2.辺境の地とリリアーナの特異な才能
リリアーナが追放された領地は『灰の丘』と呼ばれる荒涼とした地域だった。地名が示す通り、この地は鉱物資源が豊富であるにもかかわらず、採掘技術が古く、長年の採算割れで疲弊していた。
「この領地を再建する義務なんて、私にはないはずだけど……」
リリアーナは、暇を持て余す自分に気づいた。前世の知識と、転生時に付与された「特殊能力」が、彼女を退屈から救った。
その能力とは、「鉱物の純度を視覚的に解析する能力」。特定の鉱石に意識を集中すると、その結晶構造や含有される魔力伝導体の純度を、頭の中で三次元のデータとして瞬時に表示できるのだ。地味だが、鉱物学においては神の眼に等しい能力だった。
リリアーナは、質素な作業服に着替え、毎日山に入った。彼女は前世で地学や化学を専攻していたわけではないが、転生後のリリアーナの頭脳には、驚くほど詳細な鉱物学の知識が蓄積されていた。
リリアーナは、屋敷に放置されていた古びた領地資料と、己の「解析の能力」を照合し始めた。
(この辺境の土壌には、魔力の伝導率が極めて高い『翠石』の鉱脈が眠っているはず。しかし、従来の採掘技術では他の不純物と区別がつかず、採算が取れないと判断されているのね)
彼女は、知識と能力に没頭する中で、初めて心からの充実感を得た。王都での虚飾と嫉妬に満ちた生活と比べ、山の中で石と向き合う時間は、真の喜びに満ちていた。彼女は「悪役令嬢」という役割を完全に脱ぎ捨て、「鉱物調査官・星野葵」として生き始めていた。
しかし、領民たちの視線は冷たかった。彼らにとって、リリアーナは「王太子殿下を誑かした傲慢な公爵令嬢」であり、「領地の衰退を招いた張本人」と噂されていた。
リリアーナは、彼らの「嫌悪の波動」を感じ取ったが、反論はしなかった。
「言葉で何を言っても無駄だわ。結果を見せるしかない」
彼女は、汚名返上ではなく、ただ自分の「やりたいこと」を貫くために、孤独な鉱山調査を続けた。彼女の周囲には、誰も彼女の真意を理解する者はいなかった。




