2話:A Lone Cat of the Edge,and a Kitty.
エルフには3つの世代がある。第一世代は始祖のエルフだ。西暦時代の後期に当時地球と呼ばれていた中央星系第三惑星からの大規模な移民が開始され、人類の大半は中央星系を抜けてはるか遠くへ旅立っていった。残された人類が私たちの先祖だ。そして、中央星系の外縁部、オールトの雲のなかでトラブルを起こして難破していた船があった。それが数万年の後発見され、なんとその船の中には生き残りがいた。仮死という形で時を止めていたのだ。それが第一世代のエルフだ。第一世代のエルフの女性はホモ・サピエンス=ヒトと交配ができ、そこで生まれたエルフが第二世代だ。第二世代とヒトの間にはヒトの子が生まれエルフは生まれなかった。しかし、そこから数百年たち、時折ヒトたちの子としてエルフの子が生まれるようになる。それが第三世代のエルフだ。ただし、第三世代エルフは悲劇とともに生まれる。その妊娠期間が通常の人のそれより長く約60週。そして早産ではエルフの子は生き延びられない。母体は消耗し、子を産み死ぬ。発展した医療でもそれを防ぐことはできていない。
母親たちは堕胎か死を覚悟して産むという倫理的な問題に直面することになる。
辺境星系に新しいエルフがやってきた。その名をシルフという。なんと第一世代のエルフだという。最近になって仮死が解かれたという。容姿は10歳前後の子供。男なのか女なのかは区別がつかない。今の世の中そうした中性的な人物に対してどちらか決めるのは失礼とされているのでそこには触れまい。
ここにやってきた当初のシルフは借りてきた猫のように大人しかったが、慣れるにしたがって元々もっていた好奇心を爆発させている。
そして、どういうわけか私がシルフの保護者ということになってしまった。その権限は今や辺境星系を管理・統治しているビッグシスターによるものだ。
「あら、いいじゃない。シルフくんはネコちゃんが面倒見てあげれば。」
そうして私がシルフの面倒をみるからにはゼロGカラテの手ほどきをすることになる。やらせてみたら、中々に筋がいい。いや、中々どころではない。おそらくその才能は私よりも優れているんじゃないかとすら思うほど。惜しむらくはシルフの肉体年齢はこれ以上成長しないということだ。そのことを知ったとき、私は正直ほっとした。
まず、シルフはものすごく物覚えが良い。私が型を見せるとあっという間に覚えてしまう。そしてその型に含まれている意味を正確に読み解く。その中には私が気が付いていなかった意味もあった。
シルフのゼロGカラテのその卓越した才能は特に0Gに近いときにあらわれる。無重力においては作用反作用の法則でちょっとした動きが思いがけない運動になってしまう。片手を上げたら体全体が回転してしまうという具合だ。これが複数の関節を動かすとその運動はカオス系となる。シルフはそのカオスとなった運動をいともたやすく収束することができる。
これはさらに実際に掴み合いになったときにはより顕著に表れる。コントロールできない相手の影響が無視できないからだ。しかし、シルフは相手の動きと自分の動きを同調させコントロールしてみせる。
どこで見つけてきたのか西暦時代の格闘技の映像をみてはその技を0Gで応用しようと研究などしている。ああして無邪気に遊んでいる様を見るのは実にほほえましいものだ。
最初は気乗りしなかったシルフとの生活だが、なんでも楽しそうに好奇心を向ける姿を見ていると私まで楽しくなってしまう。そんな日々が数十年続いた。
ある日のこと。シルフは突然、宇宙探査員になると言い出した。元来飽きっぽい性格のようで今の生活にも飽きてきたのだろう。好きにさせておくことにしたら、あれよあれよと試験は合格し、残す必要用件はゼロGカラテの経験だけだった。私はシルフにブラックベルトを取得すれば認めると言った。宇宙探査員の経験で求められるレベルは優に超えているが、私なりの意地悪だった。
ところが、シルフが真剣にゼロGカラテに向き合うとその才能を否定することはできず、ほんの数年でシルフにはブラックベルトを授けることになってしまった。私ですら元の道場でブラックベルトをもらうのに100年近い歳月をかけたというのに。
そうして、シルフは私のもとを去ってしまった。




