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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン


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歪んでいく心

《テオボロス目線》

 不快だ。

 何もかも不快だ。

 ふらっと魔王城に姿を表して、俺の所有物を勝手に傷つけたあの駄犬も。

 その駄犬のせいで倒れたのに、まだあいつを庇おうとするあの女も。


 不快極まりない。


 あの2人が、俺の知らないところで、同じ空間にいると想像するだけで、反吐が出る。

 その不快感を拭うために、あの女に一日中触れているというのに。

 消えるところか、あの女がいない時にますます不快が募る。


 俺がいない時、あいつは誰といる。

 俺がいない時、あいつはどこにいる。

 俺がいない時、あいつは何をしている。

 

 あいつが、もしまだあの駄犬と会っているとしたら――

 そう考えるだけで、すぐにでもあの駄犬を殺してしまいたい衝動に駆られる。

 いっそあの女を自室に閉じ込めよう。

 そう考えたことも無数にあった。


 それなのに、あの女の顔を浮かべてしまうと、何も出来なくなる。

 俺はいつの間に、こんなに弱くなった。

 女一人くらいを、思う通りに御せないくらいに。


 今日もあいつと書庫で本を読んでいた。

 勝手にどっかに行かないよう、腰に手を回しながら。

 そこにデビトが入ってきた。

 あいつは、俺に耳打ちをした。


 「テオ様、デビトさんに少し相談したいことがあるのですが」

 「相談はなんだ」

 「えっと……読みたい本の場所を聞こうと」

 「……」


 わからないことがあれば、俺に言えばいいのだろう。

 そう言いたいのだが、この書庫に一番詳しいのはデビトだ。


 「……いいだろう」

 非常に不本意だが、許可した。


 彼女はデビトのところに行き、話し出す。

(あの女、俺の所有物である自覚が、なさすぎるのではないか)


 勝手に他の魔族と交流し、勝手に傷つけられる。

 ――勝手に反発しようとする。


 嗜虐心とはまた違った、不快な感情が募る。


 今もデビトと話し込んでいる。

(ていうか、距離近すぎないか?)

 本の場所を聞くのに、そんなに近づける必要ないだろう。


 俺は彼らに近づき、あいつの手を引いた。

 「いつまで話している」

 ――これだけ話したんだから、もう本の場所はわかったんだろう。


 「もう終わりますよ。それより魔王様。例の行事で確認したいことがありますので、時間をいただけますか?」

 デビトがいきなり仕事の話を持ち出した。

 確かにあの行事でやり残したことはある。

 だけど急ぎじゃないはずだ。

 今はこの女を1人にしたくない。

 

 「……今じゃないとダメか?」

 「もう何日も押していますよ。そろそろしないと準備が間に合いません」

 「……わかった」


 本当はこの女を仕事に連れていきたいほど、1人にしたくない。

 けど、この行事だけはこいつに関わらせてはダメだ。

 仕事もいつかしないといけない。


(仕方ない。なるべく早く済ませよう)


 俺はデビトと一緒に、書庫から離れた。



 「……これで確認は終わりか?」

 「まだまだですよ。この際、仕事を全部片付けてください」

 「……後でいいんだろう」

 「後って何時ですか?あなた、あの子から離れようとしないでしょう。引き離すのも一苦労ですよ」


 大人しく言われたことをこなしたのに、次々と仕事が運ばれて来る。

 魔王と言っても、象徴的なものなのに、この時期だけやけにやることが多い。

 以前なら暇つぶしの一環にしてたが、今はとにかく早くあの女に会いたい。

 それなのに――


 「――貴様、わざとだな」

 「何がですか」

 「わざと俺からあの女を引き離したのか」

 「おや、気づかれちゃいましたか」


 この男は、笑っていた。

 腹が立つ。


 「どういうつもりだ」

 体の奥で魔力が渦巻いているのを感じる。


 「彼女に入れ込みすぎてはないですか?居心地いいのはわかりますよ。特に我々は魔力量が多いので、それと同じくらい嗜虐心に苛まれてきました」

 「分かっているのに、引き離したのか」

 「あなたはそれ以外の理由で、彼女を束縛しようとしているように見えるので」

 「自分の所有物を束縛して、何か悪い」

 「いいえ、何も悪くありません。魔族は強欲で、本能に忠実な生物ですので」


 一々腹立つ言い方をする男だ。


 「しかし……あなたが求めているのはいったい、彼女の何でしょうか」

 「何が言いたい」

 「これは年長者からのアドバイスです。彼女は人間、我々のやり方では、彼女を完全に手に入れることはできませんよ」

 「貴様に説教されるいわれはない。俺には俺のやり方がある」

 「若いですねー。魔力をまともに操れないような坊やには、まだまだ難しいでしょうか」


 意識を研ぎ澄まし、体内の魔力を収める。

 ここは魔王城。

 魔力を暴走させては、あの女も巻き込まれる。


 「今回だけ、誤魔化されてやる。残りの仕事を持って来い」

 このまま帰っても、魔力をあの女にぶつけてしまいかねない。

 なら仕事に専念しながら、魔力を落ち着かせる。

 後で彼女に付き合ってもらえばいい。


 「承知しました」


 デビトはいくつの巻物を取り出し、俺の前に置く。


 仕事がやっと終わった。

 俺はすぐ、あの女の部屋に向かった。

 扉を開けたら、あいつは窓辺で、月を見上げていた。


 ふっと、ある考えがよぎった。

 (こいつは、人間のところに戻りたいと思わないのか)

 今更この可能性に気付いた。


 彼女から、人間のところにいた話を聞いたことがない。

 俺も、人間について知ろうと思ったことがない。

 だから気にしたことがなかった。

 

(さっき、デビトに人間云々を言われたからか)


 正直、こいつに戻りたいと言われても、帰す気はない。

 だが……まだ不快感が募っていく。


 「テオ様?」

 あいつに呼ばれて、頭を上げる。

 月のように輝く瞳も、深く落ち着いた紫の髪も、一目見た時から気に入っている。

 いつも思わず、触れたくなるくらい。


 「珍しいですね。こんな夜遅くに」

 「……仕事が終わった。少し付き合え」


 俺は部屋に入り、あいつを抱えながら、ソファに座った。

 こいつの頭を胸に押し付け、髪を沿って撫で下ろす。


 「テオ様?お疲れですか?」

 彼女は頭を動かそうとする。

 それを手で押さえつける。


 「お前は……」

 ――人間の元に戻りたいのか。

 そう聞きたいのに、口から次の言葉が出ない。

 

 「……」

 「テオ様?」


 戻りたいと言われたら、俺はどうなるんだろうか。

 「なんでもない」

 こいつといると、嗜虐心が消え、代わりに違う感情が湧いてくる。

 その感情に心地よいと感じる時もあり、不快と感じる時もある。


 俺は、この感情を持て余している。


 「……三日後、建物から出るな」

 「わかりました」


 彼女は大人しく俺に撫でられながら、小さく返事をした。

 その夜、俺はなんとなく離れがたくなって、こいつが眠りにつくまで部屋にいた。

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