1.シナリオ通りの破滅
深紅の絨毯が敷き詰められた王立学園の卒業パーティー会場。豪華なシャンデリアの下、リリアーナ・フォン・アーデルハイトは、まるで舞台女優のように中央の階段を降りていく。しかし、彼女の心は氷のように冷え切っていた。彼女は知っている。この夜が、悪役令嬢リリアーナの破滅の日であることを。
前世の記憶を持つリリアーナ(元・星野葵)にとって、この三年間の生活は、避けられない悲劇のシナリオを傍観するようなものだった。公爵令嬢として生まれた彼女は、乙女ゲーム『恋するロイヤル・アカデミー』の悪役令嬢に転生していたのだ。
王太子アランが、平民出身の可憐なヒロイン、エルヴィラ・ヴィヴィアンの手を取り、リリアーナの前に進み出た瞬間、会場の空気は凍りついた。アランの瞳には、かつての婚約者への愛情の欠片も見当たらず、あるのは冷たい怒りと正義感だけだった。
「リリアーナ・フォン・アーデルハイト!君のエルヴィラへの執拗な嫌がらせは、最早看過できぬ!数々の悪行をもって、王家の名誉を汚した罪は重い。今日をもって、君との婚約を破棄する!」
周囲の貴族たちは、待ってましたとばかりにさざめき、リリアーナを罵倒する声が上がる。
「よくぞ言った!」
「あの傲慢な娘に相応しい罰だ!」
リリアーナは、運命の「強制力」が働いたことを悟った。どんなに回避しようと努力しても、ゲームのシナリオは常に彼女を悪役に仕立て上げた。彼女はただ静かに、その言葉を受け入れるしかなかった。
「……承知いたしました。王太子殿下の意思に従いましょう」
その静かな受け答えが、逆に彼女の傲慢さの証拠とされ、罵倒の声はさらにヒートアップした。こうして、リリアーナは公爵家の名誉を失い、家門の遠縁が治める辺境の鉱山領地への追放処分を言い渡された。彼女の破滅ルートは、完璧に達成されたのだ。
豪華な馬車ではなく、粗末な幌馬車に揺られ、王都を後にする。リリアーナは窓の外の景色を見ながら、心の中で前世の自分に語りかけた。
(葵、悪役令嬢リリアーナの人生はこれで終わったよ。婚約破棄、財産没収、追放。全部クリア。ここからは、星野葵の第二の人生だ)
彼女の心に、屈辱や悲しみはほとんどなかった。あるのは「解放感」だった。形式的な貴族の義務、王太子妃教育、そして何よりも「悪役令嬢を演じ続けなければならない」という重圧から解き放たれた。
辺境の領地に到着したのは、王都を出て数日後のことだった。屋敷は荒れ果て、使用人もわずかしかいない。だが、リリアーナにとって、それは「自由」の象徴だった。
「よし。ここからは、誰にも邪魔されない私の時間だわ」
彼女は、もはや貴族の義務も、王太子への体裁も気にする必要がなくなったことに、一種の清々しさすら感じていた。




