わがままざんまい
レオードさんに「下僕になれ」と言われた後、すぐ去ってしまった。
その言葉の意味を、聞くタイミングさえ与えてくれず。
そのことを考えすぎて、あまりよく眠れなかった。
少し重たい体を引きずって、食堂に行った。
そこにはレオードさんの姿があった。
「おー、来たな」
彼は、普段私が使っている椅子に座っていた。
そしてテーブルの上には、平らげられた皿しか残っていなかった。
「えーと」
「食いもん置いてったから、全部食った。お前の分は残してねえ」
彼は不敵な笑みを浮かべた。
「美味しかったですか?」
「は?」
私の質問を聞いて、彼は不快そうな表情に変わった。
「すみません、よほど食べたかったのかなって思って聞いたのですが……」
「……もういい、ついてこい」
連れてこられたのは、庭だった。
「昨日、この庭のどっかで、ネックレスをなくした。それを探せ」
「ネックレス?どんなですか?」
「あー……なんかとげとげしてるやつ」
「どこに落ちたのか分かりますか?」
「知らねえ」
彼はすぐ覆した。
「とにかく探しておけ、俺はどっかで寝てくる」
そして彼は姿を消した。
(行っちゃった……ネックレスをなくしたと言ってたのは、噓でしょうね)
城にいた時のことを思い出す。
メイトになくしものを一緒に探して欲しいって言われて、当時は話しかけられてうれしかった。
だから必死に探して……結局なくしものって言うのは噓で、所々棘とかガラスの破片が仕込まれてて、何回も傷をつけちゃって……。
最近はテオ様達のおかげで穏やかに暮らせてたから、逆に懐かしいな。
(でも何もしないと多分不快にさせてしまう。探すふりをした方が、後に怒られることはない)
そうやって、私は探すふりをしながら、庭のあっちこっちを見て回った。
数時間が経ち、レオードさんが私の前に姿を現した。
「おい、見つかったか」
「いいえ、どこにもありませんでした」
「……そうか」
彼は意味深な視線を、私に向けた。
疑われてるのかな。
「……ひまだ。なんか暇つぶしを考えろ」
「えっと」
(暇つぶし……)
「本を読みますか?」
「読むわけねえだろう」
(うーん)
「絵とかは……」
「は?俺が絵が好きなように見えるのか」
「いいえ……だけど私がわかる暇つぶしはそれしか……」
「はあああ……お前、つまんねえな」
彼は魔王城に帰ろうとする。
その後を、私はついていく。
彼がたどり着いた場所は、セロくんの事業室。
いやな予感がする。
彼は乱暴に扉を蹴っ破った。
中には絵を描いているセロくんの姿がいた。
「セロくん――」
「おい、軟弱者。暇つぶしに付き合え」
「えっ、レオード様に、ディアナ様?!」
セロくんは慌てて立ち上がったけど、すぐレオードさんに蹴飛ばされた。
「かはっ!」
「セロくん!」
彼は後ろにある棚にぶつかり、地面に倒れ込む。
それをレオードさんは見逃さず、続けて蹴りを入れる。
「ほら、ほら、ほら!昨日みたいに抗ってみろよ」
「ぐっ……かはっ……ごほ……」
「レオードさん、もう止めて――」
彼を止めようと、腕にしがみつこうとすると、彼は力強く振り解いた。
「っ!触れんな!お前に触れられると、衝動が消える!」
「くっ!」
今度は私が、後ろにある壁にぶつかる。
久しぶりの強い痛みに、声を上げそうになる。
「ディアナさ――」
「なに勝手に動こうとして、んだ!」
「かはっ!」
地面を這いずりながら、私へ伸ばそうとした、セロくんの手を、レオードさんは容赦なく踏みつける。
「やめて……やめて……もうやめて」
思い出す。
無情に振り上げられる鞭、容赦なくぶつけてくる石、無理矢理注いでくる熱湯……。
目に涙が募る。
「ディアナ……さま……」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
でも視界がぼやけていく。
「はっ、お前、いい顔するんじゃねえか」
ぼやけた視界から、微かに手のようなものが近づいてくるのが見える。
まだ、記憶に重なってくる。
「いや……いやあああああ」
ぷつっと、意識が消える。
目を覚めた時、私は自分の部屋にいた。
「ディアナ様!」
隣には、セロくんが座っていた。
彼は、今にも泣きそうにしている。
「セロくん……どうして、ここに」
「ディアナ様が、意識を失ったのです」
私は彼に手を伸ばそうとする。
彼はそれを、両手で強く握る。
「ごめんなさい……守れなくて、ごめんなさい」
一滴の涙が、彼の頬を伝った。
「……傷、大丈夫でしたか」
「……はい。僕は大丈夫なので、心配しないで、ください」
確か、彼は手を踏まれたはず。
でも、その手に大きな傷が見えない。
「よかった」
「っ!よくないです!ディアナ様、無理しないでください」
彼は私を心配してくれている。
私は少し体を起こしてみた。
体に、大して痛みはない。
「レオードさんは、どうしたんですか」
「……魔王様が、戻ってきて……」
セロくんは少し言い淀んだ。
そこで、扉が開かれる音がした。
テオ様とデビトさんの姿が見えた。
「っ!」
テオ様と目が合った瞬間、彼はすぐ私の顔に触れた。
「痛みはないか」
「大丈夫です……私は大して傷ついてません。それよりセロくんを――」
次の瞬間、セロくんが見えない何かに叩きつけられた。
「くっ」
「セロくん!」
テオ様はセロくんの前に立つ。
「役立たず」
テオ様は今まで見た、一番冷たい目がしていた。
彼はセロくんに手を伸ばす。
私はすぐベッドから降り、その間に立つ。
「……どういうつもりだ」
「セロくんは悪くありません」
「こいつは自分の役目を果たせなかった」
「いいえ。彼は果たしてくれました。これは不可抗力です」
「……」
テオ様は諦めてくれたのか、手を下した。
「お前はしばらく、この部屋から出るな」
そう言って、彼は部屋を離れた。
「……災難でしたね、ディアナ様。後に暇つぶし用の本を差し入れますよ」
デビトさんも淡々と話し、部屋から出た。
私は倒れ込んだままのセロくんに向き直す。
「セロくん、蹴られた所、見せてください」
「えっ……はい」
彼は少し、着ていたシャツを巻き上げる。
やはり所々、痣が出来ている。
私はそれを、軽く触れてみる。
触れたところから淡く光が放たれた。
「どうですか」
「痛みが、引いています」
「よかったです」
もう光らなくなったのを見て、私はベッドに座り直す。
「どこまで効くかわかりませんが、まだ痛んだら、来てください」
「はい……ありがとうございます、ディアナ様。」
最後にセロくんも部屋から離れ、私だけが、部屋に一人ぼっちで取り残された。




