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果てしないスカーレット  作者: 細田衛
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Scene 2

灰色に沈んだ世界は、どこまでも静寂に満ちていた。

目の前を流れる川の水面は、まるで油を流したように重く、緩やかだ。鉛色の水は、上流から運ばれてきた記憶の残骸――色褪せたボロ布や、ささくれた流木――を無言のまま運び去っていく。


スカーレットはゆっくりと手を伸ばした。

その白磁のような指先が、濡れた土の上に散らばる小石の一つを拾い上げる。

角の取れたその石の表面を、彼女は注意深く撫でた。指の腹に伝わる冷たく滑らかな感触。それは、霧のように掴みどころのない彼女の思考に、わずかながら確かな輪郭を与えてくれるようだった。

続いて、彼女は傍らに落ちていたボロ布をつまみ上げた。かつて誰かが纏っていたであろうその布は、いまや泥にまみれ、本来の色を失っている。粗い繊維の感触を指で確かめる。

(まずは、この手で触れられるものから……)

記憶の空白を埋めるように、彼女は目の前の現実を確認した。


スカーレットは視線を上げ、周囲の混沌とした岸辺を注意深く見渡した。

泥の中でもわずかに光を孕む破片や、手触りの良い石を探し求める。それらは無価値な瓦礫に過ぎないが、彼女の目には選ばれるべき宝石のように映った。

彼女は見つけた石を一つ一つ手に取り、その感触を慈しむように確かめてから、自分の足元の地面に丁寧に並べていった。

大きさ、形、わずかな色合いの濃淡。それらを考慮し、無秩序な風景の中に、自分だけの小さな秩序を作り出す。

一列に並んでいく石たちは、まるで意味のない文字列が詩へと昇華される過程のようだ。


並べ終えた石を、スカーレットはじっと見つめた。

その視線は、石の配置が生み出す静謐な調和に吸い込まれていく。彼女はゆっくりと目を閉じ、川の低い水音に意識を委ねた。

灰色一色の世界の中で、彼女が作り出したそのささやかな秩序だけが、ざわつく心をなぎにしていく。

(なぜこれほどまでに、安らぎを感じるのだろう)

無機質な石の列に、彼女は美しさを感じていた。過去の記憶は何一つ持たないはずなのに、この「調和」という概念だけは、魂の深淵が知っている気がする。


ふと、スカーレットの手が止まった。

閉じていた瞼を開き、ゆっくりと顔を上げる。

それまで単調な低音を奏でていた川の水音が、乱れていた。

油のように重たかった水面が、まるで釜の湯が沸騰するかのように、不自然に泡立ち始めている。ポコ、ポコ、と粘着質な音が静寂を侵食していく。

(ただの自然現象ではない……)

底知れぬ泥の闇から、何かが湧き上がってくるような不穏な気配。


スカーレットはゆっくりと立ち上がった。

全身の筋肉を緊張させ、ドレスの裾を握りしめて身構える。

沸き立つ泥の底から現れようとしているのは、流木でもボロ布でもなかった。

明らかに意思を持って動く、生物的な『何か』。

彼女はこの静寂な世界に這い出そうとする、自分以外の存在の正体を見極めようと、冷たい霧の中でじっと目を凝らした。

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