Scene 7
乾いた風が吹き抜けるたび、色彩のない原野が微かに唸り声を上げる。鉛色に塗りつぶされた空の下、足元に広がるのは硬い土と砂利だけだ。遠くから響くレーテ川の水音だけが、この世界に時間が流れていることを辛うじて告げていた。
先導者であるヴィルギリウスは、灰色の外套を風にはためかせながら、静かに辺りを見渡していた。彼は、寒さに凍えるような様子を見せるスカーレットとウィリアムをその冷徹な視界に捉えると、微かに首を横に振った。
そして、圧倒的な静寂を切り裂くように、その重々しい声を響かせた。
「ここは行き先のない魂、あるいは――生まれそこなった魂の場所だ」
その言葉は、スカーレットの心臓を鷲掴みにするような衝撃をもたらした。
『生まれそこなった魂』。
その響きが、鋭い刃となって彼女の胸を抉った。
スカーレットは無意識のうちに、自身の腹部へと手を当てていた。そこにあるはずの、生命の温かみを探るように。だが、指先に触れるのは冷たい衣服の感触のみ。そこに脈打つべき生者の熱が、最初から存在していなかったことを、彼女は唐突に悟ってしまった。
言葉を失い、視線を足元の乾いた土へと落とす。
(私は「死んだ」のではない……)
恐ろしい予感が、冷たい確信となって全身を支配していく。
(恐らく私は、「生者の列」に並ぶことさえ許されなかったのだ)
頭上に広がる鉛色の空が、先刻よりも一層重く、彼女の細い肩にのしかかってくるようだった。
その時、隣にいた少年が動いた。
ウィリアムは乾いた風に震える体を無理やり奮い立たせ、ぎらついた目でヴィルギリウスを睨みつけた。痩せぎすの体から、魂を削るような怒号を絞り出す。
「黙れ! 俺はまだ終わっていない!」
その声は、絶望的な荒野に不似合いなほど熱く、演劇的な響きを帯びていた。
「こんな場所で、終わるはずがないんだ! 俺の物語は、まだ始まったばかりだ! ロンドンへ帰る! そして、世界を震わせる傑作を書き上げる! それまでは、死んでも死にきれない!」
ウィリアムの激情が迸る。それは単なる死への恐怖ではなく、未だ書かれざる物語への渇望、創造主としての執念だった。
彼の怒号が止むと、再び重苦しい静寂が辺獄を包み込んだ。
スカーレットは顔を上げ、不安げな瞳でヴィルギリウスを見つめた。ウィリアムの叫びは、まるで彼女とは別の世界の出来事のように響いていた。彼のように何かを強く求め、現世に執着する心が、自分には決定的に欠けている。
震える唇を開き、彼女は問いかけた。
「私は……一体、何なのでしょうか? 生きているとも、死んでいるとも言えない、この感覚は……」
(私は一体、何のためにここにいるのだろうか……)
その悲痛な問いかけに対し、ヴィルギリウスは表情一つ変えなかった。
ウィリアムの激情も、スカーレットの迷いも、彼はただ受け流すように静かに二人を見つめ続ける。その瞳は冷たく凪いでおり、言葉を発することはなかった。
その圧倒的な沈黙こそが、ここが不変の『辺獄』であるという事実を、残酷なまでに突きつけていた。




