から私を見上げていた。
「待って!そのチョーカーを返して!」
下にいる猫に手を伸ばそうとすると、体が浮き上がった。
(え?!)
そのまま体が窓を飛び越えた。
(落ちる――)
落下すると思い、目を閉じると、地面にぶつかる寸前で体が宙に浮いていた。
私はゆっくり脚を地面につける。
猫は私が地面に立ったのを見守った後、すぐ走り出す。
「っ!待って!」
私はただ夢中になって、チョーカーを取り戻す為に猫を追いかけていった。
――――――――
《セロ目線》
「おい、なんか遅くないか」
「うーん」
本当は女性が着替えているところを、急かしたくない。
でも10分も経っているのに、ディアナ様が出てくる気配がない。
僕は控え目に、扉にノックする。
「ディアナ様、大丈夫ですか?」
返事がない。
いよいよ怪しい。
僕は扉を躊躇いながら開いた。
中にはディアナ様の姿がなく、残っているのはベッドの上に置かれたパステルカラーの服、開けられた窓――そしてテーブルに置かれたチョーカーだけだった。
本当は書きたかった話①:
ディアナが着替える前の一幕
セロ:「廊下で待っていますので、ゆっくり着替えてください」
セロは部屋から出ようとしたが、レオードは立ち留まったまま。
セロ:「レオード様、どうされましたか?」
レオード:「俺はここにいる」
セロ:「は?何言ってるんですか」
レオード:「狼の時散々見たし、今更出る必要ねえだろう」
セロ:「やはり魔王様に殺してもらいましょう」
本当は書きたかった話②:
セロとレオード、仲良し説の真相
レオード:「おい、軟弱者。ディアナの好みを教えろ」
セロ:「レオード様に話す筋合がありません」
レオード:「ケチ」
レオード:「おい、軟弱者。ディアナは犬派か?それでも猫派か?」
セロ:「知りませんよ。犬は嫌いじゃないですか」
レオード:「そんなわけないだろう。あいつ、俺を撫でる時超優しいんだぞ」
セロ:「……魔王様にチクりますよ」
レオード:「おい、軟弱者。ディアナは――」
セロ:「僕に付きまとうのやめてください(怒)」
#追伸:ディアナは動物と触れ合う機会があまりなかったので、犬派でも猫派でもありません。




