Scene 13
果てしなく続くと思われた辺獄の濃霧が、不意に晴れた。
しかし、その先に現れた光景は、スカーレットに安堵よりも深い困惑をもたらした。
灰色の荒野には似つかわしくない、悪趣味なほどに装飾過多な門が、彼らの行く手を遮るようにそびえ立っていたのである。黄金の蔓草模様、過剰な浮き彫り、意味もなく幾重にも重ねられたアーチ。それらは威厳というよりも、空虚な虚勢を塗り固めたかのように見えた。
スカーレットは思わず息を呑み、その威圧的な巨躯から逃れるように、一歩、また一歩と後ずさる。
(大きい……あまりにも、大きすぎる)
自らの両手をぎゅっと握りしめ、不安げな瞳で門を見上げる。この不気味な関所を越えなければ、両親の魂——ハムレットとオフィーリアの行方——を探す旅は続けられない。わかってはいるものの、本能的な恐怖が足をすくませる。この広大な灰色の世界で、自分という存在があまりに希薄で、頼りないものに感じられた。
さらに彼女を怯えさせたのは、門の奥から漏れ出してくる「音」だった。
優雅な宮廷音楽のようでありながら、どこか調子が狂い、不協和音を奏でる弦の響き。そして、人の話し声のようでいて、決して言葉としては結像しない、羽虫の羽音のような絶え間ないざわめき。
意味を持たない音の奔流は、スカーレットの鼓膜を不快に震わせ、生理的な嫌悪感を呼び起こす。彼女は耐えきれずに顔をしかめ、小さく身をすくませた。
「……なんだか、すごく嫌な音がします」
その音は、ただ耳障りなだけではない。意思の疎通を拒絶するような、底知れぬ空疎さを孕んでいた。
スカーレットは救いを求めるように、隣に立つウィリアムへと身を寄せた。
彼が纏う質素な上着の裾を、指先が白くなるほど強く握りしめる。冷たい辺獄の風の中で、彼だけが唯一の確かな存在であり、彼に触れている時だけが、かろうじて己の輪郭を保てるような気がした。
ウィリアムは、スカーレットが背中に縋り付く重みを感じながらも、その視線を門から逸らそうとはしなかった。
若き劇作家の瞳が、冷ややかな侮蔑の色を帯びて細められる。彼の耳にもまた、あの意味のない狂騒は届いているのだろう。彼は門の過剰な装飾と、そこから滲み出る腐臭ごとき欺瞞を忌々しげに見据え、眉間の皺を深くした。
「嫌な予感がする。ここは形式主義者の墓場だ」
低く吐き捨てられたその言葉は、詩的な響きを持ちながらも、氷のような冷徹さを秘めていた。
形式主義者の墓場。
その言葉の意味を完全に理解できたわけではない。けれど、スカーレットはウィリアムの背中に顔をうずめ、握りしめた裾にさらに力を込めた。
彼の言葉と、終わりのない不協和音が共鳴し、胸の奥底にある不安を掻き立てる。
この門の向こうには、物理的な危険よりもさらに恐ろしいもの——言葉が言葉として機能せず、心が形だけの儀礼に摩耗させられるような、意思の通じない地獄が待ち受けている。
スカーレットは小さく身を震わせながら、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ小鳥のように、ウィリアムの背後で息を潜めた。




