やっと気づいたこと
テオ様に、部屋から出ることを禁止された日の夜、傷だらけの狼さんが現れた。
あの痛々しい姿に、思わず部屋に招き入れた。
セロくんを癒すことが出来たから、狼さんの傷も癒してみようと思った。
できなくとも、応急処置くらいはしてあげたい。
幸い、触れたところから、ちゃんと光が放たれた。
この力は一体何だろう。
ステラも似たような光を放ったことがある気がする。
いつの間に、狼さんは眠りに落ちた。
一瞬、テオ様に見つけられたらどうしようと思ったけど、まだ完治してない狼さんを見て、とても追い出す気にはなれなかった。
この子が寒くならないように、周りに毛布を置いてから、私も眠りに落ちた。
次の日の朝、部屋のテーブルに、食事が置かれていた。
そして、一通の手紙も置かれていた。
『ディアナ様
魔王様に、誰一人ディアナ様の寝室に入ることを許さないと言い渡されたので、食事は魔法で部屋にお届けします。
食べ終わったら、扉の外に置いてください。
必要なものがあれば、手紙に書いて、同じように扉の外に置いてください。
魔法でお届けします。
魔王様は仕事があるので、数日帰ってこないと思います。
心置きなく、体を休めてください。
セロ』
セロくんの言葉に、悲しくなる。
彼こそ一番傷ついたのに、私ばっかり気遣われている。
城にいた頃の無力感を感じる。
いつもステラとバルドに優しくしてもらっているのに、私は何も返せない。
でもよかったこともある。
テオ様は数日中は帰らないということは、狼さんがいることは彼にばれない。
私は部屋の中央で眠っている狼さんに視線を向く。
傷が未だ酷いのか、目覚める気配がない。
私は彼の傷ついた箇所に触れてみる。
触れる度、微かに光が放たれる。
でもすぐ収まる。
この力は一体何なのかしら。
使いこなせたら、セロくんがまた傷ついた時、もっと痛みを和らげることができるかしら。
次にデビトさんに会った時、相談したい。
食事を食べ終わり、私は届けられた本をひたすら読む。
城にいた頃も、いつも部屋にいたから、1人でいることは慣れている。
だからこの時間は大して苦にはならなかった。
昔に戻っただけ。
何かが動いてる気配がする。
中央で眠っているはずの狼さんが目を覚まして、こちらに近づいた。
狼さんは私の隣で座り込み、なぜか頬で私の頭に擦りつける。
「え、どうしたの」
この子は舌で、私の目尻を舐める。
そこでようやく、自分の目に涙が募っていることに気づく。
「えっ……どうして」
1人でいることに、慣れているはずなのに。
狼さんは、私の膝の上に、頭を置いた。
「1人でいることに、慣れているはずなのに」
その頭を、ゆっくり撫でる。
「最近、テオ様がいつも一緒にいて、とても優しくしてくれた」
涙が次々と流れ出す。
「セロくんともいっぱい、絵の話とか、服の話とか、誰ともしたことない話も出来たの」
言葉がこぼれる。
「デビトさんとも、好きな本の話が出来て、知らなかったことをたくさん教えてくれて」
狼さんの目が、私を見つめる。
「いつの間にか、1人じゃなくなったのね」
城にいた頃、想像すら出来なかった生活が、今は出来ている。
「今更、寂しいと感じてしまうなんで」
狼さんが再び、私に擦りつける。
1人じゃないって、言ってくれているみたい。
「……今はあなたがいてくれて、よかった」
狼さんの頭を抱きしめ、涙が止まるまで離さなかった。
――――――――
《レオード目線》
女は泣きつかれたか、俺の頭から手を離して、ベッドに寝転んだ。
彼女といると、不思議と心にあったはずの衝動が消えた。
最初はそれが気持ち悪くて、自分である何かが奪われた気がして、嫌だった。
でも彼女の近くにいる時間が長いほど、心地よく感じていった。
目を覚ました時、彼女は窓辺に座り、本を読んでいた。
だけど彼女の表情は、どこか暗かった。
その表情を変えたいと思って、彼女の頬に頭を押し付ける。
そしたらなぜか、彼女の目尻に涙が溜まっているのが見えた。
(いや、何で泣くんだ?!)
慌ててそれを舐めとると、ますます涙が流れてきた。
(何で更に酷くなるんだ?!)
どうすればいいのか分からなくなって、せめてその顔が見えないように、彼女の膝に頭を置く。
そしたら彼女が語り出した。
「最近、テオ様がいつも一緒にいて、とても優しくしてくれた」
(マジかよ。あの魔王が優しく感じた瞬間なんて、一度もなかったぞ)
「セロくんともいっぱい、絵の話とか、服の話とか、誰ともしたことない話も出来たの」
(セロって……あの軟弱者か。そういやいつも部屋に籠って、何かをしていたな。何が面白いかちっともわからんが)
「デビトさんとも、好きな本の話が出来て、知らなかったことをたくさん教えてくれて」
(あの2番のことか。あんなひねくれた奴と、よく話せたな)
思いのほか、こいつはここでうまくやっているな。
魔王城の中でもいろんな意味で遠ざけられている奴らに、好かれている。
「……今はあなたがいてくれて、よかった」
寂しいって呟いた彼女は、俺に抱きついている。
(……痛みを癒してくれた礼に、それくらいは我慢してやろう)
泣きつかれて、ベッドに寝転がった彼女に、なんとなく離れがたくて、俺も横で寝転がった。
狼になってもそこそこ大きい体を、彼女は拒むことなく受け入れてくれた。
今はその心地よい暖かさに、寄り添っていたい。




