魔王城主催ファッションショー
今日は短めのほのぼの回です
デビトさんがおすすめしてくれた本は一通り目を通した。
今のところ分かったのは、魔女は魔族を癒す唯一の存在であることと、それは月から与えられた力だということ。
ほとんどデビトさんが話した内容と同じ。
そもそも魔族に関する文献は少ないから、魔女に関する文献はもっと少ない。
魔族を研究対象とする人間は少ない。
命かけの研究になるからだ。
だから私達は、魔族に対して無知だ。
(この方達のこと、これからもっと知れるのだろうか)
ペット如きに、こんなことを考えるのはおこがましいかもしれない。
「お疲れ様です、ディアナ様」
「いいえ。デビトさんのおかけでいろいろ知れました。ありがとうございます」
「些細なことです。それよりディアナ様、1つ伺いたいですが」
「何でしょうか」
デビトさんは入口の方を指した。
そこには、扉のわずかな隙間から、こちらを覗き込んでいた、セロくんの姿があった。
「セロと約束でもありましたか?」
「いいえ、ないはずですが……少し話してきます」
私はすぐ扉を開き、セロくんに話しかけた。
「セロくん、どうしましたか?」
「えっと、新しい服ができたので、お見せしたいなと」
少し顔を赤らんで、彼は弱々しく呟いた。
「服?本当ですか!」
昨日セロくんとお話できたから分かったけど、私が着ていた服は全部、彼が趣味で作ったものらしい。
昨日は新しい服を作ってもらうって言って、正式に採寸してもらったけど――
「セロくんは服を作るのが速いですね」
「元々あったもののサイズを、調整しただけ、なので」
セロくんは表情変化こそ乏しいけど、なんとなく嬉しそうに見えた。
「すぐ行きます。ちょっと待ってください」
私はすぐ魔王様のところに戻った。
「あの、魔王様。セロくんが服を作ってくれたので、見に行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ」
「いいですね。私も一緒に行きます」
「えっ」
1人で行くと思ってたけど、すぐ立ち上がった魔王様と、ニコニコしてるデビトさんを見て、ここにいる全員で行くのだと、すぐに分かった。
セロくんに案内されたのは、私の部屋だった。
彼は服を何枚か持ってきた。
私はそれらに着替え、三人に見せた。
レースがあしらわれた華麗な紫のドレス、肩出しの清純な水色ワンピース、黒と赤のストライプ柄の落ち着いたロングスカート。
どれも私にはもったいないくらい素敵だ。
「どれも似合っていますね。特にこの水色のワンピース。おしとやかなディアナ様にはピッタリです」
「それを言ったらロングスカートの方がいいだろう。動きやすいし、実用的だ」
「……ドレス、がいい」
鏡がないから自分ではわからないけど、三人の反応からして、少なくともセロくんの服を台無しにしてないのが分かってよかった。
「セロくん、服、ありがとうございます。大事に着ます」
「っ!こちら、こそ、もっと、作りたい、です」
セロくんは嬉しそうに顔を赤らめる。
思わず可愛らしいと思ってしまう。
「セロ、今度はもっと青系の服を作りなさい」
「黒と赤の方が似合うだろう」
「えっと、いろいろ、作ります」
三人がとても盛り上がっている。
私はどうすればいいのだろう。
「あの……もう着替えて来ていいですか」
「「ダメです」」
「「着ていろ」」
魔王様とデビトさんの声が重なる。
そして、私はブラウスとロングスカートを着て、一日中過ごすことになった。
デビトさんは書庫に戻り、セロくんは新しいデザインでも思いついたのか、自分の作業室に駆け込んだ。
私はなぜか魔王様に自室へ連れて行かれ、再び魔王様の膝の上に座らされた。
彼は手櫛で優しく私の髪を解き、いじる。
むやみに動くまいと体が硬直する。
(今度は人形になった気分だ)
「――おまえは」
「はい!」
いきなり声を掛けられて、ビクッと体が弾んだ。
「デビトとセロと親しいんだな」
「えっ、デビトさんにはいろいろ教えてもらっています。セロくんとは……趣味が合うので」
「そうか」
自分の知らないところで、所有物が勝手に動き回っているのが気に入らなかったのだろうか。
「ダメ、だったでしょうか」
「名前」
「え?」
「あいつらは名前で呼んでた」
魔王様が拗ねたような表情を見せる。
(もしかして、馴れ馴れしかったのかな)
(でも名前以外、呼び方が分からないし)
「えっと、何とお呼びすれば――」
「テオ」
(テオ?誰の名前だっけ……)
少し考え、ふっと思いつく。
魔王様の名前、テオボロスだとデビトさんに教えてもらった。
(もしかして……拗ねたのって、自分だけ名前呼びじゃなかったから?)
どうしてそこで拗ねたのがよくわからないけど、自分のペットが自分にだけなつかないみたいな心情なのかな。
「えっと、テオ、様」
「ああ」
彼は大きな手を、私の頭の上に乗せた。
心臓がドキッと、大きく音を立てたのが分かった。
優しく撫でられる度、耳や顔に熱が籠る。
その日をきっかけに、魔王様の不可解な行動が劇的に増えていった。




